第47話 メートル・ドテル 4
再びの軽い抵抗の後、結界から外へ。
口さえ開かなければ優秀な探索者なのだが。
「準備できたよ、
そして無言のまま結界内へするりと身を沈ませた。
吾輩や圭悟よりも侵入が上手い。
「さて。今日は何時間で戻って来るかな」
『前回、
吾輩の言葉に圭悟は肩を竦める。
「
後で赤槍から話を聞き、普通の探索者ならば絶対に発動させられない罠だと分かり安堵したのはいつだったか。
一時間以内に五十階層に到達し、且つ階層ボスを一撃で倒す、という条件は、彼奴ら以外には不可能だ。
彼奴らも日々レベルを上げている。
おそらくもう、初見のダンジョンで百階層に到るまでに二時間もかかることはあるまい。
「さて、新しい支部に必要な備品でも作りますか」
圭悟は更に増員された職員達に指示を出し、ビルが出来るまでの間の仮住まいの準備を進め始める。
銀剣からの報告に問題が無ければ、即座に探索者達にダンジョンは開放される。
噂を聞きつけ、徐々に探索者達も駐車場に集まりつつある。
昨日のうちにユニットハウス用の資材は本部を出発しており、現在ダンジョンのゲートからさほど離れていない位置で仮の支部を組み立て中だ。
この土地の使用についても昨日のうちに許可は得ている。
さすがに恒久的に支部ビルを建てる土地については買い取る必要があるため、そう簡単には話は進まない。
だが本部の職員達は優秀。吾輩にはわからぬ手練手管で土地を得ることだろう。
◇
銀剣は予想通り、一時間四十五分で地上に戻った。
既に辺りは夕闇に包まれ始めていたが、探索者の数は増えるばかりだ。
ゲート前で待機していた圭悟は時刻を気にすることなく銀剣に近づく。
「どうだった?」
銀剣は首を縦に振ることで答える。
異常無し。
「そ。じゃあ営業開始だ!」
圭悟の言葉を待っていた職員達は一斉に動き出し、完成したユニットハウスの一棟に探索者を招き入れ、入場手続きを開始する。
だが。
たった一人。
仮の受付窓口ではない方へ向かう男。
吾輩の勘だが、あの男に接触してはならぬ。妙な予感がする。
その男はダンジョン潜行を目的に集った探索者には見えなかった。武装していない。
偶然、道の駅を訪れた観光客の一人といった風情。
切羽詰まった様子で近くにいる協会職員に声を掛けた。
「さっき見たんです! 知りませんか、タカデラユウヤを!」
その声が届いたのが、吾輩だけならば良かった。
だが圭悟はゆっくりとそちらを振り返った。
圭悟に聞こえたのならば、当然、その隣の。
「……銀」
圭悟は困惑した様子で、隣に立つ銀剣を見遣る。
銀剣は動かない。けしてその男の方を見ない。
無言のまま圭悟に頭を下げ、そして自分の真横の空間を歪ませると、そのままその空間へ飛び込み姿を消す。
残された圭悟は、困ったように吾輩を見る。
「なあムサシ……どうしよ」
◇
新たなダンジョンの誕生に沸き立つ道の駅から数百キロ。
一定間隔で灯る街灯だけが存在する海岸線。
一時間以上走り続けていたヤマハのYZF−Rが、何も無い県道で停車する。
ヘルメットを乱暴に取り去り、革ジャンに革のパンツの短髪の小柄な男は大型のオートバイの傍らに座り込む。
しばらくの間そこで空を見上げ、そして
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