第17話 方やの主人公の経緯

まあ兎に角、その様な諸々の強い鬱屈の果ての一瞬に何故か時代を超えて、此方は私というどうしようもないプータローと彼女はいま邂逅しているわけだ。彼女にとっては何の意味もない一時としか思われないが、私に於いては三保の松原の柏陵の体験だった。はたして出会いの意味は何かあり、そしてそれは啓示されるのだろうか。とにかく先を急ごう…。

いや、暫し、暫し待たれよ。レクチャーが多すぎて物語への嗜好が削がれようが此処はどうしても方やの主人公、即ち私プータローの経緯を伝えねばなるまい。天地の方やではあるが飽くまでも邂逅物語なのだからどうかお眼汚しのほどを…。

「実は私も…」と云いかけてしかし私は口を噤んだ。一葉に負けないくらい世と人への恨み辛みは山ほどあった。現象だけ言えば私はいま睡眠を取られている。エルム街のフレディどもに取り憑かれている。故あって、ある資産家の極道者に因縁を付けられ、その手下どもによる睡眠妨害を受け続けている身だった。もう四年にもなる。アパートに住もうが宿暮しをしようが、(ご存知だろうか?)霊視というやっかいなものを使って何処にでも追い掛けて来、フレディをやる。使い魔と云うほかはないこの悪の霊視女や悪ガキどもの前でプライバシーなど一つもなかった。想念にひっ付くので此方の思念さえもすべて読まれてしまう。眠れなければまともに仕事は出来ないし、身も心も自棄になって、遂にはこのような車上生活者にまで零落れてしまった次第。この「霊視」というやつはヤクザに限らず遍く世にあって(謂わば公然のタブー化している)、これに馴染んだ世人は私の事と次第を笑うばかりである。

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