第22話

 数百メートル歩き、ようやくコンビニを見つけた。

 店員に訊ねるも、空振り。

 当然だ。不確かな名前の建物を訊いて、答えられるはずがない。

 

 閑散とした住宅街に人通りは少なく、声をかける相手を見つけるまでに時間がかかる。のんびりとはしていられない。休みは三日しかもらっていないのだ。

 

 駅前に戻れば、人の数は増すだろうと、健介は踵を返した。いつしか日は中天に上り、思い出したように空腹を感じる。

 通りの反対側に地味な蕎麦屋を見つけて、ひとまず腹ごしらえをしようと思った。店の中で、店主や客に訊いてみるのもいい。


 しゃららんと店のドアが開く音がして、中から客が出てきた。客は二人。見覚えある青い作業服を着ている。

「あっ」

 思わず声を上げた健介は、反射的に走り出して、通りをやって来た車にクラクションを鳴らされた。あと数歩で轢かれるところだ。だが、けたたましいクラクションのおかげで、蕎麦屋から出てきた作業服の二人が、立ち止まってこちらに顔を向けてくれている。

 すみませんと車に向けて頭を下げ、通りを渡ると、健介は作業服の二人に走り寄った。


「ちょっと、お聞きしたいことが」

 はあはあと息を弾ませそう言った男を、二人組は怪訝な顔で見返した。

「あの、すみませんが」

 作業服の胸元を見た。陽工製作とある。

「陽工製作の方たちですね?」

 二人が怪訝な表情のまま頷く。

「これ、見てもらえませんか」

 健介はスマホの画面を、振り込め詐欺事件のニュース画面に変えると、二人にかざす。

「この、ここにですが、写っている人。陽工製作の方じゃありませんか」

 画面の中の猪鹿毛を、健介は指差した。

 

 健介のスマホに顔を寄せてきた一人が、ああと声を漏らした。

「瑛太じゃねえかな」

 すると、もう一人の白髪のほうが、

「瑛太だな」

と呟く。

「――瑛太。この人は瑛太というんですか」

「そうだけど。これ、あそこのアパートでオレオレ振り込め詐欺の犯人が捕まった事件のでしょ」

 健介は頷きながら、二人を交互に見た。

「この事件のことを知りたいんじゃないんですよ。この人、この瑛太っていう人を探してまして」

「瑛太を?」

 白髪頭のほうが、不審そうな目で健介を見返した。

「あんた、瑛太の親御さんかなんかですか」

 健介は曖昧に頷く。


「瑛太はうちにはもういないよ」

「いない?」

「いなくなっちゃったんだよ。三日ぐらい前かな」

 もう一方の男に同意を求める。

「いや、もうちょっと前じゃないか? こいつ、アルバイトだったんだけど、急にいなくなっちゃって」

「行く先は」

 二人は首を傾げた。

「わたしらにはわかりません。しゃべったこともあんまりなかったんで」

 よほど健介が落胆して見えたのだろう。白髪頭のほうが、同情するように言った。


「工場に行って奥さんに聞けばわかるかもしれないよ」

「そうだな。採用したのは奥さんだろうから」

 もう一方の男も、哀れんだ目を向けてくる。

 昼食を終えて仕事場に戻る二人に、健介は付いていくことになった。



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