第4話 『修行開始。ユニークスキルとスキルAIを手に入れた』


 スラユルとお別れしてから一ヶ月。

 その間、俺は転生した自分の力を確かめるべく周辺で魔物退治をしながら検証に入っていた。

 この世界にはが存在する。魔法という超常現象を引き起こすための元となるエネルギーだ。


 だがそれだけでは魔法は使えない。と呼ばれるものと結合させ練成しなくてはならない。覇気は精神力とも考えられている。だが実際は魂と意思力と何より世界功績が関係するエネルギーらしい。これは邪神竜ファフニルにかつて教えてもらったことだ。


 魔法は魔力と覇気を練成することで魔闘気まとうき別名と呼ばれる力へと昇華する。このオーラを用いて魔法などの超常の力を行使する。人間の体はオーラを練成し魔法を操るための器官、通称『魔錬器』が非常に脆弱だ。だから人間は魔道具で魔錬器の代用をするわけだ。まあ、神々などの超常の者から授かるギフト『スキル』で魔法を使える例外も人間の中にはいるがそれは今いいだろう。


 結論、転生した俺は自前で魔法が使えるようになった。

 わはははは、ついに来た。俺の時代がやってきたーー。

 ――とはいえ今の俺、最弱の一角ウサギだけどね。とほほ。


 この世界ではまとうオーラが戦闘能力に深く結びつくので馬鹿にできない。オーラが高いと魔法が使えない人間であっても防御力が上がり、各種耐性もあがり、身体能力もあがる。上げておいて損のないものだ。


 それじゃあ、基本の整理も終わったし、現状の俺の能力の確認だ。

 まずわかっているのは『アイテムボックス』。スラユルの得意とするユニークスキルの時空間魔法だ。

 異空間内は時間の経過も自在だ。つまり時間を止めていつでも作り置きした料理ができたてホカホカで取り出せる。スラユルが旅路で重宝した最高の能力なんだよね。


 生きている知的生物を収納できないのが口惜しいところだ。

 でもなぜか菌による発酵は出来る。

 ――菌は生物に含まないのかよ!? 

 これに気づいた俺は思わずそう突っ込んだね。いまだにこの線引きが理解できない。

 

まあそういうわけでお酒造りなどにも応用がきくんだよね。メティア監修で作ったこのお酒が西側でも大好評で人脈作りなどにも大いに役立ちましたとも。そんなお酒もアイテムボックス内にたっぷりある。

 クククッ、今後の調略や外交で大いに使えそうだな。この国も酒狂いがずいぶん多いらしいからな。


 あとアイテムボックスは戦闘時にも応用できる。

 俺は魔物領域の森の奥地へ狩りに来ていると敵を見つけた。

 敵性魔物との会敵である。


【ミリタリーアント】

 蟻型の魔物。体長は3メートルぐらい。体の多くは鋼鉄並みに堅い外骨格を持つ。足の速さは時速60キロをたたき出す。

 腹の柔らかい部分と間接部が弱点。もっとも自走する自動車のドアの隙間に刀を突き立てられるかって話だ。いかに困難な敵か理解できるなあ。

 能力はギ酸を強力にしたようなものを飛ばしてくることだ。

 留意すべきは強力な顎によるかみつきだろうか。鉄の鎧を着けても防具ごとかみ砕いてくるので防具をつけても安心はできない。

 だが一番の脅威はその数だろう。群れで行動することが多く、気がつけば何百匹と囲まれている、ということもある。女王クィーンのいる集団ならば万単位の戦力で近隣を襲い始めるのでA級災害級指定がなされる。つまり冒険者ギルドや大名の軍すら動く魔物だ。

 今回俺の見つけた敵はおよそ万にも及ぶ大戦力だ。こいつらが津軽藩に来たら被害が計り知れない。俺がわざわざ森の奥に来たのもこの脅威から津軽藩を守るためである。


 ふっふっふ。俺でなければ単独討伐なんてしない魔物だな。


 こいつを倒すのに有効な手段は魔法による攻撃だ。堅い装甲を持つので並の武器でははじかれる。故に圧倒的攻撃力をたたき出す上級魔導具を多数保有するような上級冒険者たちに仕事が回される。俺には関係ないけど。

 

「悪いが美咲さんのいる領地で暴れられると困るんだ。その前に殲滅する」

 

 俺には勝算がある。

 アイテムボックスだ。中には大量の水をストックしてあった。

 そして、奴らの大きな巣穴の入り口三つからストックしてある大量の水を遠くから目視でアイテムボックスのゲートを開いて流してやった。距離があるほど発動するゲートが大きいほどオーラを消費するが目視出来る範囲ならばなんとか展開できる。

 あらかじめ、他の巣穴も調べてある。それも見晴らしのいい木のてっぺんから目視で確認し、遠隔操作で残りすべての巣穴を巨岩で埋めた。

 

 おわかりだろうか。俺は『水攻め』で奴らを殲滅することにした。

 まともに万の戦力を相手にするはずがないだろ。

 圧倒的な水量による水攻めで奴らはなすすべなく全滅する。

 ふはは、やったぜ。


 基本的に魔物を倒すとしばらくして体の中心に魔石が生じる。これを回収して取り込むと魔物の魔錬器が強化され、最大保有オーラが増大することもわかっている。魔錬器が無いに等しい人間には取り込めないが魔物になった俺には貴重なレベルアップアイテムだ。だからこの安全かつ大量に魔物を屠れたミリタリーアント狩りは非常においしかった。

 魔石の回収も屍ならばアイテムボックスで一括回収が可能だ。

 この利便性と戦術級の工作をも可能にする力。

 アイテムボックスがユニークスキルに格付けされる訳である。


 スラユルからもらった能力はアイテムボックスだけにとどまらない。

 当然、スライムとしての能力も引き継いだ。といっても基本的に俺の四肢の欠損を補った部分だけが再生と膨張、スライムの分身体を作成できるようになった。

 体の膨張性と柔軟性、何より物理耐性能力の高さもありがたい。弱点としては火の魔法などの耐性が弱いということだがそれを克服する戦術も考えてるのであまり深刻な問題でも無い。

 むしろ俺は前向きにこのスライムの特製を用いた独自の魔技を開発中だ。

 その一つが以前に桜花を襲ったハンターたちを撃退した技、

『スライムの弾丸ナックル』だ。

 このスライム弾を高速で打ち出し、敵を倒す遠距離攻撃技をベースに発展系の技の修行もすすめている。



 次は一角ウサギとしての能力だろうか。

 獣時は毛皮にオーラを通すと防御力が増大する。各属性に変換したオーラを通せば、属性に応じた耐性も得られることがわかった。しかも、雷のオーラをまとえば雷撃を付与した攻撃にもなる。攻守ともに優れた能力だな。


 能力ともちがうけど最弱と言われていることが有利に働くこともある。

 俺は魔物の森で新たな敵性体と会敵した。


【アーマードサウルス】

 鎧のような装甲に覆われている馬鹿でかい恐竜型の魔物。全長十四メートルはある巨体に俺は本能でおそれ鳥肌が立った。

 こいつは一流冒険者パーティが複数協力して相手するような大物だ。

 やばい。こいつは今戦っても勝てる相手じゃない。

 体を巡るオーラの量もさることながら質も違う。竜種には独特のオーラの循環法があり自然とそれを会得しているようだった。人間から神仙に至る者もこのオーラの循環呼吸法を会得し極めることで神に近い力を習得するという話だ。

 これ絶対攻撃しても通じねえ。表面のオーラにはじかれて手も足も出ずに負ける未来しか浮かばない。

 俺はダラダラと滝のような汗を流しつつ体を丸めた。くるんとまん丸の鏡餅のようになった俺はこれでお供えの餅と勘違いしてくれないかなってとち狂った発想でやり過ごそうとした。野生の魔物に鏡餅がわかるはずもないのにだ。このときの俺はきっとどうかしていたと思う。

 でもまあ、焦ったけどこのときは獣の形態に救われた。

 やつは最弱の魔物である俺を眼中にないと言いたげに無視しやがったのだ。

 あれだけ大きいと転生したばかりの生まれて間もないウサギさんでは腹の足しにもならないのだろう。

 それとも俺の愛くるしい姿に戦意を喪失したのかな。

 ――冗談だけど。

 しっかし奴は俺を足で小突づき、鼻で笑いやがった。これにはカッチーンときたね。

 ぬおおお、やったらーーー。戦争じゃああああっ。

 頭にきたので培った大量のオーラで思いっきり硬度と突撃力を強化。頭の角で急所を突いてやった。

 クリティカルヒットというやつだ。しかも急所を突いた即死攻撃だ。

 奴は小物と油断し、俺の前でオーラの出力と循環を弱めたのが命取りだ。

 本来であれば近づくだけで困難な大物だ。それが最弱故に簡単に間合いに入り込むことができた。これもある意味で強みかもしれない。

 俺の痛恨の一撃に白目をむいて倒れゆく巨体。正直やった自分自身が信じられない気持ちだったりする。でも湧き上がる歓喜はとめられない。

 うおおおおーーーーっ、やったぜ。ビックキリング。こいつ一匹でめちゃくちゃ最大オーラがあがったよ。


 あとは逃げ足の速さかな。やばい敵に遭遇したらとにかく逃げる。そして、逃げ切れる。そこがしびれる~~。

 しょーーもない能力といわないでね。ここは死んだら終わりの世界だ。ゲームじゃない。確実に逃げられる脚力は重宝する。

 何よりそれだけの脚力なのだから蹴り技も凶悪だ。強敵を倒して強くなっているせいか、最近では蹴りで風の刃を発生させ、空を飛翔する敵も打ち落とせるようになった。

 倒した獲物を見れば綺麗にすっぱり切れている。

 ――かまいたちかな?

 さらに、空中を蹴って多段飛び。空中での姿勢制御にも使えるようになった。

 そのうち、空も走れるようになるのかな。

 そうなるといいな。今のところ飛空艇に手も足も出ないからな。

 文字通りに。


 さてここからが本題だ。

 俺は正直白百合が隠し持っていた能力を侮っていた。そのスキルの真価を知って戦慄したぐらいだ。

 精々一角ウサギの力は逃げ足とその脚力、加えて毛皮の防御力と角の攻撃力ぐらいのものだろうと侮っていた。でも違った。

 スラユルが最後に教えてくれた白百合の伝言がある。


 ――

 ――――

 ――――――

『ここにはいないけれどスノウちゃんから預かっている言葉があるんダ』

「白百合から?」


 白百合とはあんな死に別れ方をしたからどんな言葉を浴びせられるか俺は身構えてしまった。

 しかし、スラユルから聞かされた言葉は意外なものだった。


『貴方のせいじゃない。いずれ運命と向き合うことになる、って』


 その言葉の意味に戸惑い言葉に詰まった。


『それと私の力を愛する貴方に託します、だって』


 白百合から愛するという言葉が出ていたことに俺は自然と感情が溢れそうになって俯いた。


『スノウちゃんは一角ウサギの支配種だったんダ。だから、角を使ったユニークスキルでも最上位のスキルを使うことが出来るヨ』


【ユニークスキル『弱者の革命』】


 突如浮かび上がるスキル名に俺ははっとする。


『スノウちゃんはそのスキルを使いこなすことは出来なかったけれど莫大な覇気を持つ義友なら使いこなせるはずだヨ』

「いや、そんなことはないだろ。白百合は天才だ。白百合で駄目なのに俺が扱えるわけがない」

『最弱の革命は弱さ故に強い者を打倒する究極の力の形だっていってたヨ』

『弱者の心を知り、寄り添い、率いる者が扱えるスキル。ボクも義友なら適任だと思うヨ。だって今のボクには見えるヨ。義友にはいままで助けた人たちのたくさんのありがとうが集まっているんだかラ』

『義友は弱者の希望になれるヨ』

 ――――――

 ――――

 ――



 俺の水晶の角だ。オーラを通すほどにどこまでも堅くなり、金剛石もぶった切れた。しかしそんな感動もぶっ飛ぶようなとんでも能力が発覚したのだ。


 最初のきっかけは、角がふとしたことで倒した魔物をオーラの光に変換して吸収してしまったことだ。こんな芸当が出来たことも驚きだというのに直後、吸収した魔物情報が頭に入ってくる。

 これで俺は気がついたね。この水晶の角はいわゆる演算装置だと。人間の脳では到底処理できない情報も一瞬で演算できてしまう。その後、俺は角からスキルの詳細を開けるようになった。


【ユニークスキル『弱者の革命』(一部能力封印状態)】

 紡いだ弱者の絆や縁によりアカシックレコードを経由してその者たちより知恵や思考、経験の情報伝達、情報処理をすることが出来る。

 スキル習得後から一定の確定した絆もしくは、支配、種の従属、忠誠、契約など一定の縁を結ぶと有功化アクティベート可能になる。 


 ア、アカシックレコードォーーーー!?


 俺はとんでもないパワーワードを見た気がしたが見ないことにした。これってユニークスキルでいいのかな。もはや神の権能の領域ではなかろうか。なるほど、ユニークスキルの中でも最上位と言われる理由はここにあるのかもな。

 現在俺の有効化が可能な弱者の縁はスライム種だけである。

 これはスラユルのマスタースライムとしての支配種権限によるものだ。結果、ほとんどのスライムという種族とこのスキルでつながることが出来る。そして、俺はスキルのアクティベートした後で知ってしまった。


 これってAIだっ!! 


 世界に何億いるかもわからないスライムと思考を共有し演算処理出来るのだ。つまり、高性能のコンピューターと変わらない。

 それにこれを応用すると戦闘であれば予測演算、超高速思考が可能だ。

 これで相手の情報を得るごとにより精度の高い攻撃予測も可能になる。敵の戦闘能力を丸裸にすれば予知能力と変わらない能力になるだろう。これはすごすぎる。

 さらには思考加速によって世界がスローモーションのように感じられ、ゆっくり相手を観察しながら落ち着いて対処も出来るようになった。


 思うにスノーラビット種は一角ウサギの頂点だ。一角ウサギは弱い。故に生き残るため群れで行動し、優れた統率が必要とされたのではなかろうか。だからこそ角同士による一角ウサギの迅速な情報共有と遅延のない量子通信に似た指揮系統が必要とされ、それを可能とする演算の角が生まれたのだと考えられた。

 これってとんでもないことではなかろうか。


 今は俺から分離した小さなスライムの分身体を演算能力で操ることで分身の精密遠隔操作も可能になった。一生物の脳では処理しきれない能力も有効になった。

 これで各地に分身スライムの諜報部隊を放って情報収集に従事させることができる。大きさ1センチのチビスライムでも五感が共有できるので潜入調査もお手の物。変幻自在の体を使ってどんな隙間にも入り込み、共有の亜空間収納能力で証拠物件を確保すればいい。

 俺は自前で極めて精強な情報収集部隊を手に入れたに等しい。これはAIメティアの恩恵をもしのぐ能力だ。まだ、同時に二〇体が限度だけれどそれも今後の成長とスキル習熟に期待すればいいな。

 人間のように返答してくれるメティアがいないのがさみしいけれど。


「ふふ、ふは、ふははははははははははっ……」


 笑いが止まらない。もう一角ウサギを最弱な魔物とは呼ばせない。

 もしかしたらテレジアの支配する腐ったこの世界を本当にぶち壊せるのかもしれない。この力は俺にそう思わせるものだったのだ。だがそれも各地に放ったチビスライムたちがもたらした情報から危機感に変わった。

 俺と桜花を殺すために皇都付近に西側の大陸の神聖フィアガルド帝国から大規模な飛空船団を集結させる予定らしい。他国の軍なのに皇都の近くに駐留を許すとか信じられないことをする。皇国は正気か。馬鹿なのか。

 この国の政治の中枢を担う朝廷では桜花を保護している美咲さんも逆賊として発布するよう根回しが進んでいるようだ。正直かなりやばい。


「マジか。美咲さんまで巻き込んでしまった」


 それにしても俺の懸賞金は破格だからまだしもこの国の中枢は桜花の命を狙ってるみたいだ。桜花の命が脅かされていると知って自ずと怒りがわいてくる。

 それにしてもただの子供を殺すためにこの国中枢の連中が他国の帝国に秘密裏に討伐を要請するというのも違和感がある。この国に流れ着いた時、瀕死だった俺を助けてくれた貴族と思われる少女に桜花を連れて都から逃げるように頼まれた件もある。桜花にはなにか狙われる理由があるのかもしれない。


「ほむ。裏がありそうだな。調べてみるか」


 それに気にかかることがある。俺って死んだことになってるんだけどなんでまだ広まってないんだろ。この辺も調べてみよう。


「とりあえず調査と並行して戦力を確保するか」


 俺の予想が当たればこの地方の人間を当てにしない方がいい。美咲さんを巻き込みたくない理由とは別にしてもだ。


「となると自前で魔物の軍団を組織するかな」


 戦力なら魔物を従えればいい。冒険者には魔物を使役するテイム能力をもって活躍する者もいるし、冒険者ギルドでもそう言い張れば問題はない。

 力を示せば降りやすい魔物の方が遙かにシンプルだ。だがここでも問題がある。知性のある強い魔物ほどプライドも戦闘力も高い傾向にある。

 最弱の魔物である俺におとなしく従ってくれるかどうか。


「むむむっ、考えても仕方ない。説得してみるか。最悪物理で説得しよう」


 正直脳筋とは思う。だが魔物とはそんな脳筋馬鹿が多いのも事実だ。

 俺は笹の葉に包まれていたおにぎりを食べ終わると花園から森に飛びこもうとした。


「頼経、どこに行く」


 そこへ桜花が俺の耳をつかんで持ちあげた。


「あの~~、離してくれませんかね」


 体をぷら~~んぷら~~んとブランコしながら俺はやんわりと抗議する。ウサギをそんな持ち方したらだめだかんね。


「ずるいぞ、頼経。近頃なにやら面白そうなことをしているではないか」

「そ、そんなことないよ。それより桜花は美咲さんが手配した勉強はしなくていいのかな?」

「う、もうオワッタのだ」


 目が泳いでいますよ。俺知らないよ。ちゃんと確認したからね。

 あとで美咲さんに怒られても俺は知らん。そのオワッタが桜花の人生の終わりではないことを祈るばかりだ。


「それより余は体を動かす方が性に合うのだ。都で暗殺者にかけられた弱体の呪いも美咲の修行と剣の解放で解けたのであるしな。余も戦えるぞ」

「まあ、確かに桜花の訓練を見てたけどそこらの武士よりも強いな」


 なにせ集められた津軽藩の兵士百人稽古で全勝してしまうぐらいには強い。


「そうであろ。余はこれでも名のある剣豪から免許皆伝を得ておる。その剣豪の分流として鹿島足利流を使うのだ」

「足利ねえ……」


 中央でその名は大きな意味を持つ。スライムの諜報で知ったのだがあえて突っ込むまい。

 ……思い過ごしだといいなあ。


「それと余と契約している天下五剣たちは超一流の名刀ばかりであるぞ。魔道具としての力も期待していいのだ」


 天下五剣ってその名前も気になる。天下なんて名のつく剣のマスターになぜこんな少女がなっているのか……ああ、嫌な予感がするなあ。やだなあ。もう桜花の存在自体が信管のない爆弾のように思えてくる。


「あーーはっはっは」


 桜花はさばさばと快活に笑う。本当に剣術を語るときは生き生きしているな。それでいて貴人のような優雅な所作は見惚れるほどだ。

 剣をたしなむのに桜花はその長い髪を大切にしている。この国の貴人の女性は長い髪を大切にするというしますます俺の危惧が膨れ上がっていく。

 

 ほんとトラウマと呪いで声を出せなかった弱々しい時期が嘘のようである。何がきっかけか知らないがすっかり心も回復したように思う。少なくとも表面上は……。


「はあ、どうせ何を言ってもついてくるんだろ?」

「当然だな。下手に余をまこうなどと考えぬことだぞ。身体強化魔法で追いすがるし、魔物のおる森で余を置き去りにするつもりかの」

「今のお前なら魔物を皆殺しにしつつ生還しそうではあるけどな」


 そこで桜花は俺をぎゅっと抱き寄せてさみしそうにいうのだ。


「余を一人にするでない。余が信用できるのは頼経しかおらぬのだ」


 桜花はこういうところがずるい。天然の人たらしの素養がある。

 こんなことをされては放ってはおけないじゃないか。


「……美咲さんがいるだろ」

「あれには守るべき民がおろう。裏切らぬと信じたいがどうなるかわからぬ。それに民の命を天秤にかけさせてまで迷惑をかけとうないわ」


 まさか桜花は遠く離れた都の動きに気がついているわけではないのだろうが……。本能のようなもので不穏な動きを感じ取っているのかも知れない。

 なんというか直感がすごいな。

 生まれついての戦闘種族なのかな。


「それで魔物の勢力圏の森にはいってどうしようというのだ」


 もう桜花を巻き込んでしまうしかないな。

 俺は仕方ないとため息をつく。

 

「はあ、ちょっと魔物を従えて自分の手足となる軍隊を作ろうかなって」

「ほう。素晴らしいな」

「反対しないんだな」

「魔物の方が力で従えやすい。なにより手っ取り早い。余の好みだ」


 そうですか。説得という言葉すらなかったね。貴方は脳筋ですか。ええ、ええ、わかりますとも。


「まあ、指揮官に従わないと何もできないような軍を作るつもりはないんで知能は高めの、できれば人型の獣人……つまり亜人系が理想ではあるかな」

「む、兵は指揮官の指示通りに動くものではないか。そのような勝手に動く兵など戦で役にたつのかの?」

「俺は目標を設定して勝手に任務を遂行してくれる考えられる精鋭部隊を作りたいんだ。いちいち指示出すのもめんどくさいしね」


 今の俺なら演算とちびスライムによる伝達があるから可能ではあるけど楽がしたい。だって元人間だもの。

 今は魔物だけどさ、そこは気持ちの問題。突っ込みはなしの方向で。

 ほかにもミッションサクセス型の精鋭で編成する様々な理由や利点はあるけど説明はおいおいだな。いまの桜花にいっても無駄な気がするし。


「なにやらとても不愉快なことを考えてはおるまいか」

「ソ、ソンアコトナイヨ」

「……ふむ。まあよい。それで、あてはあるのかの」

「ああ、既に調査済みだよ。――ってちょっと急いだ方が良さそうだな」


 俺が目星をつけていた集落だがチビスライムから襲われていると連絡が入る。俺は桜花に解放してもらうと走り出す。だがすぐに立ち止まり振り返って、


「桜花ちゃんとついてこいよ。じゃないと守ってやれないからな」

「……ふっ、安心せよ。逆に余がまもってやるぞ。大船に乗ったつもりでおれ」


 なにやらすごくうれしそうな顔をする桜花。

 んん? 俺なんか変なこといったか。


「余の呼びかけに応じはせ参じよ、『大典太おおでんた』」


 妙にやる気を出した桜花は立派なこしらえの刀を召喚する。空間を切り裂き出現する刀を手に取ると、すさまじいオーラが身体強化魔法となって桜花を包み込む。

 そして、俺を追い越さんばかりに走り抜けていく。

 すげ~~、それって刀を亜空間から『呼び寄せ』したんだよな。それだけで超名刀だってわかるじゃん。俺もほし~~。ってか、逆においていかれそう。逃げ足自慢のウサギさんが走り負けそうってアイデンティティーの危機だよ。


「おい、行き先わかってるのか、待てよ」


 そういったものの何でか知らないが桜花の方角は俺の目的地と合致している。

 なにそれ、本能? 本能で正解を嗅ぎ分けてるの。やっぱ桜花って普通じゃないよね。ほんとに何者なんだろうね~~(現実逃避)。



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