19日目


「この金で新しい鎧を打ってくれ!」

「馬鹿が! 少なすぎる!」


 店員と思っていた豊満は店の主だった。

 金を叩き返され続けざまに説教が飛んでくる。


「この程度の金で作った鎧に命を預けられるのかいアンタは! お嬢様の遊びにしても三倍は持って来いってんだ!」

「お、お嬢様ではない! 私は誇り高き騎士」

「誇り高き騎士様だったらもっとないわ馬鹿!」


 店主は怒鳴り続ける。

 私は少し呼吸を整えてから、言った。


「その『馬鹿』と言うのはやめろ……」


 店主はにやりと笑う。


「わかるまで言ってやるよ。馬鹿、馬~鹿。アンタみたいなのが居るから『巨乳は馬鹿だ』とからかわれて……」

「好きで馬鹿になったのじゃないやああい」


 決壊してしまった。


「胸が大きくなり始めてから、お母様が急に冷たくなって、お父様がいなくなって、家庭教師も何度も変えられてわけわかんなくなって、孤児院に預けられて、胸はどんどん大きくなるし、男からも女からも変な目で見られるし、引きこもってて授業出られなくて、冒険者になるしかなくってぇええええ」


 背中をさする手がある。ラーナだった。


「あなたの巨乳が悪いんじゃないの。巨乳を許さないこの世界が悪いのよ」

「殺そうとしてたヤツがなんか言ってるううう」


 涙は止まらなかった。


「まあ、その…悪かったよあたしも…」


 店主は気まずそうに鼻を掻く。


「代金のかわりに仕事をやるよ。それでいいだろ」


 泣き落としなど騎士らしくないが、ここから挽回していこう。

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