第14話 不遜な世に抗いたい!
一葉への聖女像が心の中で序々に崩れて行く。実のところ、要は止めて欲しいのだ、そんな話は。‘あなた’であるならば…。しかし一葉は承服しない。「ではやはりあなたもお蝶のような女性を認めるのですね?兄様のために汚れ、そして死んで行ったお媟は立派であると、そう認めるのですね?」「そうは云ってません」「しかしそうなるではありませんか。もしお媟が兄様の為でなく自らの為に身体を売ったとすれば、あなたはどうお思いですか。単に軽蔑の対象とするのでしょうか?自らの為に身体を売る私と、お媟は全く別物ですか。官能の毒などとお為ごかしは止して下さい。毒など百も承知なのです。私は女をこうと決めつけ、人間をこうと決めつけるものに抗いたいのです。世に抗いたい。不貞をなさねばそれができぬとすれば私は敢てそうします!私の立場とはそういうことです」と言い放って彼女はベンチから立ち上がった。まるで私がその不遜な世の中の代表ででもあるかのように厳しい目付きで私を睨みつける。今に至る23年間(もっともワープの間の110年間は省いてほしい)の彼女の人生をすべてぶつけて来るような、実に強い気迫だった。ここに至って私はようやく合点が行く。なるほどそういうことだったのか、いきなり「身を売る」うんぬんをなぜ云い出したのかまったくわからなかったが、これが答えを渋る(いや、そもそも答えられない)私への解答で、且つ挑戦状でもあったのだ。それに打たれて暫し言葉を失いながらも、私はいまさらのように車上生活者にまで落ちぶれてしまった私自身への世の不条理と、それに対する強い怒り、強い鬱屈を改めて思い出していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます