第9話 『軍備開始。魔物軍結成!!』
慣れというのは怖いものだなあ。
地球から召喚された俺にとってスキルや魔法といったものは得体の知れない未知の現象。それをいつの間にやら当たり前のように甘受してたのだ。
それはとても恐ろしいことなのだ。
なぜそんな事を考えるに至ったかって?
これを見て欲しい。
【ユニークスキル『弱者の革命』(一部能力封印状態)】
(※一部機能が解放されました。)
紡いだ弱者の絆や縁によりアカシックレコードを経由してその者たちより知恵や思考、経験の情報伝達、情報処理をすることが出来る。
スキル習得後から一定の確定した絆もしくは、支配、種の従属、忠誠、契約など一定の縁を結ぶと
スライム種族 → アクティベート(一部除く)
○利○夷○将○ → アクティベート
一角ウサギ種族 → アクティベート
アイゼンブルグの民 → アクティベート(国に帰属意識が残っている者に限る)
ブラッティベア種族 → アクティベート
一定数の縁を得たことで並列相互情報処理能力が向上。
演算の速度と精度が上がりました。
新たなリンクスキルを獲得。
【SRリンクスキル『
スキル所持者を無視して最良の道を独自に模索。『弱者の革命』が自動運用できます。なお、本スキルは解除不可。
ホワーーイ!?
なんなのさ、そのふざけたスキル。忖度って何の冗談だよ。
解除不可って制御不能ってことじゃないかよ。
こういうのはな、自動運用されますっていうんだ。
どうすんのこれ。
虫食い欄がある縁のアクティベートも気になるけどさ、この忖度スキルはまずい。
あ、でもよく考えたら冷静になれた。
これってメティアと変わんなくね。むしろ、ウザ絡みしてこない分ましだな。
最初は慌てたけど俺は開き直ることにした。
解除出来ないならもう突き進むしかない。
一応スキル説明を信じるのなら不利益になる事はしないはずだ。
……多分。そうだといいなあ。
そして、早速俺のスキルAIはやらかしてしまったらしい。
俺の角から受け取った情報は美咲さんに相談することにしたのだ。
――――――
――――
――
少し時間を遡って、俺は軍備に時間を割いていた。
元アイゼンブルグ王国の民とジェノサイドベアたちを練兵しなくてはならない。
戦意はなぜか非常に高い。必死に訓練について来てくれる。やっぱ俺のアイテムボックスにある豊富な食料とお酒に物資で忠誠心が爆上がりなのだと思う。
かつて西欧大陸で試した現代農法と商業で荒稼ぎしている。特に農作畜産品は余剰生産分を俺が大量に買い取ってストックしてあるのだ。
さて話を戻そう。
兵種は主にジェノサイドベアとそれに騎乗する一角ウサギの上位種だる獣人とオーク、エルフを主力とした以下の計330騎だ。
『ラビットライダー』200騎
『オークライダー』100騎
『エルフライダー』30騎
数はまだ少ないがその戦闘能力はすさまじい。そもそも、ジェノサイドベアは人間なら軍隊が出動するほどの上位の魔物だ。
鋼鉄の剣や弓すら通さない丈夫な毛皮と時速60~90キロで走る四メートル以上ある熊だ。もう装甲戦車と変わらないよね。さらに、鎧も軽々と切り裂くジェノサイドクローと牙も持っているんだから敵に回したくない。
加えて戦闘時には騎乗する戦士も忘れてはならない。
ラビットライダーは交戦時にはその身軽さから戦場で騎乗を繰り返し、敵の攪乱をする。その隙にジェノサイドベアが敵を倒すジェノサイドベア主体の戦闘スタイルだ。
逆にオークライダーはオークが騎乗したまま巨大な獲物を振り回し、一度に複数の敵兵をなぎ倒して戦う騎馬スタイル。
最後にエルフライダーはエルフが騎乗して高速移動しながら弓を放ち、正確に敵を射る。それも同時に4本発射して全部命中させるとか神技すぎる。
エルフまじすげええ。
さらには魔法まで使えるからエルフライダーは切り札部隊の一つだ。
ラビットライダー部隊は一角ウサギ獣人の英雄種カイン君にお任せしている。ただし、こいつだけ妙に俺に反抗的なんで任せて大丈夫かと不安要因の一つだ。でも他のウサギ獣人に目立った武勇を持つ人がいない。
いや、アリシアさんがいるんだけど彼女は別配属だからなあ。
オークライダー部隊は女戦士のジュナさんにお任せする。気さくな人で粗暴な雰囲気もあるけれど俺の指示にはちゃんと従ってくれるから俺としてもとても頼りになるお姉さんだ。ちなみにオークだけど肌が緑っぽいだけで見た目はエルフに近い。ただ全体的にエルフよりも体のメリハリがすごすぎて直視できない。童貞の俺には刺激の強いお姉さんだ。そして、そんな俺をからかってスキンシップ過剰に接してくるので辞めて欲しい。
エルフライダー部隊は元近衛隊リーンさんにお願いした。寡黙で言葉が短い。角による相互情報伝達がなければ意思疎通に支障がでそうなほどだ。それと意外なことに思考による情報伝達になるとリーンさんは
もう一つの主力は元アイゼンブルグの元近衛隊3番隊長だったというオーガ族イデアさんを中心とした歩兵部隊およそ500。
アイゼンブルグの元近衛兵も30人が加わっている。本職がいるとはうれしい誤算だ。練兵には彼らの力も大いに役に立つ。
シャルロッテの呼びかけで各地に散った様々な亜人にも声をかけてくれることになった。アイゼンブルグの再興に呼応してオークを含む亜人らも集まりつつある。これからもっと戦力を拡充していけるだろう。
後方支援としてはシャルロッテ元王女を中心に錬金魔法使い部隊がいる。錬金術による魔法薬の支援と魔法の併用で後方から戦場を支えてくれる重要な部隊だ。近頃、角さんとシャルロッテは情報伝達で共謀し、回復薬だけでなく攻撃型の魔導具や薬も開発してるみたいで詳細を聞くのが怖くなっている。
なぜって普段からシャルロッテは訓練で負傷した兵の治療に効果はすごいのにめっちゃまずい飲み薬や見た目がグロい薬を出すので畏れられている。
まあ、訓練兵は衛生部隊のお世話になるのを嫌がって怪我をしないよう必死になるというし、……いいのかな。
兵から改善の要望が大量に陳情されてくるけどそれはシャルロッテ本人に言って欲しい。俺は関わりたくないからね。
最後だが強行に謎の部隊が作られた件。
『バニーメイド部隊』10人である。
神聖秘薬によって古傷も全快したアリシアさんの実力は最強だったりする。彼女によって選抜された選りすぐりのバニーラビット族で構成されるメイドさん部隊だ。
そして、俺直属の親衛隊扱いになっている。
俺が朝起きるといつもアリシアさんがいて俺の寝顔をじって見ているし、呼ぶといつもすぐに現れる。シャルのお世話もしているはずなのに謎だ。
メイドなのに家事だけでなく戦闘、狩り、諜報、暗殺すべてをこなす。いや、暗殺なんてやらないけどね。
バニーラビット族はウサギ種のなかでも例外的に精強な種族と敬意をもたれる。というか恐怖の対象だ。アイゼンブルグのウサギ族とニンジンに悪さをするとバニーラビット族に潰されるぞ、なんて脅し文句も広まっているとか。なぜにニンジンまで入るのかが謎なんだけどね。
……こんど西方大陸で作った特製のニンジン料理でもごちそうしてみようかな。
俺の不在時は、スラユル腹心のスライムが合流したので、彼に任せてある。
その名も『スラみつさん』。スラユル一の舎弟である。
スライムなのに人間に擬態できるし、超強い。ワイルドで頼りになる兄貴分気質から思わず心の中でもさんづけしてしまうほどだ。現代式のブートキャンプも習得しているのできっと鬼教官としてひよっこどもへの特訓が始まっていることだろう。
とくにカインの教育は頑張って欲しいところだ。
スラみつさんとは額の角がアカシックレコードを通して伝達遅延ゼロの適切な指示を勝手に出してくれる(忖度スキル暴走中)。
いやあ、この演算能力マジで役に立つ(ただし、報告がない)。
その力は内政や軍備においてもその力を遺憾なく発揮してくれるだろう(本当に大大丈夫なんだよな、忖度スキルさん?)。
そして俺はいま、広咲城天守の目の前にいる。
俺の角は仕事をしてくれた。珍しく報告が来たと持ったら、なんと天守の下の石垣の中には巨大な人工の空洞と入り口が存在することを発見したのだ。
こういうところは忖度スキルマジすげええ。素直に感心する。
てなわけで、これから探検が始まるのだ。
おらワクワクしてきぞぉーー。
美咲さんを伴って調査すると天守から七十メートル以上移動した先に地下への隠された入り口を発見した。
キターーー、コレ。
見つけたとき俺は興奮を隠しきれなかったね。こういう秘密基地や遺跡探索とか男心をくすぐってくる。
美咲さんは自分すら知らない構造に戸惑っているようだったけどね。
いやあ、何があるのか楽しみだ。
中の空洞は明らかに人工のものと思われる地下空間が存在した。
壁を見る限り全面希少金属ミスリル製かな?
吹き抜けが存在し、その大きさは天守すら容易に飲み込んでしまうほど広い。
軽く角さんに壁を解析してもらうとなんかすぐに回答がでた。
ちょっと反応がよすぎないか。そんなすぐに解析が終わるもんなのか?
結果はミスリルとオリハルコン、アダマンタイト、ヒヒイロカネ、魔導鋼、ニッケル、クロムなどの合金で出来ているという。
その名も和製神銀超合金スペリオルタイト。すごく強そうな金属だ。聞いたこともない。だがロマン溢れる金属のオールスター合金だ。おもわず興奮したね。
「視界が悪いようです。明かりをつけますね」
美咲さんは神力の光を前方に灯して視界を確保してくれた。吹き抜けの壁添いに沿って渦巻くように施工されたスペリオルタイトの骨組みの階段を降りていく。
数え切れない段数を降りたところでようやく終わりがみえた。
地下には巨大な空間が広がっていて、全容はまだ見えない。規模は東京ドーム何個分とかで表現するレベル。
不思議なのは照明設備のようなものが存在し、既に一部点灯していることなのだ。
「これは一体なんなのですか」
見たことのない設備に美咲は首をひねる。
だが俺は目の前に広がる光景を見て頭に思い浮かぶものがある。
「これって格納庫? それと奥にあるのは造船ドッグ……なのか」
「造船とはもしやここは船を作る工廠なのですか。それにしてもなんて広大な……」
「ええ、俺のいた世界よりも遙かに文明の進んだ設備も見えますね。まるでアニメのスペースオペラ系に出てくる技術レベルだ」
作業用アームや運搬用のパワーアーマーと思わしきものもある。
「うわああ、うわあああ、これってパワードスーツみたいだ。う、動かしてみたい。でも下手に触らない方がいいかあ。ああ、でも動かしたい」
全長3、5メートルほどの作業用パワードスーツをみて俺ははしゃぎまくった。それはもう、操作系には触らないもののボディには触りまくりだ。
「ふわああ、ピカピカの金属ボディ。……ロマンだ」
「ふふっ、頼経さん子供みたいですね」
――あ、お恥ずかしいかぎりです。
「いや、その、すみません」
「いいえ、たしかに頼経さんがいうとなんだか私もかっこよく見える気がしてきますね」
「――っ、わかりますか。あのアームの力強そうなフォルム。重厚な脚部。ああ、これがメカだよ。ロボットだよ。地球じゃあ諦めてたリアルロボットがここでは作れるかもしれない。あははははっ、めっちゃワクワクしてきた」
なにせここには高度な設備の金属精錬機、加工成形用の機械など明らかにオーパーツ級の技術がみてとれる。
この世界の技術レベルと全く釣り合っていない。
けどほんとここはなんなんだ。
ニコニコと微笑ましい美咲さんの視線に俺はだんだんと恥ずかしくなり話題を変える。
「ええっと、……ちょっと上の壁にみえるガラス面の奥が作業アームとかを操作するコントロールルームだったりするのかな」
「新田殿、そのこんとろーるるうむ? というものにつながる階段と入り口も見えます。行ってみますか?」
「ええ、そうしましょう」
階段を上りドアをくぐる。
やはりにらんだとおり。各設備の制御装置が置かれた部屋のようだ。ここからガラス面ごしに格納庫の様子も確認できるようになっている。
内部には幅の長いデスク上に操作画像パネルとモニターも複数連結配置してある。
そこで複数のスライムが忙しそうに触手のような手を伸ばして作業していた。
――ってスライム!?
「ファ!?」
「まあ」
俺は予想外の光景に固まった。美咲さんも驚きの声を上げたのだが緊張感は感じられない。というのもこの場にいるスライムたちに敵意は感じられないのだ。
なにせ、一斉にこちらに気がつくと触手を器用に動かして敬礼の挨拶をしたのだから。
え、なに。こいつらってもしかして味方なの。
「ええっと、新田殿のお知り合いなのでしょうか?」
怒っている様子もなく、美咲さんは純粋な疑問をぶつけるような形でこちらに質問を投げかける。
いや、確かにスライムとくればだいたい俺の配下だけれど俺は知らんよ。
と思いつつも角の演算で調べようとすると思いもよらない事実が判明する。
このスライムは人工頭脳ともいうべき角の演算能力が使役しているスライムなのだという。
忖度スキル~~、またおまえかっ!!
「聞いてないんですけど……」
俺が知らないうちに仕事をしていたようだ。
自分の能力なのに。自分の能力なのにーー。なぜ知らぬぅーーーー。
もうここまでやられると軽くホラーなんですけど。
「すみません。どうやら俺の角が勝手に動いていたようで」
「まあ、そうなのですか。でしたら安心ですね」
「安心、ですか」
「ええ、新田殿が悪いことをするわけがないと信じていますから。角さんもきっとよかれと思ってしたことなのでしょう」
さすが美咲さん。器がでかい。すんなり許してくれたよ。もう、ほんとマジ女神。
もうさ、テレジアと代わってくれないかな。それだけできっと世界が平和になる気がするね。
「ありがとうございます。それにしても『角さん』ねえ」
俺の角にまで人権を認めてくれるようだ。
その海よりも広い寛容さに俺はうならざるを得ない。俺の世界でも人工知能はなかなか人権認められなかったのにな。
しっかし俺の角はもう自我を獲得し始めているのかな。
映画とかだとAIの反逆だとか話はいろいろあるけどさ。まあそうなったらそのときかな。
俺はひとまず自我を持ち始めているとしても味方だと信じることにする。
だってさ、機械に反逆される話も結局人間の方が愚かで自業自得って理由ばかりなんだよ。地球での実体験も含めて俺はそう思っている。
よく聞くだろ、機械は作業ミスしないって。問題はだいたい扱う人間のミスなんだよ。
っつうか疑って不信感もたれる方がめんどくさい。
裏切られるならそのときだな。
なにより俺はスマホのAIだったメティアを大事な相棒として、友達としてつきあってたし、もう今更だ。地球でも事件に巻き込まれてメティアと妹のかのんとともに暴走AIと人知れず戦った事もあった。あのときが懐かしい。
「まあ、そういうわけだから角さん、今後ともよろしくたのむよ」
気のせいかも知れないけれど了解って言われたような気がした。
今は無機質な情報が脳に送り込まれてくる感覚だけど、そのうち脳内で会話出来るようになるのかな。
だったら美少女ボイスがいいなあ。
なんて俺はどうしようもないことを考えているとスライムの1匹が俺たちの前に来て触手をクイクイッっと動かし先導しようとする。
「どうやらついてきて欲しいといっているようですね。いきましょうか新田殿」
「美咲さんは大物ですね」
「ふふ、どうしたのですかいきなり」
「いやあ、美咲さんってほんと動じないよねって」
「どうでしょう? わたくし一人ではきっと慌てていましたよ。落ち着いていられるのは新田殿がいてくれるからに他なりません」
おおう、美咲さん、あなたもひとたらしだね。マジ女神だわ。
俺に向ける微笑みもかわいいなあ。勘違いしてしまいそうだよ。まあ女神が人を好きになるなんてないだろうし考えるだけ畏れ多いよね。
「どうやらこの施設の奥へと導かれているようですね」
しばらく歩いた後、荘厳な扉がひとりでに開いていく。
目に入った部屋はこれまでと打って変わり、神社の本殿にでも入り込んだような木造の内装だった。手の込んだ彫刻芸術が見事に彫り込まれ、天井に描かれた絵も引き込まれるように緻密で精彩さが見て取れた。
「これは……」
中の広い空間の中心に御神体を祀るような神聖な装飾の台座がみえる。その上に輝く大きな赤い宝石を思わせる何かが鎮座していた。
「この宝玉は城郭神の神核ですね。でも……そんなはずは……」
「美咲さん?」
俺は美咲さんがこれほど困惑している様子を初めて見た。城郭神の神核ということは美咲さんの御神体なのだろうか。
つまりここは神域。うかつに入るべきではなかったのでは案じていると、
「これは私の神核ではありません。ですが間違いなくこれは広咲城のもの。そういえば私の神核は……。どうして忘れていたの?」
独り言のように美咲さんは何やらつぶやき、顔面は蒼白になっていた。
そのときだ。ひどく希薄で消え入りそうなほどか弱い和装の少女が姿を現す。おかっぱ頭で黒髪の愛らしい顔立ちの少女だ。
「待っていたわ。あたしは広咲城の城郭神『
青天の霹靂。そうおもえるような衝撃的な内容に俺と美咲さんは言葉をうしなったのだ。
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