4.兄妹騎士の喧嘩を見守る


 選挙中の立候補者の護衛は第一隊から駆り出されるようになっているらしい。

 だがローディは現国王付きの護衛だ。接触は難しいだろうと考えていた。


「それで、何の用だ」


 会食の申し出はあっさり通った。


「勇者様の頼みだ。断れるわけがないだろう」

「……」

「手短に話せ」


 葡萄酒が入ったグラスに手を付けようともしない。

 俺の代わりにケイが口を開いた。


「ローディ、あなたに会ってほしい人が居るの」

「ほう」


 奥の席から、軽装の男が歩み寄る。


「クー」


 ローディの兄、パンはミドルで妹を呼んだ。


「君には、申し訳ないことをしたと思っている。心を閉ざしていた君から、僕は逃げてしまったんだ。君の孤独もわからずに。許してくれ」


 ローディは席を立ち……無言で、兄の腹に拳を突き入れた。


「うっ」


 うずくまった自分の兄をローディは見下ろしている。


「よく顔を見せる気になったな」

「……す、すまなかった、クー」

「女癖の悪さは治ったのか、貴様」


 冷ややかな視線だった。


「あー、許嫁がいるにも関わらず地元で浮気を繰り返して、全員にバレて揉めに揉めて逃亡したんだよね。その人」


 カタリの言葉にあからさまな動揺を見せながら、兄騎士はうずくまったまま後ずさる。


「なぜそれを! いや、違うんだ、クー。僕のせいで迷惑をかけたことは謝る。だが僕は妹を忘れたことは一時たりとも」

「旅の間も現地妻を10人ほど作ってたよ」


 ローディが近付く。


「去勢する」

「いけー! やれー!」


 俺はその脚が兄貴まで届かぬよう引き留める。


「カタリの言うことは気にするな。お前に頼みたいのは護衛だ、そいつの」

「引き受けると思うか?」

「わかった。最悪去勢しても構わんが、保守党の裏にギナミが付いている」


 こちらを向く。


「詳しく聞かせろ」

「兄貴の護衛が条件だ」


 騎士は無言で頷いた。


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