第3話:会社ヤバイかも

 HEY、オレの安眠妨害する奴は誰だ、寝ながら目の動きだけで左右を確認したぜ。こんな器用な人間、人間超えてるんだ、ほとんどマジックの世界だよ。携帯プルプル震えて座卓で踊ってるぜ、悲鳴を上げてるぜ、どうした? ってガラパゴスに聞いてやったぜ、今時ガラケー使ってるけど何か不満ですか? ってドコモの店員に言ってやる。スマホじゃ無理だぜオレを満たしてくれない、電池なくなる、OR、電波弱い、OR、料金高い、ムダ、ムダ、無駄の最たるものだぜ、I LOVE、ガラケーだ。まだまだ騒いで悲鳴を上げてるガラケーが、オレの睡眠邪魔するヤツはみんな敵だぜ、AND、睡眠出来ない、まったく出来ない、睡眠出来なきゃ、明日働けないぜ。働けないってことは、SHE、日本の経済にとって大きな損失、国力衰退させる敵は誰かとガラケーに聞きたいぜ。液晶見ちゃうぜ。見ちゃったぜ。『我が社』って画面が主張してるぜ、我が社って誰だ名を名乗れ! THANK YOU。



 って我が社?


 我が社??


 我が社……

 

 我が社!


 

 会社から日曜日に連絡?!




「はい、もしもし木戸です。……左様でございますか……、はい、はい、 分かりました。……では明日、臨時早朝会議を午前七時から行うということで……。ご丁寧にありがとうございます」


 木戸龍一は大学を卒業し新卒者として、13年間ハウスメーカーに勤めている。

 

 業績は右肩下がりで、リストラとまではいかないが、諸手当のカットや給料の一律1割カットなどを行い、もう3年が経とうとしていた。

 

 希望退職者を常時募集している。

 

 退職金は一律200万円支給される。会社が倒産したら200万円どころか、給料すら貰えない。社員はみんな第二の人生をぼんやり考えながら働いている活力のない職場なのだ。


 35歳の独身なので、退職しても再就職先はまだある方の部類に入る。200万円が支給される今のうちに辞めた方がいい。

 ある日突然、会社の玄関口に、弁護士事務所の貼り紙が貼ってあったら最悪だよ、と勤労25歳、43歳、4人家族の、禿げ頭で見た目より10歳年上に見られる課長がいつも言うので、真剣に検討していた。


 どこの会社に勤めるとしても、経営に携われる訳ではないので、経営の実態は分からない。同じ過ちを繰り返すだけのような気がしていた。


 何か起業でもしようかと考えたが、200万円と貯金100万円と僅かな雇用保険金で始められる商売は、小さな飲食店くらいだと漠然と考えていた。

 常連のBARのマスターが、この業界も不景気のどん底で、みんな夜逃げ状態だ、と溜息まじりで語っていたので、躊躇ちゅうちょし、別の商売を模索していた。


 普段ゴシップ記事の週刊誌や漫画本しか読まなかったが、起業の可能性を見出す一環として、経済雑誌、ビジネス本、実用書の類を読み漁った。

 小説も何かのヒントになればと経済小説を読んだ。企業の裏の実体などが克明に分かり参考になる。

 また読んでみると時間を忘れ熱中した。気晴らしにもなり、何より休日の時間を1日潰せた。


 勤労意欲が湧かない営業の合間に、小説を読むのが習慣になった。


 もっと幅広く、ジャンルに関係なく読もうと思った。ネットで検索しても本屋のホームページに誘導され、売り上げランキングと、読者の偏った極端な感想しか分からなかった。

 出版社のホームページは、自社の出版本の宣伝しかなく、そのすべてで、形容詞ばかりが多い言葉が並び、褒め称えている。


 その時に、色んな作家が投稿している文藝誌があることを知ったのだ。新人賞を設けていることも知る。


 賞金が50万円から100万円もくれることに目を付けた。

 

 就職先の1つとして作家業も念頭に入れた。

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