第33話『画面越しの再会』

前書き

体調不良で更新遅くなりました。申し訳ありません。 


―――――――――――――――――――――――


俺は戦の戦後処理もそこそこに、援軍として駆けつけてくれた伊達家と津軽の民の慰労と戦勝も含め、祭りを企画した。

 ――それは桜祭りだ。


 広咲城に所狭しと咲き誇る枯れない桜。利用しない手はないだろう。

 まずは祭りの開催を華々しく彩る花火が打ち上げられる。空には大輪の華が咲き誇り、はかなくも空に消えていく。

 さみしくもあるが広咲城の桜は枯れない。その対比にさりげない俺たちの行く末も暗示させてある。

 末永く繁栄しますように。


 津軽藩の民も、元アイゼンブルグ王国のみんなも、伊達家のみんなも是非楽しんで欲しい。

 万感の思いをこめ、グラスを掲げる。


「さあ、花見だぁーーーーっ」


 俺が高らかに祭りの開催を宣言すると、皆喜び叫ぶ。


「「「「「酒だぁーーーー」」」」」

「――花よりお酒かよ!?」


 今日は無礼講、酒と上手い飯で馬鹿騒ぎして今回の戦で出た犠牲者を弔う側面もある。それ故に俺は武士たちだけでなく、民も含めた規模で祭りを行ってしまったのだが俺は後悔している。

 なぜなら、


 い、そ、が、し、す、ぎ、る。 


 前例のない規模で、前例のない日本のお祭りを思いつきで開催決定した。軽率な自分を心底悔やんだ。


「迂闊な自分を殴りたい」

《戦後処理で忙しいのにお祭りするなんてマゾなのかな?》

「くそ、言い返せない」


 俺が祭りに着手したため、明智さんに戦後処理の負担が集中した。心労のせいか、俺謹製の胃薬【液キュアリン】ではなく、シャル印の【液キュアリンⅡ】を飲むはめになった。これには罪悪感で俺の胃もキリキリした。

 なにせ、あまりの薬のまずさに明智さんが悶絶して苦しむ様をみてしまったのだ。

 気休めかもしれないけど明智さんも高いレベルの【毒耐性スキル】を獲得したらしい。よかったね(=心にもないこと言った)。


 正直、忖度スキルが有能さを珍しく発揮してくれなければ過労死していたかもせいない。なんと、忖度スキルは戦の前から配下スライムや非戦闘員の兎たちを統率して祝勝会の準備をしてくれていたのだ。そのおかげで負担が最小限になった。

 ちなみに俺は報告をうけていなかった。安定の事後承諾だったことを付け加えておく。


「まだかの」

「はやく食べたいのじゃ、ご主人」


 桜花や天遙ちゃんなどお子ちゃまたちからは催促する声があがる。


「ちょっとまってくれ、今焼いているから」


 俺は城主でありながら分身を駆使して各屋台に立ち、ひたすらに働いている。

 特にたこ焼きに、お好み焼きのせいで手が離せない。急だったこともあり、職人の育成が間に合わなかったのだ。

 タコが入っていなかったり、形がぐちゃぐちゃだったり。お客様にお出しできるクオリティーではない。任せてなどいられないと屋台に立ったのが運の尽き。


「うおおお、これはうまい。食べたことがない味だ」

「白いタレのうまみと黒いタレの酸味のある塩気がたまりませんな」

「うめ、うめ、うめぇ……」


 作れば作るほど噂が広まり、時間を追うごとにおいしそうな匂いにつられて順番待ちの行列が伸びていく。ああ、ついに最後尾が見えなくなった。

 ――絶望しかない。


 祭りの風景を見れば楽しそうに歩く親子連れ。ほろ酔いで踊り出す武士たちもいる。楽しそうだな。

 でも間違ってないか。なにが悲しくて花見も出来ず、鰹節が踊るのを見なければならないのか。俺、城主なんだけど。


「だ、だれか、代わってくれーーーー」



 メティア先生のおかげで俺はようやく解放される。

 俺が屋台で作業した経験値と技術をスキルで配下に習得させ、ようやく交代出来るようになったのだ。

 メティアには頭が上がらないね。


《ねえねえ、惚れ直した?》

「惚れてはないけどマジ感謝だ」

《ツンデレ?》

「どうしてそうなる」


 俺の袖を引っ張る感触に視線を下げると天遙ちゃんと穂花が物欲しげに見ている。


「ご主人、あれはなんなのじゃ」


 指さす先には綿飴とリンゴ飴の屋台がある。


「砂糖菓子の一種だな。食べてみるか? 買ってやるよ」

「よいのか、わーーい。ご主人大好きなのじゃーー」

「……主様、 わたしはリンゴ飴が欲しいのですが……」

「自分で買え」

「ちょ、ひどくないですか。差別ですよ」

「幼女の天遙ちゃんに保護者が買ってやるのは当たり前だろ。お前はいい大人なんだから自己責任だ」

「だからわたしより天遙様の方が遙かに年上だと言ってるじゃないですか」


 そこに幼い小春ちゃんが名乗りを上げる。


「穂花様、じゃあわたしが買ってあげるよ」

「えっ?」

「わたしこれでも自分で稼いでるから気にしないで」

「ええっ?」

「……おまえ、最年少の小春ちゃんにたかるとか最低だな」

「ち、違います」

「さあ、行きましょう。穂花様」

「ああ、どんどんわたしの威厳が……」

「もとから無かっただろ」


 小春ちゃんに手を引かれる穂花を見送り、俺は天遙ちゃんに綿飴を買ってあげた。


「ふわああ、雲じゃ、甘い雲なのじゃあ、ふわっふわなのじゃ。舌のうえでしゅわしゅわしゅるのじゃ」


 ぴょんぴょん飛び跳ねて、体で表現する様はほのぼのするね。

 桜花も目をキラキラさせて綿飴に手を伸ばす。


「ふむ、口にすると溶けて甘い。繊細で趣もある。面白いの」


 ちゃっかり桜花も混ざって買わされたが気にしない。桜花の保護者でもあるしな。

 それにしても天遙ちゃんのニッコニコな笑顔に癒やされる。

 駄目可愛いポンコツっぷりがくせになる。


《頼経、伊達家の人たちに挨拶した方がいいんじゃない》

「っと、そうだったな。桜花、引率頼めるか?」

「ふむ、子供たちは見ている故ゆくが良い」


 当然俺は桜花に任せるだけじゃなく、親衛隊にも視線を送って護衛を任せた。




「ちょっと遅かったか?」

《手遅れだったね》


 俺が広い宴会広場に脚を運ぶと多くの武士たちが思い思いに酒を飲み交わし、出来上がっていた。

 上半身服を脱ぎ、腹踊りをするやつもいるので混沌としている。

 その上で相撲に興じる奴らもいた。


「おらおらおら、かかってこいや」


 相撲の中心には南部為信までいる。お前は武将だろうに、馬鹿騒ぎの中心になってどうするんだよ。

 というか今為信殿の相手をしてるの、伊達家の成実殿じゃね?

 相撲連戦の疲れもあってか、それとも成実殿が元々強いのか押し切られて敗北したようだ。


「かあーー、やるじゃねえか」

「津軽の武士もなかなかやるもんだ」


 お互いの健闘をたたえい握手する中で為信は肩をたたかれた。


「為信殿、治療院を抜け出して……探しましたわよ」


 シャルの底冷えするよう平淡な声に多くの武士がさっと距離をとる。怪我が日常茶飯事の兵にとってシャルの名はいろんな意味で知れ渡っている。

 彼らの引きつった顔を見れば畏れられていることがありありとみてとれる。


「ひいぃぃっ、シャ、シャル殿。もう俺は十分に回復したのだ。退院してもよかろう」

「……そうですか」


 シャルは笑みを浮かべたまま為信の肩の傷痕に指を強く押し込んでいく。


「あががっ」


 痛みに顔をしかめる為信をみて周囲の武士たちは『ヒイイイーーーー』と情けない声が上がった。

 痛そーー。恐怖で勝手に膝が笑いやがる。

 俺も重傷だったが負傷したのが回復の早いスライム擬態の手足なので退院が早かった。でなければあそこに立ってたのは俺だったのかもしれない。だって俺城主だし、いつまでもベットで寝ている時間が惜しい。


「そんなに痛がって傷が癒えていない証拠です。さあ、帰りましょうね」

「いや、傷は戦士の称号。こんなの唾をつけとけば……」


 あっ、傷にばい菌が入る間違った治療法はまずい。それシャルの逆鱗だから。

 案の定、シャルの目がすわった。

 有無を言わさずシャル印の液体傷薬を取り出して為信の傷口にぶっかける。


「ぎゃあああああーーーーーーーーー」

「安心してください。とーーーっても染みますがよく効くお薬です。完治の暁にはより強靱な肉体になることでしょう」


 痛みのあまり気絶した為信をシャルの部下のナースウサギ獣人たちが担架に乗せて連行していく。

 シャルはドン引きの周囲に向かって優雅に礼をとると、


「お騒がせてしました。皆様も怪我をしないようご自愛くださいませ。体調が優れないときは早めの治療院での受診をお勧めいたします。早期発見であるほど苦しまずにすみますから。ふふふ、ではごきげんよう」

「「「ご、ごきげんよう」」」


 武士たちが思わずお嬢様語で返すほどこのときのシャルの威圧感は半端なかった。

 俺、シャルをとんでもない怪物にしてしまったのかもしれない。

 成実殿が『津軽の医者は恐ろしいな』とつぶやいていたことが印象に残った一幕だった。



 俺はその後、伊達家の接待をしていた市さんたちと合流した。

 政宗さんが噂のたこ焼きとお好み焼きを食べたいというのでその場に簡単な調理機材を運び込み、俺が調理することになった。

 ちなみにシャルもアイゼンブルグの元王女として同席することになったので今は一緒になって作っている。


「なあシャル。普通のエプロン無かったのか?」


 俺が着ているのはふりっふりのフリルがついた桃色のエプロンだ。俺には似合わないと思うのだが。


「いえ、我が君にはそれしか似合いません」

「そうですね。これなんかも似合うと思いますよ。頼経さん」


 息を荒くして褒めてくれるシャル。

 そして、なぜか美咲さんも加わって俺に少女がつけるようなかんざしをさして髪を留めてくれた。


「はあ……いいですね」

「ええ、愛らしいのですわ」


 意気投合する美咲さんとシャル。二人は結託して俺に可愛らしい格好をさせようとしてくる。男(今は性別不詳)の俺にこれは嫌がらせではなかろうか。

 罰ゲームかな?


 実際、俺をみて目をそらす野郎どもが多数いる。

 ほら見ろ。気持ち悪すぎてきっと見ていられないんだぜ。

 まあ、もしかしたら俺やシャルをガードしているオーガで元近衛騎士のイデアさんが威圧しているせいかもしれない。っていうかそっちが理由であることを願う。


 俺は出来たてのたこ焼きにお好み焼きなどを持って宴の席に着く。

 今はお祭りなので堅苦しいのはなしってことで両家とも気安く交流しているようだった。


《先に一杯もらっているぞ。津軽藩の城主よ》


 声のした上空を見上げれば巨大な特製のジョッキに注がれたビールをのむ独眼神龍が見える。

 相変わらずでけええーーーーっ。

 背中にちょっとした屋敷みたいのが乗っかってるんだがどんだけでかいんだよ。 

 おかげで独眼神龍に提供する酒の量は一万人分だ。

 正直、メティアのアイテムボックスを使った大量生産がなかったら酒の貯蓄が空になってたことだろう。武士相手に酒を切らすなんて恐怖でしかない。


「いえいえ、おもてなしにご満足いただけたら幸いです」

《うむ、このビールとやらも悪くない。褒めて遣わす。褒美だ》


 言うと突然俺の前で水が湧き出し小さな泉が形成される。


「……これは一体?」


 俺の疑問に政宗殿が答える。


「ほう、神龍様はよほど気に入ったとみえる。それは【龍仙水】という。水ではあるのだが澄みきったその神水は破邪の特性をもち、病や呪いを払う薬のよき材料にもなる。何よりその水で作る酒がうまいのだ」


 そう言って政宗殿は酒の入った樽を部下に持ち出させる。


「それは?」

「伊達家特産の名酒よ。伊達家の山奥に沸くその湧き水で作り上げた酒だ。うまいぞ」


 俺は思わず喉が鳴った。

 杯に注がれて俺に渡されるがそれをイデアさんが取り上げて飲み干してしまう。


「ちょ、イデアさん、何するの?」

「毒味もなしに主君へ飲ませる訳にはいくまい」


 改めて渡される杯はシュルによって取り上げられる。


「ふふふ、駄目ですわよ。我が君。そのお体はまだ成長期。お酒はお体に毒です」

「ええっ、ちょっとだけ」

「こちらならばかまいません」


 そう言って渡されたのは龍仙水。

 神龍さまからいただいたありがたいものだけど水である。


「……お酒……飲みたい」

「なにか言いましたか?」

「ヒェ、わーい。おいしそうなおみじゅだなーーーー」


 実際水と侮るなかれ。のどごしよく文句なしにおいちい。


「おいしいですか?」

「はい、おいしいです」 

《はっはっはっはっ、尻に敷かれておるわ》


 独眼神龍の冷やかす笑い声が響く。

 そして、美咲さんからはなぜか突き刺さるような視線で射貫かれ頬が膨らんでるように見える。

 なぜ怒るの?


「熱い、だが、ほふっ、うまい」


 政宗殿がたこ焼きを頬張り、冷えた生ビールを一気に飲み干した。


「くあぁーー、それに冷えたビールとやらがたまらんな」


 俺もシャルの目を盗んでビールに手を伸ばすと美咲さんにブロックされる。

 ひどい。ちょっとくらいいいじゃんか。

 しょうがないのでお皿に上がった団子をいただくことにする。

 あらおいしい。


「これ、中に何が入ってるの?」

「ああ、それは我が作った特製のずんだ餅だ」

「ずんだって事は枝豆でつくったの」

「よく分かったな。そのとおりだ」


 しかもなにげに衝撃的なのが政宗殿の手作りらしい。以外と家庭的なのね。

 それにしても気になっていた。一人黙々と政宗殿の隣で提供される料理を食べているイケメンがいる。政宗殿の側近、片倉小十郎殿だ。

 上品に食べているように見えるが、積み上げられている皿の数がエグい。百皿ってフードファイターかな?


「……うまい」

「そうですか」


 表情が変わらないのでうまそうには見えなかったが百皿も食べているのだからそういうキャラなのかもな。

 察した政宗殿がいう。


「心配ない。まずいときは黙り込むだけだからな。小十郎なりに楽しんでいる」

「それならよかったよ」

「何より普段は節制が基本だ。あの積み上がった皿はうまい証拠だと思ってくれ」

「よかったらこれも食べてみる?」


 俺はふかしたばかりのじゃがバターを政宗殿に差し出す。


「ほう、これはうまいし腹が膨れるな」

「だろ。栄養価も高いし米よりも栽培しやすいぞ。冷害による飢饉対策にもなる」


 これには政宗殿の目の色が変わった。


「ほう、そいつはいいな」

「そういえば周辺大名の食糧事情だがいろいろ問題を抱えているようだな。この辺だと冷害が続いているとか。南の方だと干ばつや蝗害こうがいなんかも聞く」

「そうだな」

「米も冷害に強いものに品種改良すべきだな」

「なんだと……品種改良?」


 ふむ。食いついてるな。

 なんで他領の食糧事情を知ってるかと言えば兵糧は戦争の基本。その動向で軍事の動きも予測出来る一助となる。重要な軍事機密に当たるのだから城主として調べてるは当たり前だ。俺にはスキルを使った諜報があるから情報戦で負ける気がしない。


「それは冷害でも米が収穫出来るようになると?」

「ああ、それどころか収穫量を格段に向上させる肥料の開発も進めている。津軽藩の次の収穫時には豊作が期待できるな」


 そもそもスライムコロニー内はメティアのよる安定した天候が約束されている。これは過言ではない。

 そういえば美咲さんの姿が見えなくなったな。

 ちょっと気になった俺は席を立つ。


「ちょっと用事を思いついたので失礼するよ」

「ああ……」


 俺が離れると政宗殿は小十郎殿と声をひそめて相談し始める。

 これも計算の内だ。伊達家とは協力関係を結びたい。そのためのメリットを匂わせるのが今回の会話の狙いだ。

 何より交渉を有利に進めるためには相手側から同盟なり何なりの話を持ちかけてもらわないとね。外交は既に始まっているのだよ。主導権はいただく。

 それとなく帝国を上回る兵器もちらっと伊達家に見せているし、この空飛ぶ空母に関しても聞きたいことが山ほどあるはず。政宗殿は確実に食いついてくると俺は確信している。



 美咲さんを探して歩いているとこのたびの戦で亡くなった人の名を刻んだ石碑がある。その上にお酒がかけられ、花が手向けられている。


《美咲がさっきまでここで手を合わせていたんだよ》

「そっか」


 俺もアイテムボックスから花束を用意すると手を合わせ冥福を祈る。

 美咲さん普通に振る舞っているけど人の目がないと塞ぎ込んでいるらしい。



 さらに探し、天守の上階に上がっていくと一人でいる美咲さんを見つける。

 窓から思い詰めたような面持ちで外を眺めていた。


「こんなところでどうしたの、美咲さん」

「頼経さん」


 何かを言いかけて口をつむぐ。


「必要以上に戦の責任を感じることないけどな」

「それでも多くの民が犠牲となりました」


 特に城下では鬼にされた人々の犠牲者が目立つ。やむをえないとはいえそれを切り捨てたのは俺たちだ。やりきれないのかもしれない。


「災厄が内部に入り込んでいたのに気がつけませんでした。もっと力があれば。守るだけじゃない。戦う術が使えたら……」


 手が真っ白になるほど強く握りしめる。俺はそっと手に取り言葉と共に解きほぐす。


「気負いすぎないで」

「でも、わたしは津軽藩を守るべき女神なのに……」

「戦は一人では出来ないよ。それにだれか美咲さんを責めたりした?」

「そんなことはありません」

「ちゃんと民のこと見えてる?」

「えっ?」


 天守から見える人々はつらい戦を乗り越え笑顔を振る舞い、前を向いている。


「この城は綺麗だね。桜が咲き誇り、人を笑顔にする暖かさがある」

「確かに笑ってますね。どうして……、戦があったのに笑っていられるのでしょう。大切な隣人を、家族を失ったかもしれないのに……」

「強がっているのかもしれない。でも前を向いて生きていこうと思えるのはやっぱり美咲さんのおかげじゃないかな」

「そんなこと……」

「戦うことだけが守る事じゃないよ。美咲さんの優しさはちゃんとみんなに伝わっている」


 言葉だけでは美咲さんの憂いは晴れない。

 難しいな。

 どうしたらこの優しい女神様を笑顔にできるのか。

 悩んだ末に俺は気がついた。

 えっ、うそだろ。やってしまった。


「美咲さん!!」

「は、はい」


 俺は佇まいをただしはっきりと誓いを立てることにする。


「俺は美咲さんの城主になる。みとめてくれるかな」

「は、はい」


 顔を真っ赤にして頷く美咲さん。

 そういえばこうしてはっきり面と向かって城主になるとはいってない。間接的にしかいわなかった気がする。

 俺は駄目なやつだな。こんな中途半端な事だから美咲さんを不安にさせるのだ。

 だから俺は決意を伝える。


「約束する。美咲さんが民を守る盾なら、俺は民を守る矛にとなる」

「はわあ……」


 あたふたと慌てる美咲さんの顔にはもう憂いは見られない。


「ふ、不束者ですが、よ、よろしくお願いいたします」


 自分に自信を持つのはまだまだ時間がかかりそうだ。

 でもその言い回しちょっとどうなんだろ。

 俺の手の甲に桜の花を表した光の紋章が浮かび上がっている。


「これはなに?」

「私と契約した証です。すぐに消えますよ。訓練次第ですが有事には私の代行者として広咲城の能力を使うことも可能です」


 それはどんな力なのかな。なんだかワクワクする。

 そう考えていたところ、目の前に突然のお知らせが入る。


【絆と縁が一定を超えました。ユニークスキル『弱者の革命』、『アイテムボックス』の制限が一部解除されました】

【派生スキル『異世界通信』、『アイテムトレード』が解放されました】


 えっ、なにそれ。


《異世界通信、そのスキル……まさかっ!!》


 メティアがなにかに気がついたようで早速【異世界通信】スキルを発動した。

 メティア、勝手になにしてるの。

 そう口にしようとしたところで俺の目の前に立体映像が表示され、驚くべき画像が目に入る。


『ミラクルディバインブラスターーーーーーー!!』


 災厄の使徒と思われるオーラを纏った人型にすさまじい威力の魔法砲撃がぶつかっていく。

 ゲームだといかにも魔族といった風貌。コウモリのような大きな翼と角に青い肌、獰猛な牙がみえる。そんな怪物が激しい光の砲撃にさらされあっさり消滅していく。


「なんじゃそりゃあああ」


 相手は見るからに災厄の上位種。それを一撃で倒してしまった。

 周囲の景色は今は懐かしくも美しい自然と調和した日本の建築物が並んでみえる。


「これってまさか地球の、日本なのか?」


 更には災厄の使徒を倒した少女が映し出されると思わず息をのむ。

 いかにも魔法少女といったコスチュームに身を包んだ可愛らしい美少女の姿。

 それにも驚かされたが俺のよく知る少女の面影があった。


「……まさか、かのんなのか?」


 通信は一方通行では無かった。相手側にも届いていたらしい。


『え、もしかしてお兄ちゃんなの?』

「はっ?」


 こちらに目を向けて驚いたような表情をする最愛の妹かのん。

 だが俺は混乱の極みだ。

 え、えっ、なんで……俺の存在は地球から抹消されてるってテレジア言ってなかったか? 

 そもそもなんでかのんにがあるんだ。っていうかなんで地球に災厄がいるんだ。疑問の洪水が頭を次々と巡っていく。


『ああ、お兄ちゃん。やっと会えたの~~。あいたかったの~~』


 目に涙をためて潤んだ瞳が俺をまっすぐこちらをむいている。

 いや、ほんとこれどうなってんの?

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