第4話
「伯爵様、やってもらわなければいけない仕事が山積みです!!はやくしてください!!」
「はいはい、わかりましたよっと…」
ジーク伯爵は仕事に厳しい部下であるジャックに詰められ、強制的に机に座らされ仕事に向き合わされていた。
仕事において一切の妥協を許さないジャックの前では、たとえ伯爵といえども一切逆らえない様子…。
「…じゃ、ジャック、少しだけ休憩させてくれ…。今まで休みなしでやってきたんだから、少しくらい構わないだろう?」
「はぁ…。まぁ、仕方ありませんね。ですが伯爵様、もしも逃げ出したりしたら後から罰を受けていただきますからね?」
「はいはい、わかってますよ…」
ジャックからの忠告を伯爵は苦笑いで流しながら、机を立って部屋から退出していった。
彼がどこに向かったのかは、誰の目にも明らかである。
ジャックもきっと、それならばかまわないという考えで休憩を許したのだろう。
――――
伯爵は元いた仕事部屋からは少し離れた位置にある、ミレーナの部屋を訪れた。
「お仕事お疲れ様です、伯爵様♪」
「あぁ、ありがとうミレーナ。(ふむふむ、この彼女の様子を見るに、これはもう完全に僕の婚約者になって幸せになれると信じ切っている様子だな♪)」
自分の前に現れた伯爵の姿を見て、心から嬉しそうな表情を浮かべるミレーナ。
そんな彼女の姿は、ジークの目にはきっと笑いが出そうになるほど面白いものに見えたことだろう。
だからこそ伯爵は、これまで以上に彼女の心を自分のもとに引き寄せようと考えた。
「…ねぇミレーナ。今日は一緒にここを抜け出して、買い物にでも行かないかい?そろそろ新しい洋服をプレゼントしたいと思っていたんだ」
「そ、それはうれしいのですけれど…。でも、黙って抜け出したりしたら、大変なことになるんじゃ…」
「まぁその時はその時だとも!毎日ここで同じ生活を送っていたら、ミレーナだって気持ちが沈んでしまうだろう?ねぇ、行こう!」
悪気など一切感じられないようにしか見えない伯爵のふるまい。
ミレーナはそんな伯爵の言葉を聞き、うれしさのあまり笑みを隠せなかった。
「そうですね、たまにはいいかもしれませんね!」
「よし!それじゃあ早速…!」
ばれたら危険な経験という意味では、ミレーナは人並み以上の経験をしてきた。
正体を隠して外に出たり、買い物に行ったり、誰かに会いに行くということは、迫害を受ける彼女にとってはばれてしまったらただでは済まないものだった。
けれどこのような、愛情からくるばれると危険な経験は、彼女にとって初めてのものだった。
当然、彼女にそれを断る理由などなかったことだろう。
それどころか、非日常的な経験ができることに胸を躍らせてさえいたかもしれない。
二人は監視の目を盗んで、そろって屋敷から脱出し、目当てのお店を目指して出発していったのだった。
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