何時の日かあなたと
三鹿ショート
何時の日かあなたと
私は彼女に対して、恋愛感情を抱いている。
それを本人に伝えたことはないが、少なくとも私が彼女に対して友好的であるということは、私の言動から理解しているはずである。
そうでなければ、ほとんどの時間を私と共に行動するようなことはないからだ。
彼女の笑顔を間近で見ることができ、相談に乗ってほしいと頼られるということは、悪い気分では無かった。
そのような日々を過ごす中で、私は彼女との将来のためにと、貯金や自身の能力を向上させるということに余念がなかった。
もしも彼女が私と共に生きるということを決意してくれた際には、全力で支えようと決めていたのである。
現在は私以外の男性と交際をしていたとしても、最後に私が選ばれることが重要であるために、私の心が傷つくことはない。
だが、嫉妬しているのではないかと指摘されれば、間違いなく首肯を返すだろう。
***
恋人と喧嘩をしたという話を聞くと、今すぐに別れるべきだと告げたかったが、彼女がそのような答えを求めているわけではないということを、私は理解している。
恋人に対する不満を口にしてはいるが、その言葉の端々には、愛情を感ずることができるゆえに、私は彼女と恋人が仲直りをするための場を設けることにした。
敵に塩を送っているような状況だが、彼女が悲しむ姿を目にするくらいならば、このように行動するべきなのである。
その結果、彼女と恋人の仲がさらに深まり、やがて結婚することになったとしても、何時の日か離婚し、近くで支え続けていた私の存在に彼女が気付くことによって、私は彼女の愛情を独占することができるようになるのだ。
そのように考えなければ、他者の所有物と化している彼女の姿を見続けることなど、出来るわけがない。
***
彼女は離婚することなく、やがて娘が誕生した。
互いに年齢を重ねていったが、私は彼女の若さに惚れていたわけではないために、老人と化したときに私の想いが成就したとしても、何の問題も存在していない。
しかし、看過することができない問題が発生してしまった。
それは、彼女の娘が、私に対して好意を抱いているということである。
幼少の時分より面倒を見ていたことが影響したのか、結婚することができる年齢に達すると、彼女の娘は私に対して好意を伝えるようになってきた。
外見が彼女に瓜二つであり、夫に対する彼女の愛情が変化していないことを思えば、彼女の娘の恋情を受け入れた方が良いのかもしれない。
ただ、それはそれで、彼女の娘に対して、失礼な行為でもある。
恋愛感情を抱いている人間と一緒になることができないのならば、その相手と似ている人間で妥協するなど、たとえ彼女の娘が満足したとしても、自分が満足することはできないのだ。
それを認識しているゆえに、ふとした瞬間に、相手のことを心から愛しているわけではないということが、言動に表れてしまう可能性が存在する。
もしも彼女の娘がその姿を目にしたとき、どのような気分と化すのか、私には分かる。
だからこそ、彼女の娘の愛情を受け入れるわけにはいかなかったのである。
ゆえに、私は彼女の娘に対して、親のような態度で接するようにした。
彼女の娘が好意を伝えてきたとしても、それを異性に対する恋愛感情としてではなく、家族に対する愛情であると捉えることにしたのだ。
この行為を続けることによって、彼女の娘が諦めてくれることを、私は待ち続けた。
やがて、彼女の娘がとある男性と交際を開始したという話を聞いたときには、安堵したものである。
***
ある日、彼女の自宅へと向かうと、何故か玄関の扉が開いていた。
不用心だと考えながら中へと入った私は、己の目を疑った。
だが、どれだけ目を擦ろうとも、頬を何度も叩こうとも、彼女とその家族が何者かによってその生命を奪われているという現実が変わることはなかった。
室内が荒らされ、引き出しが漏れなく開けられているということから、どうやら強盗に襲われたらしい。
私は、然るべき機関に通報することも忘れ、動くことがなくなった彼女の手を握りしめながら、涙を流した。
このような結末を迎えることが分かっていたのならば、想いを伝えておくべきだった。
何時の日か、何時の日かと手を拱いていては、自分が望む未来を掴むことはできないのだ。
私は、己の選択を呪った。
呪いながらも、私の目は、彼女の身体に向いていた。
これから先、彼女と接触することができなくなってしまうのならば、今を逃してはならないのではないか。
そのように考えた瞬間、私は、自身の衣服に手をかけていた。
何時の日かあなたと 三鹿ショート @mijikashort
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