第13話 古竜の血 5

 結論から言うと。

 俺のスキルに【竜特効】が生えた。

 竜種に対して攻撃を行うと、通常の一.五倍のダメージを与えられるというスキル。

 ドラゴンに止めを刺すと自動的に取得するらしい。


 ついでにレベルが四百を超えた。ランクAだ。

 更に。

 スカイブルーの差し色の入った若竹色の武具一式を貰った。


 貰える謂れがない。断ろうとしたら、全員に囲まれ説得された。

 自分達は氾濫現象で良い武器を手に入れたから必要ない、これはおまえの家族の為の投資だ、と。


     ◇


 怖そうな人が使ったコインは、信じられないことに百階層行きだった。


 転送装置のすぐ目の前にある扉を乱暴に開いた先に巨大な爬虫類の顔があったら、多分俺じゃなくても思考停止する。


 気配が既におかしい。目も合わせられない。呼吸の仕方を忘れそうだ。


 なのに、怖そうな人達は普通に部屋の中に進み、何の合図もなければ目配せ一つせず、五人同時に飛び立った。


 嘘、これもしかして【飛行】?


 つまり。

 この人達。


「……ランクシングル?」


 固まったまま見上げることしかできない俺に構うことなく、怖そうな人達は緑色のドラゴンの周りを囲むように位置取りを済ませた。


 浮いてる。【浮遊】と【飛行】の併用。

 人間って生身で空中戦ができるんだ。


 まず動いたのはへそ出しの人。金色の光を全身に纏いながら、ドラゴンの後ろ脚を蹴りつけた。


 ドラゴンは物理攻撃の殆どを弾くって本で読んだ。なのに、蹴られたドラゴンは僅かにバランスを崩す。

 力、強くない?


 それと同時に、一人がドラゴンの前足を何か紐のような物で一括りにし、別の一人が口の中に何かを投げつけドラゴンの顔付近で小さな爆発。


 倒れ込んだドラゴンの背中の上に怖そう人が降り立ち、何かを突き立てた。


 ドラゴンは大き過ぎる。倒れてもその背中は俺の目線より何メートルも高い位置にある。

 怖そうな人が何をしたのか、はっきりと見ることはできなかった。


 でも、それが決定打になったのか、ドラゴンは動きを止めた。


 この間、三秒。

 たった三秒でこの人達はドラゴンの動きを封じた。


 美形が俺の前に降り立ち、にこりと笑うと、俺の手を取る。しっかりと握られたと思ったら。

 軽い重力の抵抗。そして次の瞬間には、俺は目を閉じてほぼ動かないドラゴンの背中の上にいた。

 多分、俺を連れての【浮遊】か【飛行】。どちらも未経験なので、どっちだったのかはわからない。


 そして上で待っていた怖そうな人は、突き立てた太い杭のような物を指差し、一言。


「刺せ」


 えーと。

 ツヤツヤの分厚い鱗が何枚も重なる背中。俺の力ではそれ以上突き刺せる気がしないです。


 そんな俺の気持ちを読み取ってくれたのか、美形がどこからともなく青い杭打ちハンマーを取り出し、俺に手渡してくれた。


「これを振り下ろせば多分深く刺さると思うよー」


 多分、という辺りが若干不安。


 これ、思い切り振り下ろしたら手が痺れるやつだ。


 でも皆さん揃って俺を見て、ただじっと待っている。

 ドラゴンの背中で二人、空中で三人。視線がつらい。


 もうどうにでもなれ。


 俺は力の限り、ハンマーを杭に打ち付けた。


     ◇


 本当に申し訳ないが、ランクシングルと比較すると俺はとても非力だ。


 俺の力如きで、ドラゴンの硬そうな鱗をそう簡単に貫通できるはずがない。


 計七回、全力でハンマーを振った。多分、何ミリかは沈んだかもしれない。


「……埒明かねぇ」


 怖そうな人が舌打ちしながら、編上げのブーツの踵で杭を踏みつけると、信じられないほど簡単に杭は三十センチくらい沈む。


「こんなもんか? ほら、もう一回叩け」


 ランクの違いって、こういうとこに出るんだろうな。


 これで刺さらなかったらもう諦めてもらうしかない。ランクCにはどう頑張っても出来ないことがあるのだと。


 そう思ってハンマーを叩き付けた時、ほんの少しだけ手応えがあった。


 あ、これ、怖そうな人の足で硬い部分はもう通過してたんだ。

 筋肉か何か、鱗の下の部位をズルリと杭が突き進む感触が伝わった。


 それと同時に、ドラゴンは粒子になって消えた。

 突然空中に放り出された俺は、また美形が手を繋いでくれたことで床に落ちずに済んだ。


 ゆっくりと【浮遊】で着地した先には、ドロップ品の山が見える。


 一応、俺がとどめを刺したことになるらしい。

 とても納得がいかないけれども。

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