第9話:パーティーの準備
BMWの助手席のドアを開けた。
シートヒーターで温められた革のシートに身体を沈めた。高級感はあるが、車内が意外なほど汚い。
助手席の足元に捨ててある、空き缶やチリ屑などを靴の爪先で上手く避けながら、時候の挨拶をした。
清川真理は、うん、うん、と軽く聞き流しているようだった。
「今日は2人でクリスマスをやって、盛り上がろう!」
突然ハンドルを握りながら1人で宣言した。
クリスマスを行うのはいいが、問題なのは、盛り上がる、ということだった。木戸龍一はそんなにテンションは高くない。どちらかというと最悪の部類に入る。
今後の生活に不安を抱えているので、はしゃいでいる場合ではないのだ。今晩一緒に過ごす理由は、取引先から急に呼び出され、接待をする羽目になった営業マンというつもりでいた。
「あっ、はい」
木戸龍一は溜息にも似た返事を呟いた。
コンビニに車を停めた。
ショートケーキやビール、乾物、チーズ、果物などを、値段も確認することなく次々に買い物カゴに入れ始める。
その姿は店員が賞味期限の切れた食料品を売り場から下げるのと同じ手際だった。
木戸龍一は、誰がここの支払いをするべきなのか、社会通念に照らし合わせて考えてみた。普通、誘った方が払う。友人なら割り勘。先輩なら奢る。取引先なら、便宜を図る方はお金を払わない。
今回のケースは、私の方から、地上げをお願いしている訳ではないし、空き地に建築条件を付けさせろとお願いしている訳でもない。
専務の方も、施工主の住み替えで、中古となった空き家や空き地に専売を付けさせろとお願いされている訳でもない。
仕事上は何の利害関係もないイーブンだ。かといって友達という訳では断じてない。
先輩? 年齢はたしか4歳、私の方が上の筈だ、と思った。とても嫌な気持ちになる。
財布に幾らお金が入っていたのか思い出すが、そんなに持ち合わせが無いことだけは確かである。
不安が過る。
ATMはあるが、たかだかコンビニの支払いでお金を下すのは格好が悪い、と思いながら清川真理の後を着いて廻る。
「木戸さんも食べたいものカゴに入れていいよ、私が誘ったから、ここ私が払うからさ、さっきお金出して貰ったし……」
と言いながら、商品が詰まった買い物カゴを木戸龍一に渡す。
そして新しいカゴを手に取る。
多分、奢りだと感じていたけれど、はっきり言ってくれたので一抹の不安は露の如く消えていった。
しかし言葉の最後に、さっきお金出して貰った、と言ったが、フライドチキンを奢るとは一言も言っていないのだ。と細かな事を考えていると、もう一方の手にも商品が詰まった買い物カゴを持たされた。
また新しいカゴを手に取ろうとした。
もう食べきれませんよ、キャンプでも行くのですか? と伝えた。
清川真理はカゴの中を確認するかのように数秒見詰め、もういいか、と自分で自分を納得させた。
新しく手に持ちかけた買い物カゴを戻しながら、木戸龍一が両手に持っている買物カゴを、レジに持って行くように言われた。
コンビニの1回の買い物の合計金額は3万円弱だった。
公共料金などの支払いをしない、純粋な商品購入のみで、この金額になったことに木戸龍一は驚いていた。
清川真理の顔を見ると、想定内だったのか、ルイ・ヴィトンの大きな財布から1万円札を3枚、躊躇なくレジの前に出した。
財布の中身を覗いて見ると、10枚で1束にしている1万円札の束が、10束ぐらい入っていた。
やはり地場大手の清川不動産の専務取締役だ、私とは生まれた時から身分が違うと、木戸龍一は実感する。
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