第46話 メートル・ドテル 3
駐車場の一角、日本探索者協会の名称がペインティングされた機体から、最初に降り立ったのは大型の白い狼。
続いて、スーツの男。遠目にも若いことがわかる。
最後に協会職員の制服を着用した女性が一人。
遠巻きにそれを眺めていた人々の中には、探索者協会についてある程度知識のある人間も含まれる。
消去法で。
あれが滅多に姿を見せない本部長。
想像より平凡。
だが威圧感は尋常ではない。
人々は思わず息を飲み、知らず知らずのうちに一歩、
◇
「本部長、【威圧】全開での登場は成功です」
側仕えのような役職の雌、
降りる時はまず【威圧】を広範囲に発動するように、との進言に、圭悟はしぶしぶ従った。
人をプロデュースするのは好きだが、自分には無頓着な圭悟はその演出を気恥ずかしがったのだ。
そもそも【威圧】は敵対するモノへ使用するスキルである。
民衆を怯えさせることに対し、「格好良い」や「恥ずかしい」は何か違うのだが、吾輩も圭悟が威厳ある姿を披露することに是非もない。
新たなダンジョンは年に一、二度生まれる為、吾輩も圭悟も今更動揺することはない。
初めてのことに浮足立っていた、近隣から集められた職員達は圭悟のその姿に落ち着きを取り戻し始めたようだった。
この雌、なかなかやるではないか。
おそらく日頃
結界前を陣取る仮面の男は、圭悟が目の前に立つまで微動だにせず正面を見据えていた。
「お疲れ、
声を掛けられたことで、
「じゃ、行くか」
銀剣は圭悟の進路を開けるように横に一歩。
吾輩は圭悟と共に結界の前に立つ。
洞窟のような小山を覆う、白色の透明感のある半球。
職員十人掛かりでの結界は、無断でダンジョンに侵入しようとする不心得な探索者に破られることのないよう、強固に編まれた特別製。
数時間前からこの状態を維持し続ける職員達に、圭悟は笑顔で「ご苦労様」と声を掛ける。
それを合図にするかのように、後ろに控えていた銀剣が、地面に立てていた自らの大剣の柄を掴み、鞘から抜くことなく結界にそれを当てる。
何の抵抗もなく、結界内に沈む大剣。
そしてそこを中心に一気に拡がる銀色の光。
すぐに光は収まり、それまでダンジョンの入口を映していた結界は、乳白色の半球に姿を変えている。
これで結界内の様子を見ることは外からは不可能となった。
これから起こることを見られては困る吾輩と圭悟の為に、銀剣が目隠しを施してくれた形だ。
銀剣はすぐにまた大剣を地面に立てると、再び正面を向き直り直立不動。
「行くよ、ムサシ」
吾輩を伴い、圭悟は結界内に入る。
侵入者を拒む、軽い抵抗。だが吾輩と圭悟にはこの程度の結界は無意味。
僅かに表皮がひりつく感覚の後、吾輩と圭悟は外部の音も遮断されたダンジョンの前に立った。
『圭悟、改札はこの位置で良いか?』
吾輩には二足歩行の人間に最適な位置取りがわからぬ。故に圭悟に設置位置を毎回確認している。
「うーん……もう少し後ろがいいかな。転送装置はあそこに置いた方がいいから、あんまり狭いと混むし」
改札機は形状からそう呼ばれているが、実際のところ、人間社会で使われている物とは異なり、機械仕掛けではない。
ダンジョンから漏れ出す魔力を動力源とし、金属に見える外殻も吾輩が魔力で実体化しているだけのもの。
昔、学生だった圭悟を迎えるために夕刻に
その記憶を元に構築したものがこの改札である。
いつもの要領で改札を二つ具現化し、一息吐き、すぐに圭悟の指定の場所に転送装置を設置。
装置と言っても、ただ硬貨の投入口があるだけの簡素な台座のみ。
あとはダンジョンが自ら自動的に五階層ごとにこれに連動する装置を作り出す。
原理はわからぬ。
ダンジョン自体が生き物なのかもしれぬが、吾輩にも圭悟にも答えは出ない。
わかっているのは、ダンジョンを常に攻略し続けねば世界が滅びることだけ。
『管理と言いつつ、何の役にも立っておらぬな』
「ダンジョンなんて意味のわからない存在、俺達にできることをやるしかないよ、ムサシ」
口を開けた洞窟。生温い風が吹き出す。新しいダンジョン。新しい未知の世界。
このゲートの奥、三階層にどんなモンスターがいるのかすら、吾輩は知ることができない。
最後に圭悟が改札に探索者証の認識能力と、協会のネットワークへの接続機能を付与し、作業は完了。
「さてと、銀が百階層まで様子見に行く間に、仮設の支部を作る準備をしないとな」
吾輩の背に触れ、圭悟は結界の外へと促す。
あまり時間を掛け過ぎると、堪え性のない銀剣が仮面姿で喋り出すかもしれぬ。
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