婚約者である私の事を処刑しておいて、今になってやっぱり私の事が好きだと?

大舟

第1話

「心配いらないよミレーナ!すべてこの僕に任せてくれればいい!君の事を悪く言う人間がいたなら、君の婚約者であり、伯爵でもあるこの僕がその人間をこらしめてくれようとも!」


優しい口調で私にそう話しかけてくださるのは、私を婚約者としてくださったジーク伯爵様。

彼は高身長でスタイルが良く、それでいて整った顔立ちをしていた。さらに若くして伯爵の地位につき、貴族家としての一面も併せ持っていた。彼とすれ違う女性たちはみな、間違いなく彼と結ばれたいとその心のに願うことだろう。

一方の私は、今年で18歳を迎えるただの女。けれど、この18年間の思い出は目をそむけたくなることばかりだった。

私は小さな地方貴族の令嬢として生まれた。

それだけ聞くと悪くない生まれだと思われるかもしれないけれど、私は今まで自分の体に流れる血が原因で多くの人々から迫害を受けてきた。

私も、私もお父様もお母様も、さらにその先祖の人々に至っても、誰もなにも悪いことなんてしていないのに、私の体には魔女の血が流れていると言いがかりをつけられては、毎日のように周囲の人々から痛めつけられてきた。

この生活はもう一生、死ぬまで続くんだと思っていた。

けれどそんな私に手を差し伸べてくれたのが、今目の前にいるジーク様だった。


「どうしたのミレーナ?なにか心配なことでもあるのかい?」

「…ジーク様、本当に私などがあなた様の婚約相手でいいのでしょうか…?」

「なんだそんなことか。…いいかい、君は今ままで、弱音のひとつも吐かずに十分苦しみ続けてきたじゃないか。それはもう、目を背けて人生をあきらめてしまいたくなるほどに…。だけれど、僕はそんな君こそ、幸せになる権利はあると思うんだ。そしてその隣には、この僕が立っていたい。…そう思うのは、不思議なことだろうか?」

「い、いえそんな!ただ、私にはもったいないお言葉だと思って…」


今まで恋人はおろか、友人の一人もできたことはなかった。

でも、それも無理のない話。私なんかに好意を持たれたなら、相手からしたらきっと吐き出しそうになるくらい心地の悪いことだろうから。

けれどジーク様は、そんなことお構いなしといった様子で私のことを受け入れてくださった。

まさか自分が婚約を、それも伯爵位の貴族様と婚約できるなんて、想像だにしていなかった。

だからこそ私も、自分の心に強く誓った。絶対にこの人に好かれ続けるような、魅力的な女性であり続けようと。


けれど同時に、どうしても私の心の中には現実を信じられない思いがあった。

今までが今までだっただけに、こんなシンデレラストーリーが突然私の人生に訪れるなんて、とてもじゃないけど本当だと思えない。

心配のし過ぎだと言われたらそれまでだけれど、私はどこか直感的にその不安をぬぐえないでいた。


…そしてその不安は、後に現実のものになってしまった。

私はほかでもない、このジーク様によって処刑されることになるのだから…。

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