第34話『結城一家集結』
美咲さんと正式な城主の契約を結んだ事で新たなスキルを手にいれた。
【異世界通信】
それは縁を持つ者同士であれば異世界であろうとアカシックレコードを経由して通信が可能になるというもの。
そしてつながった先にいた者はもう会えないと覚悟した最愛の妹、結城かのんだった。最初は驚きと混乱で思考がパンクしそうになったが今は少し冷静になる。
現状、矛盾がいくつかみられたのだ。
そもそもテレジアの異世界召喚によって地球上で結城義友という存在は抹消された。かのんは俺を覚えているはずがないのだ。付け加えるならかのんは異世界召喚に右手が巻き込まれて失っているはずである。なのに目の前のかのんと思われる少女には存在する。義手にしては動きが自然すぎる。
他にも不自然な点がいろいろあるが、なによりも俺を警戒させたのは、転生して姿が変わった頼経を即座にお兄ちゃんと判断した事になる。
あり得なくないか?
ならばこれは何かしらの罠か幻術か?
家族に会えた喜びと偽者ではないかという不安が混じり合った結果、俺は疑念をにじませて尋ねた。
「お前は本当にかのんなんだよな?」
『えっ、そうだよ。分からないの、お兄ちゃん』
しゅん、と落ち込む姿を見れば発狂しそうなほどに罪悪感がこみ上げてくる。
だが、慎重にならざるを得ない。
「いや、確かに数年ぶりにみたかのんは一層綺麗になったように思う。自慢の妹だと世界中に自慢したいぐらいだ」
『はわあああ、恥ずかしうれしいの~~』
《けっ、シスコンが》
かのんはいじらしくもだえて恥じらい、メティアの辛辣な言葉は無視しして問いつめる。
「だが、俺は疑惑が拭えない。今の俺はかのんの知る兄とは別人と言ってもいいほどに見た目が変わっている。なぜ俺に気がついた?」
きょとんとしていたかのんだが苦笑しつつその答えをくれる。
『もう、お兄ちゃんはあいかわらずなの~~。こっちから見える立体映像のモニターに名前表示されてるのなの』
「何だとーーーー!?」
《ぷくくくっ、安定のうっかりさんだね》
そう言いつつ、メティアはかのんから俺がどう見えているのか、小窓のウインドウ画面で教えてくれた。そこにはしっかり[結城義友(新田頼経)]と下に字幕表示されてあった。
「やっちまったーーーー」
「その肝心な所でやらかすところはやっぱりお兄ちゃんなの~~」
にっこにっこで断言するかのん。
だけど妹よ。その判別方法はあんまりじゃないか?
もっと判断基準あるだろ。内からあふれ出る兄の頼もしさとかさ。
《あははっ、頼経が妄言語ってるよ》
「そこはフォローしてくれていいんだよ?」
《フォローの対価は結婚で》
「対価が重すぎる」
《今なら天元突破した私の愛もセットでおつけします》
「通販じゃねえんだぞ!!」
『はわーー、そのツッコミのキレはお兄ちゃんで間違いないの~~』
「ツッコミで確信もたれる兄ってどうなの!?」
そういえばかのんの周囲にメティアのような立体モニター画面が表示されているのだが……なんだそれ?
『あわわ、そういえば配信切ってなかったの、どうしよう』
「えっ、……配信?」
よく見るとすさまじい勢いでコメントが飛び交っているみたいだ。
[あれが噂のお兄ちゃん?]
[【速報】魔法唱女かのんちゃんのお兄さんが美少年だった]
[いや、美少女だろ。けっこう胸が膨らんでるし。間違いなく美乳だな]
[サイテーー]
[通報しました]
[お巡りさん、こっちです]
[……お前ら冗談だよな]
[というかウサギ耳、それ本物ですか?]
[かわいーー]
[お兄ちゃん、感動の再会にやらかしてて草]
かのんがわたわた手を振り回しながらもモニターに向かって手を振った。
『みんなごめんね。急な用事が入ったから配信はこれで終わりなの。じゃあね、なの~~』
[家族が見つかったならしょうがないね]
[またね、なの]
[次の配信も待ってるの~~]
[なのなの~~]
配信画面が落ちるとかのんは俺をみて、
『お父さんとお母さんにも連絡するの。お兄ちゃん時間は大丈夫?』
「ああ、かまわないが」
かのんはインカムでどこかと連絡を取りつつ、機械仕掛けの魔法の箒のような物にまたがり、空を高速で飛翔していく。
飛行中、破壊され廃墟となり人がいなくなった町も眼下に広がり、俺は驚きを隠せない。
「かのん、日本で何が起こってるんだ。さっきの化け物も……」
『……そのことについてはお父さんが説明するの』
かのんがぎゅっと箒を握りしめてうつむいた。
先の廃墟の事もある。俺は凶事があったことを察してしばらく黙り込む。
そして、海が見え始めたところで俺は行き先が気になった。この先って海だよな?
「……どこに向かってるんだ?」
『お父さんの職場だよ。今はお母さんもそこにいるの』
「職場?」
そう言ってしばらくすると信じられない光景が目に映る。
陸地から海を出て沖の方。海上には艦隊が隊列を組んで待機してるのが遠目に見えてくる。
「あれってまさか米軍の太平洋艦隊なのか?」
『違うの。あれは地球連邦軍極秘特殊部隊【マギカセイブ】の艦隊なの』
「地球連邦軍?」
初耳だ。俺のいない数年で地球になにがあったんだよ。もう情報の洪水で目が回りそうだ。
さらに目が飛び出るような異常事態を目にしてしまう。
海面が盛り上がったかと思えば、海中から原子力空母と超弩級戦艦を足したような馬鹿でかい戦闘艦が姿を現し、空中に浮上したのである。
「な、ななな、なんじゃそりゃああああーーーーっ」
『【マギカセイブ】総本部にして要塞級戦艦【アイギス】なの~~』
かのんは【アイギス】の甲板ではなく艦橋上に降り立つと厳重なハッチが開いてそこから内部に入り込む。
地面から天井の壁まで乳白色にかすかに光る廊下。そのような神秘的な廊下にかのんのスキップ。カツカツッと足音を立てていく。俺と再会し、両親に案内するためか気分が高揚しているようだ。
『なの、なの、なの~~♪』
愛らしいくちずさみで俺は心が温かくなる。
そして、たどり着いたのは艦長室だった。
おいおい、まさか……。
『お父さん、お母さんただいまなの』
室内に入るとかのんは光に包まれ、魔法少女のような装いからカジュアルな服装に変身を解除する。よく見ると、首から提げた宝玉に光が収束し魔法装束が消えていくように見えた。
元気に挨拶したかのんに母さんが目にもとまらぬ俊足でかのんを抱きしめた。
『かのんちゃん、無事でよかったです。心配したんですよ』
『わぷぷ、おかあさん、相変わらずすごい力なの』
ギチギチッとかのんを締め上げる音が聞こえてくる。
父さんが慌ててかのんを引き剥がす。
『
『あら、ごめんなさい。そして……』
『義友ちゃん無事……ではなさそうだけどぉ、もう面影ないけどぉ、生きててよかったでずうぅーーーーーーーーーー』
母さんからみえてる俺は映像なので実態がない。ないので当然すり抜けてその先にある書棚に抱きついた。
ベキベキパキッ
俺は母さんの鯖折りで粉砕されていく木製の書棚を見えて頭から血が退けていく。
いや、そうはならんだろ。母さんどんだけパワーあるんだよ。
鼻水と涙まみれでせっかくの美人さんが台無しである。
そして、父さんが俺の立体映像に手を伸ばし頭に手を置くような形をとる。
少ししわが目立つようになったか。苦労したのか白髪も少し交じり始めている。
きっと心配をかけたのだろうな。
いきなり姿を消した俺なのに父さんは優しく声をかけてくる。
『よく、よく生きててくれた。お帰り。息子よ』
その言葉に俺はあっという間に涙が溢れて視界がにじんでいく。
「う、っく~~、ぁぁ……」
もう失ったと思っていた。
地球に戻っても何もないと思っていた。
女神テレジアに拉致されて奪われたと思った家族が戻ってきた。
諦めていたけど、こんな風に取り戻せる日が来るなんて二度と無いと思っていたけれど。これは現実で、信じられなくて……。
かのんも母さんもお互いに抱き合って大泣きでひどい有様だったけど。
「た、ただ、いまぁ」
大粒の涙が俺から無数にこぼれ、とどまることを知らない。
だけど俺はただいまをいえた事でようやく家族を実感できたんだ……。
――――――――――――――――――――――――
後書き
前回の33話にて、オークのジュナさんとオーガのイデアさんとの名前を逆にしてました。ジュナ→イデアに訂正いたします。
混乱させてしまい申し訳ありませんでした。
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