第11話
具同によれば、検査が続いているのだという。
「CTだかMRだか知らないけど、いろんな場所へ連れて行かれて、寝っころがったり立たされたり」
検査の様子をこんなふうに言うとは、具同らしい。
「でね、毎日血を取られて、病院は吸血鬼の回し者なんじゃないかと思うわ」
笑い返したところで、真剣な目で訊かれた。
「で、津村さくらはどうなったの?」
「それが」
「捕まえてくれたの?」
神楽は伊豆の遭難事故を話し、そして自分も疑問に感じ始めていると伝えた。
「ほうら、やっぱり。あんたがさっさと捕まえないから、また犠牲者が出たじゃないの!」
そう怒鳴ってから、具同は咳き込んだ。
「だいじょうぶですか!」
なんだか、嫌な感じだ。具同の病状は思っているより悪いんじゃないか。
「ちょっと待って」
そう言って、具同はサイドテーブルの上から水を取り上げると、ゆっくりと飲んだ。それから静かに息を吐く。
「ふう、だいじょうぶ」
深呼吸を終えて、具同は神楽に顔を向けた。
「あたしの杞憂は杞憂じゃなかったって、わかってくれた?」
「そうですね」
「で?」
「警察官として動くわけにはいきませんが、調べてみたくなりました」
「まず、あんたにやって欲しいのは」
おもむろに、具同は傍らのサイドテーブルの抽斗を開けた。
「これ、見て」
抽斗から取り出されたのは、ごく普通の大学ノートだった。
具同が頁を開く。
名前の羅列が目に飛び込んできた。どうやら、津村さくらとの接触で、亡くなった人たちの名前らしい。名前の横には亡くなった場所、そして年齢、経歴などが書かれてある。
「もう一度、亡くなった人たちを調べて、彼らにつながりがあるかどうかを調べて欲しいの」
津村さくらと接触し、亡くなった人との関係は調べてみる必要があるとは思っていた。だが、亡くなった人同士を調べてみるという視点は持っていなかった。
「ーー亡くなった人同士に、何かつながりがあると思うんですか」
「わかんない。だけど、津村さくらが彼らを選んだ理由が、必ずあると思うの。彼らに共通する何かを掴めば、津村さくらにたどり着ける気がする」
具同は断定している。津村さくらが殺人を犯したと。
もちろん、神楽も今、その方向で調べを進めようとは思っているが。
杳として行方がわからない、津村さくら。
この日本のどこかで、今日も生きているのだ。
その姿を想像しようとして、いまだ津村さくらの容貌を知らない自分にあらためて行き当った。
どんな女なんだろう。
津村さくらがコンビニで働いている頃の容貌を、ルリタテハのタツヤの彼の話からなんとなくは思い浮かべてはいたが、ぼんやりとしたものだ。
「どういう見た目の人なんでしょうね、津村さくらという女性は」
思わず口に出した。
「さあね。殺人鬼の知り合いなんかいないから、あたし」
具同はそう言って、目を閉じた。
きっと、疲れたのだ。
神楽は静かに病室を後にした。
の関係は調べてみる必要があるとは思ってい
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