第14話 古竜の血 6
「しっかし、パーティ組むと【ドロップ全排出】も働くのな」
「経験値とSPに影響与えるのは知ってたけどねー、ドロップもかー」
何ですか、そのスキル。
俺の視線を感じたのか、怖そうな人がどこからともなく取り出した五百円玉十枚と百円玉十枚を俺の手に乗せる。
「モンスターから出る可能性のあるドロップがこれ。百円しか出ない時もあれば、五千円出る時もある。これはわかるだろ?」
「まあ、なんとなく……」
怖そうな人は俺の掌から百円玉一枚を、次に五百円玉十枚を掴む。
「普通はこの二十枚の中からランダムで何枚かが出る。運だ。で、俺達は、常にこの二十枚全部を出す」
一度小銭を俺の手に戻してから、怖そうな人は手の中の硬貨全てを掴む。
「普通は、この中から剣一本だけしか出ねぇとか、そもそも武器が一本も出ねぇことも有り得るわけだ」
そう言って足元の武器の山を指差す。
「俺達はそういうスキルがあるから、モンスターから根こそぎ奪える。今回、おまえにこれ全部遣りてぇからパーティ組んだ」
さっきの職員さんが何にあれほど動揺したのか知らないが、気持ちは少し分かる。常識外のことに出くわすと。
言葉、出ない。
そんな都合の良いスキルが在っていいんですか。
「あ、それとな! 全部のダンジョンのドラゴンに共通してんだけどよ、初討伐ん時に出る武器は、必ず成長武器なんだせ!」
成長武器。
レベルを持つ武器。使い続けることでどこまでも強化される、とどこかで聞いたような気もする。
俺には縁のない話だからうろ覚えだけれど。
「ええと……」
「あ、そっか。お前、【鑑定】持ってねぇのか。しょうがねぇな、手出せ」
差し出された手に恐る恐る自分の手を近付けると、強く握られた。
「ちょっと熱いけど気にすんな。……【スキル付与】」
怖そうな人が呟くと、俺の手が一気に熱を持った。
「ステータス見てみな。【鑑定】増えてんだろ?」
「はあ?」
意味がわからない。
わからないけれど言われるままステータスを表示させてみると。
NAME:
Lv.419
SP:50,902
スキル:
【速読】Lv.6
【剛腕】Lv.194
【時計】Lv.81
【俊足】Lv.58
【剣術】Lv.203
【地図】Lv.74
【自然治癒強化】Lv.25
【物理防御】Lv.17
【竜特効】Lv.1
【鑑定】Lv.1
本当に増えてる。
「レベル上げれば、ダンジョン産のアイテムもダンジョンに生えてる草も鑑定できるようになるから。ま、頑張んな」
俺が無言になったことで背中をバンバンと叩くけれど、聞きたいのはそんなことじゃない。
「いやあの……なんでスキル取得してるんですか」
「あん? 俺がスキルを付与したからだろ?」
もう少し詳しく。
俺に理解できるよう、どうにか説明してもらったところ。
「俺のポイント使って、俺が持ってるスキルを人に取得させんだよ。言っとくけど、取得可能レベルに達してないやつは無理だからな?」
「貴重なポイントを他人に!」
俺が今まで貯めたことがあるのは最高で千ポイント。
それでも今まで【鑑定】なんて見たことがないんだから、一体何ポイント必要なんだ、これ。
「うるせぇな。俺等はポイント有り余ってるからいいんだっつーの。それに【鑑定】なんざ、たったの50ポイントだぜ?」
そんなはずがない。
スキルは最低でも百ポイント無ければ取得できない。探索者でなくても知っている常識だ。
たったの五十で取れるスキルなど一つもない。
混乱する俺に、怖そうな人は面倒そうに言い放つ。
「俺達は、【スキル取得必要SP100分の1】持ってんだよ!」
この人達、無茶苦茶だ。
俺の中のダンジョンの常識が次々に崩壊して行く。
確実に今、俺の顔からは血の気が引いていると思う。
目に見えて顔色の悪い俺を無視し、変な人達は「さあ次だ、次」と盛り上がっている。
まだ何かあるんですか。
待って欲しい。
上がり過ぎたレベルや増え過ぎているスキルポイントの件もまだ咀嚼できていないんです。
俺のそんな切実な願いは、当然ながら叶わない。
「次は部屋を作るぞ!」
怖そうな人のその宣言の後、今度は笑みを浮かべた美形が俺の手を問答無用で握る。
先程感じたのと同じ熱。
それが終わると、『っす』の長身の人と入れ替わり、また手が熱くなる。
そして。
スキル:
【収納】Lv.1
【居室】Lv.1
悪夢だ。
低ランク探索者に実施される、憧れのスキルのアンケートで毎年上位にランクインする【収納】と【居室】が、何の苦労もせずに俺にくっついている。
「とりあえずレベルいくつまであればいいんだ?」
「最低でもミニキッチンとテーブル、ベッドにカウチは置きたいよねー」
「あのぉ……ロフト作って、寝る場所は上にすればスペース減るんじゃないっすか?」
「赤、それいいじゃん! バスルーム広くできる!」
「待て。野郎はそんな物は求めないはずだ。シャワー室で良いだろう」
ついでに俺を無視して俺の部屋の間取りが決められて行く。
なんだかもう、好きにしてくれて良いような、投げ遣りな気持ちになってきた。
「おいお前! 何でもいいから何か出し入れして【収納】を鍛えろ! レベル15まで上げろ!」
そんなに簡単にスキルレベルが上がるはずが。
言われるままに、とりあえず床に放置されている武具の一つを【収納】に入れ、すぐに取り出してみる。
【収納】Lv.2
いやそんな馬鹿な。
よくよくステータスを見ると、ここに来る前に登録されたパーティがまだ解除されていない。
Member:銀
名前がアレなので見ない振りをしていたのだけれど。
絶対に本名じゃないですよね、これ。
異様な早さでスキルレベルが上がるのも、この人の持っている何か非常識なスキルの影響なんだろうな、きっと。
今気がついたけれど、【剣術】と【剛腕】もおかしなレベルになっている。
「で。お前、犬派? 猫派? 鳥派?」
「は?」
部屋の間取りや内装で盛り上がっていたかと思えば、突然こちらを見て脈絡のない質問をする。
俺、本当に、話に追いつけていないんですけど。
「いいから選べ。お供はどれがいい?」
お供、のキーワードが、俺に突飛な発想をさせる。
まさかと思うけど【眷属】の話じゃないよね?
先程から散々、上級スキルを有無を言わさずに取得させて来た人達なら、次は【眷属】を出して来てもおかしくない。
そう思って覚悟を決めたと同時に、やはりと言うべきなのか、臍出しの人が手を差し出して来る。
スキル:
【眷属】Lv.1
予想が当たったとはしゃげばいいのか、分不相応だと項垂れれば良いのか。
「んで? 何派?」
「……鳥、好きです」
なんで俺、さっきから流されるように言いなりになっているんだろう。
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