第12話

「失礼します、お父様」

「おぉ!クレアか!入りなさい」


コンコンコンとノックをして、お父様からの返事を確認し、扉を開けて部屋の中へと足を踏み入れる。

生まれ変わってから初めて訪れる場所であることには間違いがないのだけれど、私は本能的に感じられた。

この部屋の暖かさ、温もり、そして心地よさ。

それは体感温度がどうというものではなくて、心で感じられるぬくもり。

やっぱり私は、お父様から大きな愛情を授けられ育てられてきたのだろうと思う。


「急に呼び出してすまないね、何分突然の話だったものでな…」


頭をポリポリと書きながら、机に向かう中年男性が苦笑いを浮かべながらそう言った。

この人が新しい私のお父様なのだと思うと、なんだか不思議な感じがする。

体が変わったせいで心も少し変わっているのか、私の本能的にはこのお父様が本当のお父様であるように思える。

もちろん、前のお父様への気持ちを忘れたわけじゃないけれど。


「問題ありませんよ、お父様。…それで、話というのは?」

「あぁ、実は私宛てに手紙が届いたんだ。……内容を聞いて驚くなよ?前に舞踏会に参加した君の姿を見て、ぜひとも一緒に食事をしたいという人物がいるんだ!」

「わ、私なんかをお誘いになるような方が…」


死神さん曰く、この新しい自分は迫害を受けなかった世界線の私らしい。

なら本当の私は、普通に男性と一緒に食事に行ったり、普通にデートをしたりする人生を送ることができていたらしい。

…どうしても迫害されていた前の自分を思い出して、いまだに信じられない思いだけれど…。


「それも相手がすごいぞ……!なんと、差出人はあのジーク伯爵様だ!」

「ジ、ジーク様…」


名前を聞くだけでもよみがえる、彼にされた数々の行為…。

私の心を踏みにじって、散々もてあそんで、その果てに笑いながら私の事を処刑した、絶対に忘れられない最後の姿…。


「ジーク伯爵様と言えば、美しい容姿でありながらその能力も優秀、周囲の人々からは例外なく尊敬のまなざしで見つめられる存在だと聞いている!…我々地方貴族になど全く縁のないお方だと思っていたが、まさかこんなきっかけで巡り合えるなど…!」


ジーク伯爵様からの手紙に、興奮を隠せない様子のお父様。

でも、それも無理のない話。

自分とは住む世界が違うと思っていた人から突然声をかけられたら、誰だって同じ反応になると思う。

しかもお父様はただそれだけじゃなくって、本当に私の事を思ってくれているからこそこんな反応をしているのだと思う。

欠点なんて何もないように見えるジーク伯爵様からのお誘い。

私にこんな手紙が送られたことを知ったら、この国中の女性たちは心の底から私に嫉妬心を抱くことでしょう。

距離を縮めることを妨害してくる人だっていることでしょう。

だけれど、私は彼に復讐をするために生まれ変わった身。

私が出すべき答えはもう決まっている。


「…大丈夫かいクレア?」

「大丈夫ですよお父様。突然の事で、私も驚いてしまっただけです。ジーク伯爵様には、こう返答してください」



「そのお誘い、喜んでお受けいたします、と」

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