路上の神様
「この列車、どこまで行くんだ」
「それは乗車される方次第ですね。降りたい駅へ連れて行くだけです」
「切符は?」
「いりません」
「そんじゃ、まあ」
「待ってください。あなた、神様でしょう」
「おっ、バレた?」
「いやいや、やめてください、やめて、落ちる落ちる落ちる」
「おれはそこまで太った気ないんだが」
「重すぎるんですよ、神格の存在は……私の列車では運べません」
「馬力が足りないんじゃない」
「あなた一人で乗客八百万人くらいあります」
「ヤオヨロズ制覇しちゃったよ」
「今夜はあきらめてください。はい出発」
「何をなさってるんですか」
「見ての通り。貨物列車が増えるようなもんだろが」
「勝手にリアカーを結わえつけないでください。無理だと言ってるでしょう」
「ケチ」
「安全のためです」
「ちょっとそこまででいいんだよ。なるべくうるさくねぇ場所が良いけど」
「駄目と言ってるでしょう。復路はありませんよ」
「帰ったりしないよぉ、未練なんてこれっぽっちも残ってねぇんだからさぁ」
「分霊があるはずです」
「あったかな。どうだったっけ」
「一度はどうにか耐えきったとして、同じ事を言うアンタが何百も、もしかすると何億人も居るわけでしょうに」
「なるほど、『別のおれは乗せたのに』ってゴネるかもってか? うん、確かに言いそうだおれなら」
「無理です。潰れます。出発します」
「………」
「乗せませんよ」
「……祟っちゃおうかな~」
「その気もないことを言わないでください」
「いやいや本気本気、えーと、そうだ、この帝国を祟ってやる~」
「もう帝国ではありません」
「マジで? じゃあ、あれだ、飢饉を起こしてやるぞ~……」
「具体的には?」
「干ばつを起こしてやる~……あっやべ、ふってきた」
「出発します」
「はあ、面倒くせえ」
「なにがですか」
「はなっからコッチは神さまになんて成りたくねえーって言ってたのに。勝手に崇め奉られて、御社まで立ってさぁ、しんどいったらないんだよ」
「………」
「自然現象が神に成るならわかるぜ? 獣が成るのもわかる。たかだか八十年足らず生きた人殺しの人間がさ、神になるなんていうのは、おこがましいにもほどがあると思わんかね」
「思いませんよ」
「死んでもあれこれ働かされるんだよ、一番は『見守ってくれ』っていうの」
「祖先を守護霊のように扱う方が多いですからね」
「言われた通り見てるだけなのも退屈だから、憑りついてる雑霊を散らしたりな」
「見なければいいじゃないですか」
「できないよ、おれは人間だからさ。海や天や獣なら知らんぷりできるだろうけど」
「………」
「たまに助けたくねぇほどイヤな奴は居るが、選別するほど器用にできなくてね」
「なおさら連れて行けませんね」
「はあ~あ、ちくしょう。嫌な性分に生まれたなぁ、クソッ」
「大人しく神様やっててください。はい出発」
「もし信仰が尽きたなら、その時お迎えに上がります」
「うむ。ご苦労」
了
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