第30話『窮地に希望。伊達家の参戦』

「はーーっはっはっは、これが貴族の特権。高位貴族の力であーる」


 シューキュリムは金と権力にものをいわせた高性能の魔導具を十五個も身につけている。

 複数の魔導具は多重詠唱という高等技術を可能にする。

 金と権力、これが貴族の力と言えばその通りだ。

 風の刃が何十、いや数百と空を舞い、シューキュリムの意思に従い飛び交う。

 市の周りを三六〇度次々と襲いかかってくる。


「市様」


 津軽藩の空戦騎獣兵が援護に近づこうとすれば風の刃は牙をむいてくる。

 既に何人も味方がシューキュリムの魔法によって犠牲になっている。

 安易には近づくことが出来ない。

 盲目の市はたぐいまれなる空間把握能力と心眼を頼りに魔法を躱し続けている。


「おめえさんがこの艦隊の指揮官かい?」

「そのとおりであーる。我が名は帝国軍東伐第二艦隊司令シューキュリム。貴様はだれか」

「津軽藩家老、桜鈴の市。へへっ、冥土の土産におぼえてくんな」

「失せろっ、下郎がっ」


 市はちりーんと鈴の音をならすと攻勢に出る。

 襲い来る無数の風の刃を斬り伏せる。

 背後から来ようとも仕込み刀で霧散させる。

 背中に目でもあるかのようだ。


「ありえん、剣で魔法を斬るだとっ!?」

「何を驚く? 武士ならば魔法を斬るなど珍しくねえ」

「そんなわけがあるかっ」


 シューキュリムは音楽の指揮者のようにタクトを振るう。

 激しく、素早く魔法のタクトを振り、魔法を重ねていく。

 勢いを増した風の刃が市に向かって殺到していく。


「倒魔閃流【静水無斬】」


 一見ゆったりとした穏やかな剣閃。

 市のその斬撃からオーラの波動が波及する。

 オーラの波紋に飲まれた魔法は制御を失い、術者に牙をむく。

 風の刃がシューキュリムに向かって戻っていく。

 まるで静水が重力により高いところから低いところに流れていくように、シューキュリムの風の魔法が逆流していくのだ。


「ぐはあああっ」


 オーラで防御するも体中をズタズタに引き裂かれ、呆然とするシューキュリム。

 一体何が起こったのか、その表情は困惑に満ちていた。

 市が鞘に刀をしまい抜刀の構えで近づくと、


「よ、よせ。やめろ。わかった降伏する。だから命だけは……」


 シューキュリムは突然命乞いを始めるのだった。

 その様子に眉をひそめ、わずかに動きが止まった。


「馬鹿めえいっ、かかったな」


 怯えた様子から一転。

 シューキュリムは市をあざ笑う。

 指さす先は市の背後。


「やれ、フリーデン」


 姿を惑わす特別な軍服で息をひそめていたフリーデン。

 それはちょうど市の背後をとって槍を振り下ろすところだった。

 左足がわずかにズサッと下がり、渾身の魔槍が振られるところで、


「――っ」


 市はとっさに移動系スキル【縮地】を発動。

 後ろを向いたままフリーデンの体に背中からぶつかった。


「なにっ!?」

「甘いんだよ」


 市は持ち手を逆手に持ち替えて刀を鞘から引き抜く。


(逆手でなにを……まさかっ)


 フリーデンはよぎった市の行動予測にぞっとした。

 すぐに逃げだそうとするが市の踵(あくど)で足の甲が踏み抜かれ動けない。


「ま、不味い」

「終わりだ」


 市は切腹するよりも遙かに勢いを乗せて自身の腹に刀を差し込んだ。

 そのまま深く、深く刃を突き込みフリーデンごと貫いたのだ。


「――ごぶっ、し、信じられん。貴様も死ぬぞ」


 市は平然とした態度で腹に刺さる刀を引き抜く。

 フリーデンはたまらず膝をついた。

 手で押さえた腹部からはドクドクと大量の血が流れ出る。血が止まらない。

 急所を的確に貫かれたのだ。

 それに対して、市は懐からポーションを取り出し腹部にかけると止血を終える。

 貴重な回復ポーションを惜しげも無く使うところも驚きだった。

 教会でも貴族が高額の心付けを納めてどうにか手に入れるポーション。辺境のド田舎の武士がてにしていることがおかしい。

 さらに市は信じられない事をいう。


「馬鹿野郎、自分で刺したんだ。当然急所はさけたに決まってるだろうがっ」

「なんだと。だが正気か。何のためらいもなく自身の腹を切るなどと……」

「なめるなよ。腹を切るのが怖くて武士が戦できるか。ばかやろ」

「なっ」

「俺らは守るべき民がいる。それは命をかけても守るべき誇りだ。あんたらの女神のためだとかふざけた覚悟と他人の正義語りで人を殺す帝国にとやかく言われる筋合いじゃねえ。ばかやろこのやろ」

「くっ」

「ついでにいやあ、あんたはうちの城主に見切られてるよ。その魔槍が突き切らないと三連撃にならないこと。使い手の半径1メートル以内では三連撃は発生しないこと。追跡を振り切った様子からその服が迷彩機能を持つこと。死線をくぐりすぎたあまり殺気のない行動には反応が一泊遅れること、全力攻撃時はわずかに左足をすりさげることなどもろもろな」

「…………」


 フリーデンは市の戦闘における狂気も恐るべきだがそれ以上にフリーデンの武装の能力や癖を見切っていた城主とやらに戦慄する。


「まさか、武以外で他人を脅威に感じるとはな」

「はっ、それには同意するぜ」


 市はフリーデンを袈裟懸けに斬り倒し、シューキュリムに向き直る。

 まさか序列12位の天秤騎士が負けるとは思わず恐怖に顔が引きつったシューキュリムは這うようにして情けなく艦内に逃げ込んでいく。


「ひいぃ、皇国の武士はクレイジーなのであーる」

 

 本来ならば大将をとれば勝ちなのだが市は空を見上げて頷く。

 シューキュリムを討ち取っても空の上の女は止まらない。


「てめえの命はお預けだ。まずは災厄の使徒をどうにかしねえとな」


 首と肩を回して指笛を吹くと市の騎乗魔獣が駆けつけ飛び乗った。



 ◇ ◇ ◇



「お前も災厄の使徒か?」


 俺は失った腕に回復ポーションとスライムの再生能力による修復を試みる。

 会話はその時間稼ぎだ。


「うふっ、そのとおりよ。初めまして。ウチは災妖族のクズハ。よろしくねえん♡」


 妖艶に微笑みかけてくるクズハに俺はめまいを覚える。

 どういうわけかクズハから目が離せなくなる。

 角さんからは警鐘が鳴らされ、クズハからの精神攻撃の報告が上がる。

 ――精神攻撃!?


「お、俺は……新田頼経だ。よろしくお願いします」

「あはっ、貴方でしょ。ウチの策を次々と破ったのは。ああ~~ゾクゾクしちゃう。ウチは優れた英雄が大好物なの。ねえ、貴方はウチのものになってくれるの」

「……は「頼経さん、浮気ですか?」」


 美咲さんのドスの効いた声音。

 ちびりそうな声ですぐ現実に引き戻された。

 ヒェッ、左手にもつ鞘がなんだかミシミシいってるんですけど……。


「ち、違います!!」

「ですよねーー。私は信じてましたよ?」

「あらあら、チャームは防がれちゃったかしら」


 クズハはおかしそうに笑ってる。

 まったくこいつなんて恐ろしい攻撃してくるんだ。

 妙にエロい体してるし、言動が妖艶で見ていると変な気分になる。

 体から毒電波でも出てるのかな?


《あ、ほんとにクズハの体から見えない毒が放射されてるよ。近くで浴び続けると死ぬみたい。よく気づいたね、頼経》

「ぎゃあああ、俺まだ毒耐性ないんですけど!?」

「頼経さん、援護します。【キュアリジェネレーション】」


 状態異常の継続回復神術が美咲さんから広範囲の味方に付与されていく。


「あら、毒も見破るの? ふざけているようで的確に対処してくるのね。あなたますます面白いわあ」


 頼経に一層熱い視線が向けられると美咲の痛い視線も俺に向かう。

 俺は全力で否定の身振りを試みた。

 見とれてませんよ、だからそんな目でみないで?


「あの人、危険ですね」

《女狐が、私が殺ろうか?》


 美咲さんは俺の前に立ちクズハを警戒し、メティアはブチ切れる寸前だ。

 実体化したメティア降臨は最後の切り札だ。

 出来ればこのカードだけはギリギリまできりたくない。


「それにほんといたのね、テレジアと新教以外に癒やしの権能をもつ神が」


 クズハは俺を見るのとは真逆に仇敵を見る目つきで美咲さんをにらむ。


《頼経、解析完了。最初の攻撃は幻術だった》

⦅――すぐにクズハの正確な位置情報をくれ⦆


 消えたように見えたのは幻術によってそこにいたと錯覚されていたからだった。

 メティアから幻術を看破した正しいクズハの視界情報が入ると、今も俺は見当違いに場所を認識していたことに気付く。


「させるかっ」


 美咲さんの背後に迫っていたクズハにくまみんがベアクローで攻撃。

 それを長いキツネの尾ではじかれ、くまみんの上から飛び出した俺がクズハの頭上を宙返り、背後にまわり両手でクズハの目を隠す。


「ふざけているのかしら」


 目が見えずとも、クズハは俺に扇子の強烈な一撃で弾き飛ばす。


「あら、殺しちゃった?」

「頼経さんっ!!」


 文字通りはじけ飛んだのだがそれは俺のスライム分身だ。くまみんの背中の毛皮に隠れていた俺は今度こそ飛び出して光のオーラを込めた両手をたたく。

 パァーーン!!


「超フラッシュ猫だまし!!」


 大光量の光が目の前ではじけたためクズハは目を覆いひるむ。


「きゃあああっ、目が、目がっ」

「今だ、美咲さん」

「はい、合わせます」


 俺と美咲さんが両サイドから蹴りと斬撃を浴びせかける。

 しかし、パアァーーンとむなしくクズハの強烈なオーラにはじかれた。


「か、堅すぎる」

「なんてルインオーラなの」


 あまりのオーラの厚さに心が折れそうになる。

 どれだけクズハに攻撃すればダメージを与えられるのか全く見通せない。それほどの障壁強度だった。


「たたみかけるぞ」

「はい」


 クズハが視力を回復するまでにオーラ障壁を削りきるしかない。

 そう思っていたのだが、ゾクッとするほどクズハからの急速な威圧の膨れ上がり感じた。


「まずい、なにかくる」


 その正体はすぐに分かった。クズハの背中の尾が変質し、巨大な漆黒の蛇が顎を開き襲いかかってくる。


「ひぇっ、丸呑みされちゃう!?」

「させませんっ。聖天一刀流二の型【双竜撃】」


 美咲さんが割って入り左右から鞘と刀による滅多打ちに滅多斬りで追い払ってくれる。

 俺を抱きしめると美咲さんはさっと後方に桜鷹丸を飛ばして距離を離す。

 くまみんは黒い蛇にしがみつき、ガシガシ、とベアクローで奮闘中だ。


「この好機を逃さずもう一度攻めます」

「だめだ。くまみんも戻れ」


 俺の命令で戻ってきたくまみんに騎乗する。


「頼経さん?」

「蛇は嗅覚で俺たちの位置が分かるからもう迂闊に近づけない。何より……」


 俺が指を指した先はクズハの背中の尾。

 それらも続々と姿を変えていく。


「クズハの尾は八つあった。あれがすべて変わったら……」

「ま、まさか……」


 クズハの背後には長い首のようなものが十メートル伸びていき、炎、風、岩、雷、水、氷属性の竜の首。それとキツネの頭、黒い蛇の頭が顔を見せる。

 まるで八岐大蛇を思わせるような八つの首が出現した。

 八尾のキツネじゃなくて大蛇かよ!?


「九尾のキツネと思ったらこれはひどい詐欺だ」

「うふふ、この姿になったウチにどう立ち向かう気かしら。楽しみだわあ」


 クズハさんなんか楽しそうですね。

 そもそもなんで八尾だ?

 九尾じゃないのかよ。

 これってまだまだ変身を二段階残してるとかってパターンじゃないよね?

 もう何度も角さんからの警告が発せられる。

 俺たちが勝てる可能性が天文学的な数値になっているらしい。

 小数点が多すぎて笑えるくらい。もうほぼ勝率ゼロパーセント。

 だから逃げろと何度も訴えてくるのだ。

 分かってるよ。こいつが強いことはビリビリ伝わってくる。

 でも逃げる気は無い。


 【理解不能】

 角さんからそんな回答が来た。

 この程度の修羅場はじめてじゃないからな。

 【撤退推奨】

 ただ逃げても全滅するだけだ。

 【無茶無謀】

 ま、黙って見てろって。

 【頑固一徹】

 ――それもう悪口だよな!?

 

「さあ、第二ラウンドといきましょう」


 クズハは俺に力を見せつけるように近くにあった帝国飛空艇巡洋艦級にむけて炎の竜首から灼熱のブレスが放たれた。

 鉄張りの装甲は溶け落ちあっという間に火に包まれ墜落していく。


「巡洋艦級が一撃かよ」

「そもそも帝国みかたの船を沈めるなんて……」


 まあ、災厄の使徒から見れば帝国軍は利用しているだけ。

 味方という認識はないのかもしれないな。


「頼経さん、ブレス来ます」


 先ほどの炎の竜首がこちらに向けて力をため込み吐き出そうとする。

 ブレスを阻止するべく駆けつけた市さんが手で印を結び叫ぶ。


「倒魔水遁、【水流瀑布の術】」


 クズハに大量の水が降り注ぎ、攻撃をキャンセルした。


「美咲様、新田殿、俺も参戦するぜ」

「市さん、心強い」


 俺と美咲さん、市さんでクズハを囲み、水遁の水が引くのを待って攻撃を仕掛ける。

 俺には水の竜首が迫り、ブレスを撃ってきそうだったので瞬脚で接近。

 横殴りの蹴りをお見舞いして向きを変えた。

 ブレスの向きを変えられた水流ブレスの先には炎の竜首がありビシュッと切断された。

 ヒェッ、超高圧水流のブレスだったようだ。

 これってあれだよな。ウォータージェットカッター。

 威力のほうはすごすぎて笑うしかない。 

 更には切られたはしから再生が始まっている。……マジかよ。


「あぐっ」


 美咲さんは岩の竜首が自爆するように爆発、礫がはじけ飛んで巻き込まれる。

 市さんは風と雷の竜首の合体ブレスに押されてこれまた飛ばされていく。

 クズハはまだまだ余裕の表情。

 あーー、これきついわ。

 残り竜首が一斉に俺に向かって襲いかかってくる。


「ぎゃああ、逃げ場ないじゃん」


 俺はスキルの攻撃予測支援を全力稼働して必死に逃げる。

 もう直撃さえしなければいい。

 何度も体当たりとかみつきとブレスがかすめていく。

 全身ボロボロ、生きた心地がしない。

 なんとか包囲をかいくぐり、


「スライムの弾丸バブルボム」


 ふわふわしたシャボン玉のようなスライムを何十とばらまき残して、俺とくまみんは全力で退避する。


「あら、綺麗ね」


 クズハはシャボンスライムを余裕で眺めていたが、


 ドガァアアーーーーン!!


 ばらまいたスライムは自爆する爆弾スライムだった。

 堅牢な城壁すら一撃で吹き飛ばすような火力だったのだが……。


「あははは、新田頼経。いいわあ。あなた玉手箱のような男ねえ」


 いくつか竜首が損傷したがそれだけ。クズハは無傷だった。

 クズハ本体のオーラ障壁がエグいくらいに厚いのだ。


「くっそ、ほんとに化け物かよ」

「三人の中では貴方が一番弱い。なのに攻撃をしのいだのも、ウチに一番損傷を与えるのも貴方。うふ、本当に興味深いわあ」


 クズハの熱視線がますます強くなっていくように思える。

 ますます危機感が募っていく。

 戦線に復帰した美咲さんと市さんがクズハに挑みかかりも攻めあぐねているのが見える。

 グズグズしてると竜首に与えたダメージも回復されてしまうな。

 俺はもう総力戦の構えだ。

 市さんと美咲さんがまたも傷つき吹き飛ばされたのを見た後、スキルで各部隊に命令を出す。


「オークライダー部隊、榴弾砲撃開始。エルフ部隊一斉射撃」


 俺の指示で対空榴弾砲台からの支援砲撃とエルフによる弓の精密狙撃が入る。

 AIスキルによる演算補正をかけた射撃は正確に小さな的であるクズハへと殺到していく。

 地上から――頭上からもと炸裂弾によるすさまじい爆発音が断続的に何十、何百と響き渡る。

 爆炎が広がりこれ以上は視界が悪くなると判断するギリギリまで攻撃を続けた。


「砲撃やめ!!」


 煙が晴れていき、一応期待したのだがやはりクズハはピンピンしている。

 竜首を盾にするようにしたのもあるが、やはりオーラ障壁が堅い。

 角さんが勝てないという理由が分かる。


「ふふふ、ここまで骨にある敵は久しぶりね」

「まだ終わりじゃない」

「えっ」


 クズハは頭上に影が差したのをみてはっと上を見上げる。

 もう遅い。

 俺は上空スライム飛行船の分身からさらに上空より遠隔のアイテムボックス発動で巨岩を落としていたのだ。

 砲撃でクズハを落とせるとは思っていない。

 だが高速で落下する大質量の岩ならどうだ。


「ああ、すばらしいわあ、本気で夢中になっちゃいそう」


 竜首たちと蛇で岩を受け止めつつ落下するクズハは残ったキツネ首の口を開かせ、ブレスの体制をとる。

 オーラの収束を感知する。

 角さんから脳内でけたたましい警報アラートが響き渡った。

 

「【妖魔破砕砲】」


 高密度の破壊光線が放たれると空が一瞬閃光に包まれた。

 ひどい耳鳴りと極太の光条が岩を貫く。

 二百メートル近い岩が一瞬で砕かれ塵となった。

 俺は唖然とするしかない。

 醜女蜘蛛の灼熱爆轟砲には及ばないがそれでも小山を消しとばす位の威力はありそうだった。

 さらにクズハは空に向けて炎の竜首、地上にはその他の竜首を向けるので慌てて叫んだ。


「全部隊回避行動をとれ。急いで逃げろ!!」


 上空のスライム飛行船には炎の豪火球が伸びていき、地上には次々と水や嵐、雷などの攻撃が着弾し地形が瞬く間に変化していく。

 スライム飛行船は直撃は免れたがこれ以上の戦闘は難しい。

 地上も大地がえぐれて巨大なクレーターがあちこちにできた。

 負傷者が多くて目を覆いたくなる。

 ああ、さすがにこれはまずいか。

 スキルを通じて全部隊に撤退の指示を出す。

 美咲さんもあまりのクズハの強さに弱音が出る。


「これが災厄……、こんなのどうやって戦えばいいのですか」


 俺も正直途方にくれたい気分だ。

 そんなときだ。

 俺はスキルで戦場の端から高速で向かってくる空飛ぶ集団の存在に気がついた。


「――諦めるなっ!!」


 その未確認の集団の方角から二十というブレス火球がクズハに向けて放たれた。

 

「ちょっとお、なんなのよお」


 突然の横やりに不機嫌そうなクズハだが予想以上の攻撃だったのか驚愕に目を見開き竜首で防御する。

 炎と風と雷の竜首が吹き飛び、クズハは舌打ちする。

 俺は目をこらして注視した。


「龍?」


 先行してやってきたのは龍に騎乗した隻眼の若武者。

 彼に続く兵の中に旗を掲げる者がいる。

 竹に雀の家紋をあしらった旗だ。

 俺たちをみて若武者は言った。


「我は独眼竜伊達政宗。津軽藩の武士たちよ。救援に参った」


 腰の二つの刀を抜いて高らかに宣言する。

 三十騎の龍にのった空戦騎獣部隊がクズハを取り囲む。


「義によりてこれより伊達家が参戦する!!」





 

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