第13話

「よし分かった!ジーク伯爵様には私の方から返事をしておくよ!きっと伯爵様も喜ばれることだろう!よかったね、クレア!」


心の底から嬉しそうな表情を、お父様は見せてくれる。

そんな明るい表情を見みせられると、私もなんだかうれしくなってしまう。

けれど、ごめんなさい…。

これはお父様が願っているような、明るくて幸せにあふれたお話ではないの…。


「これはきっと、エルザが導いてくれた運命に違いないよ…!彼女は生前、君の将来の事を何よりも思っていたから…」


エルザ、それはこの世界における私のお母様の名前らしい。

自分の部屋を出るとき、壁に立てかけられていたイラストが目に入った。

そこには仲睦まじい3人の家族の姿が描かれていて、端には名前も書かれていた。

父デビット、母エルザ、そしてクレア、と。

お父様の机の上にも、いくつか家族のイラストがたてかけられていた。

けれどそのどれも、お母様は若い姿のまま。

…さきほどのお父様の言葉と合わせて考えれば、それが意味するのはきっと、私のお母様は若くして亡くなったという事なのだろう。


死神さんに言われたことを、私はもう一度思い出す。

生まれ変わった私自身は幸せになることはない上、私の周りの人たちもまた幸せにはなれないという、あの言葉。

このまま私がずっとここにいてしまったら、お父様やサリナ、召し使いの人たちを巻き込んで不幸にしてしまうことになる。

こんなにも私の事を愛してくれている人たちにそんな思いは、絶対にさせられない。


そしてそれを裏返せば、私が関係を望んだ相手は不幸にさせることができるということになる。

私がジーク伯爵様と親しい関係になったなら、彼本人はもちろんの事彼の周りの人物も一緒に不幸にできることになる。

…まるで呪いのような内容だけれど、死神さんと契約するにはふさわしいもののように感じられた。


「…クレア??何か考え事かい?」


思わず考え込んでしまった私。

それを不思議に思ったのかお父様が優しい口調で話しかけてくださった。


「も、もしかしてあまり気が進まない話だったかい?それなら無理に応じる必要はないよ?もしも僕に気遣って返事をしてくれたのなら、そんなものはいらないとも」


優しく温かいその口調に、私は思わず笑みがこぼれてしまう。


「ふふ…。大丈夫ですよお父様。あまりに夢のようなお誘いですので、いまだに驚きを隠せないだけです。さぁ、ジーク伯爵様とお会いできる日が今から楽しみでございますね♪」

「そ、そうかい?それならいいのだけれど…」


…もしもこの先、私がいなくなった後、お父様やサリナはどう思うのだろう?

私はここに長くいるわけにはいかないし、離れた後だってあまり積極的にかかわっていたらなにかよくない影響をもたらしてしまうかもしれない。

それはつまり、遠くない未来にお父様やサリナとはお別れをしないといけないということになる…。


「それじゃあクレア、あとの事は私に任せておいてくれ!もう戻ってくれて大丈夫だよ」


その答えは出ないまま、私はお父様の部屋を後にするしかなかった。

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