第11話

「っ!?」


次に気が付いた時には、私はどこかのお屋敷の椅子に腰かけていた。

目の前には大きな鏡があって、椅子に腰かける自分の姿がよく見える。

…真新しいその顔に違和感を感じずにはいられないけれど、もともと自分の顔なんて意識してみてきたことはなかったので、すぐに受け入れられそうな気がする。


「クレアお嬢様、もう少しで終わりますので、今しばらくお待ちくださいませ」

「っ!?」


突然聞こえてきたその声にびっくりしてしまったけれど、なんとかそれを表に出さないよう頑張った。

私の後ろには誰かもう一人の女性が立っていて、どうやら私の髪の毛をくしで整えてくれている様子。

ちらっと見えた服装からして、召し使いのようだった。


「クレア様は貴族家の令嬢様なのですから、髪の毛は常に美しくしておかないと♪」


彼女は上機嫌にそう言いながら、慣れた手つきで私の髪をとかしていく。

今までにそんなことをされた経験は一度もなかったから、なんだかくすぐったくかんじられた。

けれど、このまま黙っていては不自然すぎる…。私はまだ慣れない体でありながらも、頑張って口を開いてみることにした。


「…あなたは今年で、ここにきて何年目になるのだったかしら?」

「えぇっと…。クレア様のご年齢プラス1年ですから、19年ほどになりますかね?時間がたつの早いものです♪」


その言葉をきっかけにしていろいろな思い出がよみがえってきたのか、彼女はそのまま言葉をつづけた。


「なつかしいですね…。クレア様が無事にお生まれになった時の旦那様と奥様のご様子、私サリナはいまでもはっきりと覚えております。それはそれは大騒ぎでもう大変でございました。…まぁ、お二人とも今もあまり昔と変わってはおられないのですけれど♪」


彼女の口調から私は察した。きっと私は望まれて生まれてきて、今まで大きな愛をかけられて育てられてきたのだろう。…人々からさげすまれ続けたミレーナとは正反対に…。


「はい!これでばっちりです!今日もお美しいですよ、クレア様!」


彼女の言葉を聞いて、私は再び鏡の方へと視線を移す。

…確かに、自分でも信じられないほど麗しくて、可愛らしい女の子の姿がそこにはあった。…転生してきた自分には、とてももったいないくらいの姿が…。


「今日もありがとう、サリナ。もう眠ってしまいそうになるくらい、相変わらずの手際の良さだったわ」

「いえいえ♪あ、そういえば旦那様がクレア様の事をお呼びになっておられましたよ?」

「わかったわ」


私はサリナとの会話を終えると、そのまま彼女に別れを告げて自分の部屋を後にした。

彼女と会話をしたおかげなのか、見知らぬ屋敷の中でありながらも、うっすらとこの世界での記憶が脳裏によみがえり始めた。

絶対に私が歩んできた道ではないのに、記憶だけは感じられるというのは、なんとも不思議な感覚だった。

私はそのまま廊下を歩いていくと、私にとってのお父様、このお屋敷における旦那様の部屋の前にたどり着く。

初対面だけれど初対面ではないお父様に会うべく、私は扉にノックをした。

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