第2話

ミレーナが席を外したジーク伯爵の部屋のもとに、一人の男が現れた。

彼の名前はグリードと言い、伯爵とは長年の付き合いである。


「ジーク、いったい何の冗談なんだ。ミレーナと婚約をするなどと」


グリードは語気を強め、やや怒りを感じさせる口調でそう言った。


「まぁそう焦るなグリード。話せばわかるとも」

「何がわかるというんだ。もうミレーナの肉親たちはみな他界していて、残すはあいつのみじゃないか。さっさと処刑してしまった方がいいに決まっている。魔女の血が流れるような気色の悪い女をこのまま自由に生かしておくことなどありえないだろう?」


ミレーナの父親は優しい人物で、ことあるごとに責められるミレーナのことをよくかばっていた。しかしその心労がたたったのか、若くしてこの世を去ってしまった。

そしてその影響があったのか、彼女の母親もまた父親の他界からあまり時間を経ずして、静かにこの世を去ってしまった。

ゆえに、すでにミレーナに近しい人物はだれもいなくなっていた。


「くくく…。だからこそだろう?もう残すは彼女のみなんだ。せっかくの最後の一人であるというのに、簡単に処分してしまったら面白くもないだろう?どうせなら、これまでに彼女が味わったことのないほどの幸せを目の前にちらつかせて、それをつかみかけたところで地獄に叩き落そうじゃないか。その方が何倍も面白いとも♪」

「そんな面倒なことを……。やつを自由にさせたことでなにか不利益がでたら、どう責任をとるつもりだ?」

「心配するな、むしろそれは逆だ。最終的にミレーナを処刑する準備はもうすでに整えてある。僕はこれから彼女がどんな最期を迎えていくのかを、貴族の連中とともに眺めようと思っている。なかなかに面白い催しになるとは思わないか?この催しを通じて、貴族連中との関係もこれまで以上によくなるに決まっている♪」


ジークは自身の考えをうきうきとした様子で披露した。

それを聞いたグリードは、あくまでミレーナはすぐに処理するべきだという考えを改めることこそなかったものの、ジークの考えに一定の理解を示した様子だった。


「はぁ…。それで、結局これからどうするつもりなんだ?」

「さっき言っただろう?一度は幸せをつかませかけるんだよ。僕の予想だが、彼女はいまだに自分の身に起こっていることが信じられていないように見える。だからこそ、この現実が間違いなく自分のものだと思わせなければならない」

「そんなもんかねぇ…」

「今ここミレーナを処刑したとて、ミレーナは「どうせそうなると思ってたと」言うことだろう。彼女を心から信じ切らせるまで、付き合ってやろうじゃないか♪」


ジークはミレーナの事を、ただの暇つぶしのおもちゃとしか思っていないのだった…。

そしてそんなジークの事をミレーナは受け入れ、愛し始めつつあったのだった…。

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