一章最終話『異世界召喚の真実』

 俺は女神テレジアに異世界召喚されてから異世界アルガイアで経験したことを家族に話した。

 母さんは所々でつらかったね、などといってハンカチを持って泣き続けている。母さんってほんと涙もろいよね。

 父さんに至っては一言一区聞き逃さないようにしつつ、疑問があれば質問をして俺が答える形になった。異世界アルガイアでの話になるとどうしてもメティアの事も話さずにはいられないのでやむを得ず紹介する羽目になってしまったのだが。


《お義父様、お義母様。改めましてご挨拶させていただきます。頼経いえ義友さんの妻です》

「言うと思ったわ、バカ!! 結婚してないからな」

『あらあら、そうなのですか。お赤飯が必要だとおもって焦っちゃいましたね』

「ちなみに婚約もしてないし、恋人関係でもないから」

《――先回り否定された!?》

『でも息がぴったりなのですね。熟年夫婦の貫禄があります』

《お母様いい人だあ》


 メティアがキラキラした瞳で妃美華母さんに傾倒し始めている。

 真一しんいち父さんはメティアに向かって改めて頭を下げる。


『メティアさん、息子を守ってくれてありがとう。これからも力になってやって欲しい』

《まかせてください。義友さんは全力で一生私が隣で守りますので》

「……意地でも結婚を申し込む空気にする気だな」


 話が所々逸れたりしつつも話は進み、今度は俺が尋ねてみる。


「それにしてもどうして俺の事を覚えてるんだ? 地球では存在ごと消されたと聞いてたんだが」

『実際そうなっていましたね。ただ、かのんちゃんは覚えていたのですよ』


 頬を抑えて母さんはしかし、表情が優れない。

 父さんも苦渋の表情だ。


『かのんには申し訳ないことをした。自分だけが世界で兄を覚えている。家族に相談しても信じてもらえない。ならば義友を慕っていたかのんが世界に取り残されたような心境だっただろう。どれほど嘆き悲しんだことか……』


 おそらくかのんは俺の事を父さんたちに相談したのだろう。だが信じてもらえなかった。そのときのかのんの絶望を思うとどうしようもなく悔しさがこみ上げる。

 つらかっただろうに。なのに俺は当時帰還を諦めてしまった。それがまた罪悪感を深くしていく。


『でもお母さんはすごいんだよ。記憶や痕跡がなくなっても私の話を信じる努力をしてくれたの。だから、気づいてもらえたんだよ』

「一体どうやって?」

『ふふ、義友ちゃんは私が物理学者だということを知ってますか』

「ああ、アメリカの研究機関と共同で仕事してたとか」

『ええ、その通りです。本当は極秘の研究なのでここだけの話ですよ。未知のレアメタルで【ナノスピリティアタイト】を用いた【NS式縮退炉】を開発しました。これで時空を超えて別宇宙に探査機を送ったり、外から地球を観測したりしていたわけです。それで、義友ちゃんの存在が抹消された痕跡を発見しました』


 どうも話を聞くと【ナノスピリティアタイト】はアルガイアの世界のナノ精霊神銀粒子や精霊結晶に近い鉱石らしい。つまり、精霊式のナノマシン鉱石といったところなのだろう。

 そして、【NS式縮退炉】は精霊ナノマシンを制御して疑似ブラックホールを運用する動力機関ということらしい。ちなみにこの馬鹿でかい要塞級戦艦【アイギス】にもその動力が使われている。母さんが【アイギス】に乗っているのはマギカセイブの技術開発主任だから、というわけ。

 しっかし、縮退炉とかマジか。母さん極秘でやべえ研究してたんだな。




『…………そして、観測による量子理論の影響を応用し、ゆがめられた義友ちゃんの存在を確定定着、矯正して一部の人は思い出すことに成功したというわけですね』

「なるほど、難しすぎておそらく一割も理解出来ないけど母さんがどうにかして思い出してくれた事だけはわかった。ありがとう」

『うふふ、家族ですもの、当然です。そして、

 ――私から家族を拉致したクソ女神テレジアはただじゃおかない。見つけ出してぶち殺してあげます』


 ヒエッ、めっちゃ怖いんだけど。目が完全にすわってるんだけど。

 父さんはせきばらいしつつ室内の壁に設置された巨体モニターを起動した。


『お前も本艦に向かう途中で廃墟を見ただろう。現在の地球は異世界からの侵略を受けている。義友がいる世界の災厄の使徒とおそらく同じと思われるが……ここでの断定は避けよう』

『当初人の負の感情を糧に精神に寄生してテロ行為を行う者が急増し、世界の治安情勢が急速に悪化した。そうして人間から力を蓄えると野生の獣に乗り移り魔物となった。それらを率いる異形が【サイヤーク】という組織を名乗り人類に牙をむいたのだ』


 モニターには世界地図が表示され、ヨーロッパ、北アメリカ、中央アジアから赤いサイヤークの勢力を示すマーカーが広がっていく。


『サイヤークの侵攻によって最初の半年で人類の犠牲者はおよそ5億人。人類の生存圏20パーセントが奴らに奪われた。その後も、疫病や天災級の異常気象等も重なり現在人類の人口は50億を下回っている。これに対抗するため世界は手を結び地球連邦を発足。多国籍連合軍となる【地球連邦軍】が結成された』

「はっ?」


 あまりの事に俺は間抜けな声を上げてしまった。


『サイヤークは上位の個体になるほど不可視の障壁を纏っており、通常の現代兵器がほとんど通用しない』


 モニターにはいくつかの戦闘記録映像が表示され、イノシシ型の魔物相手に自衛隊による【89式5,56㎜小銃】の銃撃が弾かれ、手も足も出ない様子が表示される。

 銃弾が通じないのはおそらくルインオーラによる障壁のせいだろうな。

 サイヤークの魔物に対して町への被害を度外視した戦車による面制圧でようやく撃退している。現代日本でこのような戦い方が行われるとは信じられない光景だ。

 さらに衝撃的な映像が続く。


『特に人型の上位種はトマホークミサイルの直撃にも耐える個体が存在する。万策尽きた米軍は……』

「正気かよ」


 核ミサイルによる攻撃が行われ、轟音と爆発によるキノコ雲が立ち上っていく。

 核攻撃が行われたのだ。幸いこの映像は海上におびき寄せられた上で行われたが大都市でおこなわれたらと思えばぞっとする。


『そんな中で人類の希望となる存在が現れた。魔法少女と呼ばれる存在だ。奴らは魔法少女の神聖な魔法力による攻撃に弱く多くの人々を救ってきた』


 魔法少女。それを聞いて俺は自然とかのんに視線を送る。

 かのんはえっへんと胸を張る。


『私が最初の魔法少女なの』


 話を聞くとかのんは俺が異世界召喚で拉致された後に急に強くなったらしい。


《そういえばテレジアに拉致されてスラユルに出会ったあたりでかのんが大勇者とかスキル表示コメントが出てたよね。それが原因かな?》

『あれ、スラユルちゃんのこと知ってるの?』

「んっ?」

《はい?》


 俺とメティアはまたも間の抜けた声が出てしまう。

 なんでかのんからの名前が出てくるんだ?

 俺たちの疑問に答えるようにかのんの右手からスライムが膨張分離して姿を表す。


『スラっ、久しぶりだネ。義友。ボク、スラユル。悪いスライムじゃないよ』


 なんとスラユルが現れた。


「はああああああーーーーーーーーーーーーーーーーー…………」

《えええええええーーーーーーーーーーーーーーーーー…………》


 もうね。絶叫するしかないね。

 スラユル、お前なんでそこにいるの。

 というか広咲城での別れの一件どうするんだよ。

 思い出すだけで恥ずかしいんですけど。どう接すればいいわけ?

 まあ、とにかく…………生きてくれてよかったよ、親友。


 ――――――

 ――――

 ――


『ボク、義友とお別れした後、ルティア様に魂を拾われてこっちに転生したんだヨ』

 

 話を聞くとかのんは高貴なる愛欲の柱女神【ルティア】様の加護受けて大勇者として覚醒したらしい。その力でサイヤークに対抗するかのんの姿を目撃した人々が魔法少女と勘違いしたらしい。

 この状況を利用しルティアという女神が清らかなる乙女を選んで契約し、変身魔法少女を増やしていった。魔法少女仲間が集まって【マギカスターステラ】となり、ネットで配信しながら女神の信仰と力を増やしてまた魔法少女を増やす。

 こうして勢力を拡大しサイヤークに対抗する魔法少女秘密部隊、現在の【マギカセイブ】が誕生したのだそうだ。


『お兄ちゃんと別れた後、女神ルティア様が右手を失った私のためにスラユルちゃんから分魂したスライム擬態で直してくれたの』

「……俺も手足が今スラユルの擬態なんだよなあ」


 俺もスライム体を指から膨張させて空中に浮かべてみせる。


『えへへ、おそろいなの』

『……そうだな』


 いい加減情報量が多すぎて疲れてきたところだ。

 俺は泣き笑いをうかべるしかない。

 

『疲れた? 女神ルティア様は今度機会があったら紹介するの~~』

「ああ、そうしてくれ。今日はもう一杯一杯だ」


 だが申し訳なさそうにしつつも母さんが付け加える。


『細かい話は後日としてもう一つ今話しておかなければいけないことがありましたね』

「まだあるの?」

『ええ、あのクソ女神テレジアのことです』


 母さんのテレジアへのヘイトがひどい。気持ちはわかるけどな。

 

《まあ、母親だからね。仕方ないね》

『女神テレジアも地球にしてきているのです』

「はあ?」

『正確には使徒の天使を遣わせてテレジア教を布教している』


 父さんが不快感をにじませていうのだ。まっとうな布教活動ではないのだろうな。こっちでもテレジア以外の神は排斥だから。

 ――まてよ。……まさか地球でもそうなのか。


『キリスト系宗教やイスラム教などあらゆる宗教と対立し紛争を起こしている』

「ぎゃあああ、宗教戦争かよ。それはまずいって」


 やっぱりテレジア。あいつ邪神なんじゃないのか?


「それにしてもよく新規の宗教が既存の宗教と対立できるよな。すぐに潰されるような気がするけど」

『そこなのだ、問題は。テレジア教が普及し教会のある地域では不思議とサイヤークの被害がない。テレジア教は女神テレジアの加護として触れ回った』

「おいおい、億単位の被害を出しているんだ。そんな事になったら爆発的に信者が増えるんじゃ……」

『その通りだ。テレジア教の有無で格差が生まれ治安の明暗が顕著となった。そうなればサイヤークに怯えパニックになった人々はすがるしかない。今や無視できない勢力となっている』


 話を聞いていて俺は違和感を持ち始める。

 なんだ、一体俺は何が引っかかっているんだ。

 この世界の流れ、気持ちが悪い。違和感が半端ない。

 そこで、スラユルを通じて母さんのパソコンにこっそり通信を接続したメティアが情報を引き出していたらしく恐る恐る発言する。


《頼経、まだ解析中だけど嫌な仮説が浮上してきたよ》

「仮説?」

《女神テレジアってさ。本当に災厄に対抗するために異世界召喚してたのかな》

「異世界召喚は勇者を集めるのが目的じゃなかったってことか?」

《うん。テレジアの本当の目的は人がいる世界を特定して転移の道を開拓し、異世界に勢力を伸ばす。それこそが真の目的だったのかも》

『『『――っ!!』』』

《話が出来すぎてるんだよね。そもそも災厄とテレジア教もこの世界に現れたのって頼経が異世界転移されて間もなくのことだし。災厄がいてテレジア教が急速に広がっている状況も怪しいよ。もしかして……》

「テレジアと災厄はつながっている。利害が一致して利用し合っているだけか? それともテレジアも災厄の仲間という可能性もあるな」


 そもそもテレジア教の言う加護も最初からないのかもしれない。災厄とテレジアが協定を結んで示し合わせているだけ感もある。


『義経たちもそう考えるか、これはいよいよ戦略を根本から見直す必要が出てきた』

「父さんたちもテレジア教を疑ってたのか?」


 これには母さんがバシンと机をたたいて木製の天板を粉砕し怒りをあらわにした。


『その通りです。彼らはあろうことかサイヤークの出現と魔法少女の出現が同じなのは怪しいと断罪してきたのです。自分の事を棚に上げてかのんちゃんを名指しで捕まえ処刑するように日本政府に通告してきたのですよ。そうしないとテレジア教の加護を日本にあたえない。サイヤークに国を荒らされてもいいのかと』

「なっ、それもう脅迫じゃないか」

『安心しろ。そのような馬鹿げた脅しに日本は屈しない。特に日本は魔法少女が数多く存在し守られている。少女に頼るのは大人として歯がゆいが奴らの要求は聞くに値しない』


 俺はひとまず胸をなで下ろした。

 しかし、すぐにはらわたが煮えくり返る思いだ。

 地球の家族に害が及ばないように逃げ続けていたのに意味が無かった。

 故郷を荒らされ、かのんが狙われた。もはや堪忍袋の緒が完全にブチ切れた。


「……きめた」

《頼経?》

「父さんって軍に顔が利くよね。この戦艦の艦長室にいるんだからきくまでもないか」

『そうだが何を考えている?』

「こちらは魔導工学の供与と潤沢な魔石の用意がある。災厄のオーラを破るには必要だろ。地球としたいものがある」

『とりあえず聞こう。なにがほしい』

「例えばだけど


――戦闘機、


とかどうかな」


 俺はもう自重など考えないことにした。

 だってこれだけ地球と家族に害を及ぼしてくれたんだ。

 そっちがその気ならこっちも全力で叩き潰してやる。

 新たに手に入れたスキル【アイテムトレード】の力でな。



 ◇ ◇ ◇


 ここは神聖フィアガルド帝国の皇宮。

 テレジアの住処となってしまっている謁見の場にて。

 慈愛の微笑みを浮かべる美しき女神テレジア。

 頭には栄耀栄華を象徴するようなティアラが乗っている。

 

「帝国を守り正しき秩序をもたらした偉大なる魔槍の勇者アレン。異教徒の国をまた一つ滅ぼしたと聞きました。お疲れ様でした。このテレジア感謝の念につきません」

「ありがたき幸せ。しかし、このたびの戦いでは仲間を失ってしまいました」

「悲しむことはありません。すべては正義のための犠牲でした。聖戦で犠牲となった魂は天に召され慰撫されることでしょう」


 勇者アレンの指がピクッとわずかにうごめくが拳を握りしめる。

 彼女は麗しい笑顔を絶やすことなく眼下でかしずく勇者に語りかける。


「貴方にはなにか褒美を与えたいと思うのですが要望はありますか。さらなる異教徒を滅ぼす武器がよろしいかしら。見目麗しい聖女をつけましょうか」

「恐れながら女神様一つ質問に答えていただきたく存じます」

「ええ、かまいませんよ」


 アレンは肩をふるわせながらテレジアを見上げた。


「テレジア様の頭にのせられたティアラはどちらで手に入れたのでしょうか」

「あら、これかしら。いいでしょう。とても大きな大きなピンクの宝石がとてもかわいらしいくて気に入っているの。とある女王が所有していたのだけどなかなか譲ってもらえなくてね」

「……どこの女王か、教えていただけますか」

「さあ、そこまでは覚えていないわ。別の世界から手に入れたとは聞いたけどどうでもいいじゃない」


 アレンの声は震えながらもどうにか口にする。


「そのティアラは我が故郷の世界で仕えた女王様のものです。それは神に賜った王権の象徴でもあるがゆえ手放すなどあり得ない。もう一度聞きます。それなのになぜ貴方がお持ちなのですか。女神テレジア様」

「……あら、失敗したわね。これ貴方の世界の女王様の持ち物だったのね。クスクスクス」


 急に口調が砕けてきたテレジアの態度にアレンも敬意を捨てて問いつめる。


「だからなぜお前が持っているのだ。女神テレジアアアアアッ」

「ごめんね。いうこと聞かないから滅ぼしちゃった。貴方の世界」

「う、うあああああああああああああああああああ、

 魔槍よ穿て、【ペネトレイターーーー】」


 怒りのままに魔槍を呼び出し突き出しと女神にアレンが襲いかかる。

 しかし、


「なっ、ばかな」


 女神の心臓に届く前に槍はピタリと止まる。

 障壁に阻まれているのではない。体がいうことをきかない。

 女神テレジアを攻撃することを体が拒んでいるのだ。

 右手には光の紋章が現れ、その色はどす黒くくすんだ光だ。


「お馬鹿さん。私がしょうかんしたのよーー。反抗されたときのために保険くらいかけておくわよ」

「この手の甲の紋章はまさか隷属の……」

「せいかーーい」


 テレジアは残忍な薄ら笑いを浮かべて禍禍しいナイフを呼び出す。


「そ、その短剣は、なんとおぞましい穢れか。呪具か」

「そうよ。それこそつっよーーい女神だって殺せるくらい強力なやつ。よ」

「やはりそうか。結城義友の言葉が真実だったか。もっとはやく耳を傾けるべきだった。貴様は慈愛の女神などではない。おぞましい邪神か何かだ」

「今更遅いわ」

「あ、悪魔めええ」

「貴方が言う? 私の言葉を鵜呑みにして罪のない人々を、国を滅ぼしたんでしょ」


 その言葉にアレンは過去、自分が正義と思い振るった槍を見て思い出し絶叫する。


「あ、あああ、うわあああああああああああああああああ」

「あがいても駄目よ。隷属の紋章は絶対に解けないわ。それこそ転生して他の神の加護でも得ないことには逃れることはできないわ」


 異教徒だからと、世界のためだと信じて振るった刃が、かつて子供を貫いた感触が後悔と共にアレンを襲う。

 涙ながらにアレンは叫ぶ。


「地獄に落ちろ。お前は必ずいつか報いを受ける」

「誰が私に刃向かえるというの。最強の大国である帝国と天秤教に守られたこの私に」

「結城義友。あいつは生きている。あのしぶとい男が死ぬものか。絶対に貴様を追い詰める」

「――あっ?」


 テレジアにとっては唯一の目の上のたんこぶ。

 その名を聞いて聞いて一気に不機嫌になる。


「ああ、アレン。貴方の絶叫はとても甘美だった。でもうざい」

「――あっ」


 アレンはナイフで突かれるとあっさりと絶命する。

 ただ、アレンからは形容しがたい無念の意思を表すかのような血の涙が伝っていく。


「あははは、すごい威力ね。勇者が即死するなんてね。だとするとあの女は頑張った方なのかしらねえ、うふふふ」


 


 アレンとテレジアにあった出来事を一部始終魔法で見ていた少女がいる。

 アレンが失った仲間とウソをついてかくまっていた大賢者ラウラである。彼女もまたアレンと共に召喚された同郷の者。

 アレンに忍ばせた魔導具を通じて魔法水晶より遠視していたのである。


「ああ、うそ。アレン。私たちの故郷が滅んだなんて。それにこの世界で私たちのした事って……うう、おえぇ……」


 あまりに受け入れがい事実にパニックを起こした。恐怖と怒り、後悔と罪の意識の洪水に飲まれてしまう。その波に溺れるかのように体調を崩してその場で胃の中の物を吐き出してしまう始末。

 しばらく嗚咽を繰り返してラウラはアレンに言われていたことを思い出す。


『ラウラ、もし俺が殺されるような事態になったらこのメモに記された場所に忍び込み、安置されている神核の欠片を回収するんだ。ダミーの神核の欠片をこのアイテムバッグに入れてある。すり替えればすぐにはバレない。バックに入っている証拠と一緒にお前は帝国から逃げろ。そして、信頼できるところに頼るんだ』

「信頼できるって誰を頼ればいいのよ」


 結城義友。


 アレンが最後に叫んだ人物の名だ。かつては立ち塞がった敵。でも今は……。


「結城くんならたしかになんとか出来るかもしれない」


 なぜなら大陸を滅ぼさんばかりに疫病を振りまいたハエの異形の王。その猛威を振るった怪物に人々を率いて立ち向かい、奇蹟の勝利に導いたあの男ならば。


 姿を隠す魔法のローブを深くかぶり、侵入した好球の皇宮の奥の隠し部屋。

 そこには瘴気が充満して、ラウラが全力でオーラで対策しなくてはならないほどに濃い。


「すごい瘴気。普通の人間なら近づくことも出来ない。神聖なる女神の住む奥にこんな邪悪な部屋があるなんておかしい」


 罠があるかもしれないと警戒しながらゆっくりと歩を進めると奥の壁面前に厳かな台座が置かれてあった。その上に暖かな、それでいて弱々しく神力の光が灯る桜色をした神核の欠片を見つける。

 傷つけられた箇所にはこびりつくような強力な呪いがまとわりついている。


「これがアレンの言っていた神核」


 いくつもの管がとりつけられて神力の光を搾取され続けているようだった。

 管の先を追うと集められた神力が凝縮された宝玉がある。


「あれってテレジアが異世界召喚時に持っていたわね」


 あれも回収しようとラウラは思うけれど、それをしてはテレジアにバレるような気がした。なのでその宝玉に集められた神力をつかって神核にまとわりついた呪いを取り払うことに使う。


「ふう、このくらいならいいよね」


 宝玉の神力で呪いを払いのけて手に持つと、生前の神様の温かい心がつたわってくるかのようだ。


「死んでも酷使されるなんて嫌だよね。今助けますから」


 収納袋であるアイテムバッグに大切に収めて偽者の神核をそっとおく。


「さあ、逃げよう。確か結城さんは東の大陸に逃げたってきいたわ。長い旅になりそう」


 それでもラウラは自分を叱咤してその部屋を後にする。アレンの無念を引き継ぎ、故郷の復讐を胸に力強く歩き出す。



 後にこの神核の正体とありかを巡り世界が激動することになる。




――――――――――――――――――――――――――――


後書き

ここで第一章は終わりとなります。

まずはここまで読んでいただきまして本当にありがとうございました。


次は他勢力の情勢と動きなど小話を入れた後で二章に突入します。

二章では自重を完全に捨てた頼経が新たな力で無双し、真田家とエーテライトを巡る他勢力の陰謀に立ち向かいます。(予定)


また、義友と離ればなれになった後、かのんと仲間の魔法少女たちの活躍は別に新規でタイトルを上げて投稿することを計画しています。ただし、現在持病で体調が万全でない日が続いているのでなかなか手が回らず進捗が良くありません。なのでいつになるのかは未定です。気になる方は長い目で応援していただけると助かります。

長くなりましたが二章からも応援よろしくお願いします。





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