第3話
ジーク伯爵様によって築き上げられた私たちの婚約関係。
私は彼との婚約を結んでからしばらくの間は、やはりこれは夢なんじゃないだろうかという不安がぬぐえなかった。
けれどその不安は、時間とともに解消されていった。
伯爵様は毎日のように私にまばゆい笑顔を見せてくれて、温かい口調で話しかけてくれて、私の体の事も気遣ってくれた。
家族を除けば、今まで誰からもそんな愛情を向けられることのなかった私には、その優しさは薬のように全身に広まっていって、心が温かい感情で満たされる感覚を覚えた。
今まで全くの無縁だったから考えもしなかったけれど、これが”幸せ”という感情なんだと、気づくことができた。
その気持ちに気づいてしまったなら、不安の気持ちが消えていくことなんて簡単なことだった。
ここまで私を気遣ってくれる伯爵様の気持ちが、嘘であるはずがない。
もしも伯爵様が私の事を快く思っていないのなら、決してあんな優しい言葉をかけてくれることはないだろうし、私に寄り添ってくれることもないのだから。
「…ジーク様…」
私はジーク様からプレゼントされたアクセサリーを両手で包み込むように持ち、その輝きを見つめていた。
伯爵様はこれを、「二人の真実の愛の証」としてプレゼントしてくださった。
これを見るたび、私は一段と体が熱くなる感覚を感じていた。
彼の名前を口にするたび、心がほかほかと温かくなる感覚を感じていた。
これまで凍えきっていた私の心が、心地よく溶けだしていくような感覚だった。
伯爵様は今、お仕事の関係者と話をされていて、私のもとにはいない。名前は……グリードさんといったかな…?
伯爵様はまじめなお人だから、きっと臣民の人たちを喜ばせる方法を考えておられるのだろう。
…と、十中八九お仕事の話をされているのは間違いないけれど、もしかしたら私の事を話してくれているんじゃないかと期待してしまう。
伯爵様が真実の愛と言ってくださった私たちの関係、それがどれほど心地のよいものかをみんなに話して回っているところを想像したら、なんだかその場にいない私まで恥ずかしくなってしまう…。
…まぁ、伯爵様は本当にまじめなお人だから、そんなことはないのだろうけれど…。
…ふと、私は部屋の外の廊下の方に目をやった。
ここは伯爵様のお屋敷だから、位の高い人々がよくこの廊下を通っていく。
それは今日とて例外ではないのだけれど、少し様子が違っていた…。
「…それは……楽しみだな……最後に……表情を……」
「まさか……処刑……そこまで……」
とぎれとぎれにしか声は聞こえないけれど、部屋を横切る人たちはみんななんだか楽しそうな表情を浮かべていた。
きっとこれも、伯爵様の尽力ゆえなのだろう。
私は婚約者として彼の足を引っ張らないよう、一生懸命彼の事を支えようと誓ったのだった。
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