第31話『醜女蜘蛛も参戦!! 死中にAIを求める』
津軽藩広咲城に向けて空を泳ぐ巨大な龍【独眼神龍】が向かっていた。
伊達家の守護神であり、切り札たる独眼神龍。
六十騎分の空戦騎獣サイズの龍を背中に乗せてもなお余力のある運搬力。
独眼神龍は超弩級戦艦のようでもあり、空母のような役割も果たす。
目的地が近づいたことで伊達政宗は独眼神龍背中に建造された砦を出て遠くを見つめている。
片目の眼帯の中には竜眼が秘されており、千里を見通す力も宿っている。
「小十郎、面白い事になってやがる」
伊達政宗はいても立ってもいられず愛騎に乗って飛び立っていく。
側近の小十郎たちも続いて飛び上がる。
「落ち着け、正宗」
クールな強面の青年風の武士、片倉小十郎が彼の横に並び諌める。
「これが落ち着いていられるか。津軽藩の奴らやりやがった」
「どういうことだ?」
「帝国飛空艇艦隊はほぼ壊滅だ」
小十郎は眉をひそめる。
津軽藩の戦力では到底帝国に叶わない。
悲惨な結果になっているであろう事が小十郎の予測だった。
「信じられんな」
「我が竜眼で見た。見たこともない兵器に戦術、魔物の軍まで率いていやがる。なるほど、管領殿の城郭神がわざわざ伊達家に救援の依頼を出すわけだ」
「確かに興味深い。伊達家が動きやすいよう上杉家が周辺大名家のけん制まで請け負った。田舎大名に対して破格の対応……」
しかし、政宗の表情に緊張が走っていることに小十郎は気づいている。
「だが最後に妙な女が出てきてから戦況は悪くなってやがる」
「妙な女?」
二人の疑問には彼らの眼下に存在する神龍が答える。
《あれこそが世界の敵【災厄の使徒】だ。それも上位種であろう》
巨大な神龍から語られる声は深く体の芯まで入り込むようだ。その声に確かに隠しきれない警戒感がにじむ。
災厄の脅威は神龍すらも警戒させるものであると伝わってくる。
それが恐ろしい。政宗は武者震いがする。
「思わず飲まれてしまうほど圧倒的な力だ。なるほどな。あれは人類の脅威だ」
「これほど離れた距離でも感じる威圧感。尋常ではない」
政宗は不敵に笑いながらも小十郎に言う。
「俺は半数の三十騎でひとあてしてみよう。駄目なら小十郎は一人でもおおく津軽藩の人命を救え」
「死ぬ気なら行かせぬぞ」
「ばかいえ、引き際はわきまえてるさ」
正宗の額には大筋の冷や汗が一筋こぼれる。
それほどにこれからまみえる敵の強大さを肌で感じていた。
「だが何もせず皇国の民を見捨てる男は伊達(粋)じゃねえだろうがっ」
「……ああ、そうだな」
そう言われては小十郎は政宗の心意気を汲んだ。
正宗は背後に続く成実の部隊三十騎に叫ぶ。
「
「「「おおーーーーっ」」」
◇ ◇ ◇
突然の伊達家救援は寝耳に水だった。
どういうことだ。伊達家は城郭神会議に出席すらしなかったんだぞ。
《むしろ救援に向かっていたから出られなかったのかもね》
「……そういうことなのか」
思わぬ援軍に美咲さんは瞳が潤む。
「よかった。みんながみんな私たちを騙して裏切ったわけじゃなかったのですね」
情報だけとられて同胞に見捨てられたと美咲さんはひどく落ち込んでいた。
でも伊達家だけは救援にきてくれた。
それは俺にとっても希望であり、頼もしい。
しかも救援にきたのはただの兵じゃない。
龍騎兵だ。
亜竜のワイバーンなんかかすむほど上位の龍なのだ。
それが三十騎もいる。
「成実、しばし時間を稼げ!!」
「承知した」
政宗は俺と美咲さんに寄せてきた。
「伊達政宗殿、救援感謝いたします」
「いいってことよ。俺は自分の信じる筋を通した。それだけの事」
うわあ、すげえカッケー。
こういう台詞をさらっと言えるとか俺には無理だよ。
《あはは、くさい台詞常習犯がなんか言ってるーー》
メティア、うるさいよ。
軽く自己紹介をして俺たちは相談する。
「問題はあのキツネ女だ。見たところ本体にまるでダメージが通らない。あの防御力は異常過ぎないか?」
「確かに、なにかネタがあるのかもしれないな」
考えてみればあれだけ対空榴弾砲台の集中砲火を受けてオーラ障壁が全く減衰しないのがおかしいのだ。
伊達政宗は鋭い戦術眼を持っているな。
「ああ。俺もそう考えていた。あの女の秘密を暴くためにも情報が欲しい」
俺は頷き、分かっている情報を政宗と共有を試みた。
「やつの名はクズハ。災厄の使徒で基本武器は手に持つ扇子だ。振れば嵐を巻き起こし、扇子が当たれば体が消し飛ぶ威力だ。
目は直視すると相手を魅了し、骨抜きにするチャームが発動する。
扇子と手の動きに惑わされるな。いつの間にか幻術で視界を錯覚させるぞ。
更には八つのキツネの尾がそれぞれ炎、風、岩、雷、水、氷属性の竜の首頭、それとキツネの頭、黒い蛇の頭に変化する。竜の頭からはそれぞれの属性ブレス。蛇は感知に優れ、牙に毒があるから注意だ。
一番厄介なのがキツネの口から放出される破壊砲撃は当たれば塵に帰すから絶対回避だ」
「……聴けば聴くほどに化け物だな」
そこにメティアから修正が入る。
《頼経、二つ忘れてるよ。一つはクズハの体からも不可視の毒がまき散らされてる。伊達家の人このままじゃ死ぬよ》
「……あっ」
「――おいっ、それを早く言えっ!!」
「やっぱり頼経ってうっかりさんだよね」
ううぅ、反論できない。
「安心してください。【キュアリジェネレーション】」
美咲さんの詠唱で癒やしの波動が広がっていく。
神術で伊達家の人にも一定時間の状態異常回復のバフが付与されていく。
「これでしばらく毒は効きません」
「助かる。――それでさっきいってたもう一つってのはなんだ」
《ああ、それはね。私の頼経にあの女は色目を使ったことだよ》
「メティアさん、訂正してください。私の頼経さん、です」
「……うん。最後の情報はどうでもいいな」
「伊達殿、ほんとーに申し訳ないです」
メティア、こんな時にまでふざけるなよ。
この大事な場面に至って俺は低姿勢で謝るしかない。
《まあ、実を言うとクズハの無敵のからくりはおおよそ見当はついてるけどね》
「えっ、マジか?」
《うん、多分八つの首をすべて落とさないとクズハの防御障壁は破れないはずだよ。さっき三つ首を落としたときにわずかに本体の防御障壁に異常が起きてた。八つの首とクズハ本体の防御障壁を連動した高度な術式だね。これで無敵に思えるほどの障壁強度を生み出してるんだよ》
すげえ術者だな。多分美咲さんの城郭防御壁を呪いで妨害したのもクズハじゃないだろうか。
うん、あり得る話だ。
「まあ、すべての首を落とす案は採用だ。連携して落としていくぞ」
伊達さんの言葉に俺たちは頷き、共闘でクズハに立ち向かった。
龍は強い。
力負けもしていない。
クズハの龍首のブレスを受けたとしても一撃では落ちたりしない。
属性魔法系の砲撃は龍の鱗がおおよそはじいてしまうためだ。
「その首、もらったあーーーーっ」
龍騎兵の中でも特に目を引くのが成実という武士の力だ。
手にはハルバードを持ち、クズハ相手に戦い続けている。
ハルバードは槍と斧を一つにしたような形状の武具だ。
正直、よくもまあ伊達家はそれを開発し取り入れたと思う。
これは扱いが難しい分使いこなせばかなり強力な兵器だ。
そのハルバードを軽々と振るう成実の膂力は目を見張るものがある。
今も岩の龍首をそのハルバードで斬り落としたところだ。
「成実様につづけーー」
彼の部下たちも振るいたった。連携し果敢に責め立てている。
「てめえらも遅れをとるんじゃねえぞ、ばかやろ」
市さんも部下のブラッディイーグル部隊を率いて、残った首を狙い抜刀術で蛇の首を斬り落とす。
「スライムの弾丸バブルボム」
伊達家の人たちがけん制してくれたおかげでやりやすい。
ちょうど口を開けた水の竜の口に爆発するスライムを打ち込んだ。
体内から大音響を起こして破裂し吹き飛んだ。
やはり堅くて巨大な生物は体内から攻めるのが有効だ。
「おおーーっ、【竜撃六双斬】」
二刀流の刀から振るわれる高速の六連撃。
伊達さんの覇気は仙気に近い。
振るわれるオーラもそれだけ質が高く、竜の首も易々と切り刻んでいった。
「聖天一刀流、壱の型【破邪一閃】」
美咲さんもキツネの首を取り、突き抜けた破邪の剣閃はクズハの頬をかすめた。
クズハのあれほどの堅かった障壁はもくろみ通りに消え去っている。
頬に走るうっすらとした切り傷にクズハは呆然と手をあてる。
確認すると手のひらにはべったりと血がこびりついており一気に激高する。
「あの女、よくもウチの顔を。ころす、ころす、ころす、ころす、――――――コロスっ!!」
周囲に白い煙が広がるとクズハの体は膨れ上がった。
瞬く間に体長40メートルはありそうな巨大なキツネの化け物に変化する。
いつの間にか八尾の竜首たちも再生しているのがいやらしい。
「ギャヤヤアアアァーーーーーーーーーーーーーッ!!」
クズハの咆哮は鼓膜が破れるかと思うほどに甲高く大気を震わせる。
伊達家の龍騎兵たちにも動揺が走る。
「やっぱり変身残してたかあ」
そんな気がしてたんだ。でもこれはひどい。
まるで大怪獣じゃないか。
ここまで来ると日本の自衛隊に任せたくなるね。
だってもうパワーからして違う。
龍騎兵たちですらクズハのキツネパンチで次々ぶっとばされていく。
吠えるだけでもブラッディイーグルなんて吹き飛ぶのだ。
……もうどうしろと。
更に悪いことは重なる。
「頼経さん、帝国の旗艦の甲板を見てください」
「まじかよ」
ドシンッ。
重厚でありながら禍禍しさのある刺々しい体の蜘蛛が降り立った。
きてしまった。
醜女蜘蛛が……。
その圧倒的な攻撃力から戦う気すら喪失してしまいそうな敵だ。
「おい、あれはなんだ。なんてオーラだ」
伊達さんの問いに美咲さんが答える。
「あれは醜女蜘蛛。あれも災厄の側。あれの放つ【灼熱爆轟砲】で恐山周辺の山が消し飛びました」
「山を……災厄とはそれほどに馬鹿げた規模の敵なのか」
「前門の大狐、後門の大蜘蛛ってか。冗談きついぜ、ばかやろ」
さすがの市さんも思わず愚痴をこぼすような絶望的状況。
一気に士気が下がる津軽と伊達家の面々をみてクズハは笑う。
「ふふ、残ーー念。時間切れねえ。よく戦ったけどあなたたちもこれで終わりよお」
最後にクズハは俺の方を見やる。
「もしかしたらウチの求める英雄かと思ったけどここまでのようねん。残念だわ。ふふ、ふふふふふ、あーーっはっはっはっは……」
クズハの笑い声が戦場にこだまする。
いや、もう一つだけ。笑い声が重なっている。
「ふふ、ふはははははっ」
俺も笑い声が止まらない。
なぜなら一筋の勝利の勝ち筋が見えたから。
「……何がおかしいのかしらん。気でも触れたかしら?」
「まさか。クズハ、お前への勝利の道筋読み切った。この戦い俺の勝ちだ」
「負け惜しみ?」
「試してみるか? あの不細工蜘蛛の攻撃は俺には届かない」
不細工と言われて醜女蜘蛛がいきり立ったように砲撃体制をとる。
「ギィ、ギチギチギチギィッ」
甲板に鋭い脚を突き立てて、顎をかち鳴らして口から先に灼熱のエネルギーが一気に収束していく。
あまりに馬鹿げた膨大なオーラ量に俺とクズハ以外が息をのむ。
当たれば間違いなく死ぬだろう。
それも俺たちをまとめて抹殺できるような圧倒的な砲撃だ。
「じゃあウチは一足先に退避させてもらおうかしらねえ、じゃあね」
軽い調子で素早く灼熱爆轟砲の影響範囲から退避しようと動き出すクズハ。
俺はそれをニヤリほくそ笑み見送った。
なぜなら、クズハは俺たちの盾になるように移動したからである。
「えっ!? なんで、なんで、なんでぇーーーーーー!!」
極太の灼熱の光条はクズハに直撃する。
「なんで、避けたはずでしょ。なんで、ウチに当たってるのよおおーーーー」
必死に砲撃に耐えるも醜女蜘蛛の圧倒的な攻撃力はクズハの鉄壁の障壁も打ち砕いてしまった。
「いや、いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ………………」
醜女蜘蛛の砲撃は俺たちにまで届くことは無かった。
俺の前に立ったクズハがすべて受けきってくれたのだ。
とはいえ、クズハは人型に戻り全身大やけどを負って焼けただれてしまっている。
どう見ても瀕死の重傷だ。
「はあはあはあはあ、あ、……あり、えない。どういう、こと、なの?」
俺は薄ら笑いを抑えきれない。
顔を右手で隠しながら答える。
クズハは確かに醜女蜘蛛の砲撃射線から退避したと思っていただろう。
――だけどなあ。
「クズハ、お前いつから目に見えているものが現実だと錯覚していた?」
「な、なんですって」
クズハが目元に手を当てると驚愕する。
現実だと思って見えていた目の前が崩れ、光の粒子となって弾けて消える。
クズハの目をVRゴーグルのようにメティアの立体映像が覆っていたのだ。
それも周囲の景色と寸分の狂いもない映像で擬態して。
そして、土壇場で俺の都合のいい動きをしてもらうよう偽物の仮想現実を映し出しクズハを灼熱爆轟砲の射線上に誘導したって訳だ。
「いつの間にこんな……まさか」
「気づいたか? 序盤の接近戦、俺はスライム分身で目隠ししただろ。あのときに細工した。お前はそれからずっと現実そっくりの作られた世界を見ていたんだよ。拡張現実をな」
「あり得ないわ。なにかの術だとしてもウチが感知できないなんて……」
「これは魔法や呪術の類いでもない。ただの科学だ」
「科学?」
「異世界の全く別体系の技術さ」
「異世界……」
俺の言葉でクズハは何か閃いたようだ。
独り言のように小さくつぶやく。
「――そうか。そういうことねえ。人相が変わってるけど貴方がテレジアの探していた結城義友だったのね」
俺はあえて答えはしなかった。
だがクズハは確信したようだ。
「そう。ふふ、あははははははっ、今日は人生最良の日だわ。ついに見つけた。探し求めていた英雄をついにみつけたわあ」
「なにを笑ってるんだ。お前は終わりだよ。何企んでいるか知らないがここで俺がとどめを刺す」
「ふふふ、いいわよお。殺しなさい。そして、貴方の力の糧とするのよお」
「瀕死とはいえこれで確実に倒す」
俺はくまみんの背中を飛び上がり、宙返りしつつ脚に過剰なほどの覇気とオーラをたたき込んでいく。
俺の両足はまばゆい光に包まれ、
「【神駆】」
移動系最上位スキル【神駆】を発動し、空中で亜高速ダッシュ。
さらに左足を蹴り入れながら限界を超えてオーラを纏った。
「【天兎閃光烈脚】」
今、俺が放てる最高攻撃力の魔技。
普段は制御できず抑えているのがやっとの力を攻撃に用いる。
膨大な覇気とオーラを脚限定で解放してぶつける暴走攻撃だ。
クズハは最後、悲鳴すら上げることなく俺の攻撃を静かに受け止めた。
『――また会いましょう』
俺ははっとクズハを見るが既に消えた後。
その言葉の真意は分からない。
最後どういう意味だ。
「頼経さん」
自由落下を続ける俺を美咲さんが抱きしめて回収してくれる。
しばらく脚は使い物にならないな。
天兎閃光烈脚は俺の足も壊してしまう諸刃の剣。
なので最後のとどめにしかつかえないのが欠点だ。
その分、災厄の上位体すら滅ぼす高い攻撃力を秘めている。
「また無茶をして。その脚どうするつもりですか」
「ごめん、心配かけた。でもどうにかなっただろ」
美咲さんは俺をさらにぎゅっと抱きしめた。
「頼経さんはすごいですね。どんな絶望的な展開でも塗り替えてしまうのですから」
「メティアのおかげだよ」
《ふふん、その通りだよ。だから美咲――どさくさに紛れて頼経を抱き締まるなっ。ぶっ潰すぞ。喧嘩売ってんの。やってんやんぞコラ》
「いやです、私の城主様なんです。メティアさんにだって渡しませんから」
「いや、二人とも。まだ醜女蜘蛛が残ってるんですけど……」
下半身が動かない俺はなすがままだ。
そんな俺たちに市さんの呆れた叱責が飛ぶ。
「なにやってんだ、バカやろ」
伊達家の面々もいろんな意味であっけにとられていた。
完全にしてやられた醜女蜘蛛はといえば、憤慨したかのように顎を打ち流し、怒りをあらわにしていた。
さあて、逃げるとしますか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます