4.異世界からの来訪者とまみえる


 部屋には引き揚げ品と思われる、フジツボの絡んだ鎧や、戦斧が置かれている。

 そして檻に入った巨大な生物がいた。


「よくぞ来てくれた同朋。ああ神よ感謝します」


 全身の毛をふさふさとくしけずりながら、それは祈っているようだった。


「あなた、ええと、この手紙を書いた、人?」

「そうだ! 私の名はモルー。故郷では神父をしていた。ああ、よかったよかった」


 ケイの言葉に答え、やわらかそうな毛に包まれた転生者は甲高く鳴く。鼻をこちらへ近付けた。細い指で檻を掴み頭を下げる。


「なぜ捕まってるの」

「よくわからないが、私の法力が亡骸の放つ波長と近いと言っていた。聖なる力が魔王に近しいとは皮肉な話だ」


 大鼠の神父は突如身体を垂直に伸ばし、辺りの気配を探し始めた。そして檻越しにケイの鞄に鼻を近付ける。


「そこに瓶もあるだろう? 我が法力を強化する聖薬が入っている」


 ケイは瓶を取り出す。神父はまたお辞儀をし、恭しく受け取る。


「この薬は、あなたに必要なものだったのね」

「ああ、これで『奇跡』を起こせば私は自国へ帰還できる。しかし、呼応した亡骸に何が起こるか」


 黒いつぶらな瞳がうるんでいる。


「魔王を再封印するのだろう。この瓶さえ捨てればいい。私は帰れなくなるがそれくらい……」

「いや、早く使って」

「え」


 神父の表情が凍った。


「故郷は大事よ。早く帰ったほうがいいわ。うん」

「こんな世界に居てどうする。研究材料になるだけだ」

「じいじが言っていた魔術兵器とはあなたのことでは?」

「再封印ならここの研究員がなんとかする。お前が帰還したらさっさとこんな所は出ていくから気にするな」

「ちょっと!一目見るくらいいいでしょ!」

「あたしの魔術兵器よ!」


 口々に勝手なことを言う魔術師共に何を思ったのだろうか。


「………」


 神父・モルーは窮屈そうに檻の中で反転し、背中を向けた。


「……この部屋の奥に結界がある。転生者だけが入れる結界だ。そこをくぐれば魔王の亡骸を真上から見ることが叶う」

「やった」


 ケイが拳を掲げる。

 背後から金属音がした。


「見つけたぞ」


 背後の扉を開いたのは研究員ではなかった。凍りついた研究員たちが廊下に倒れ伏している。


「ローディ! まだ追ってきてたの!?」

「お前たちを拘束し、イシスに送り届ける。我が剣を使われたくなければ大人しく従え」


 刹那、青い光が部屋全体を包んだ。

 モルーが瓶の中身を呷ったのだ。

 振り返る。

 青い光。

 夏の空のような……――





 ケイはいつの間にか嘴マスクを外している。


「あんなもの気休めよ」


 部屋の奥には、たしかに結界が張られていた。


 俺は一歩足を踏み入れる。

 なぜか後ろを付いてきていたケイも一緒に入れてしまう。


「ずーるーいー!あたしも見ーたーいー!」


 素を出して革命団のリーダーがわめいている。


「わかったわかった」

「わかればいいのです」


 あっけなく結界は解かれ、ティナだけでなくローディまでついて来た。


「亡骸をちょっと見たらすぐ帰るから」

「お前たちが逃亡しないよう監視する」


 結界の先にある扉を開くと巨大なカプセルが並んでいた。


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