第14話 【怪談】カセットテープ
私が小学生だった頃の話。
当時、アニメ「ポケモン」の歌が流行っていた。
クラスではポケモンの歌が流行っていて、
世間でもポケモンのCDが品薄となっており、
私は母親の知人のツテを辿ってようやくポケモンのCDを手に入れた。
小学二年生だった私は千円をいう大金を支払い、
ポケモンのCDを入手出来たことが嬉しくてしょうがなかった。
クラスの誰よりも早くCDをゲット出来たからだ。
私はCDをゲットした翌日すぐに、
喜々としてクラスのまゆみちゃんに報告した。
まゆみちゃんはクラスでは元気グループだったが、
仲良くしてくれる貴重な存在だった。
「まゆみちゃん、ポケモンのCD買ったよ!」
「え、うそ!いいな!カセットテープに録音して!」
私はまゆみちゃんにと懇願され、
得意げになってその依頼を快諾した。
当時はまだ録音といえばカセットテープにするのが主流だった。
「これでまゆみちゃんともっと仲良くなれるな」と笑顔で放課後を迎えたのを憶えている。
学校の授業が終わりすぐまゆみちゃんの家に行き、
新品のカセットテープを受取った。
「よろしくね!早くポケモン聞きたい!」
「まかせて!明日学校持ってくね」
「約束だよ!」
まゆみちゃんにせがまれ指切りげんまんをした。
家に帰った私は、早速まゆみちゃんから預かった
カセットテープをダビング機能のあるラジカセにセットして、
ポケモンの歌のダビングを開始した。
私はまゆみちゃんが喜ぶ顔を思い浮かべながら、
静かにダビングが終わるのを待った。
これからのまゆみちゃんとの明るい学校生活に
思いを巡らせていると歌が終わり、ダビング作業も終わるを告げる。
一応ちゃんとカセットテープに録音が出来たかを確認するために、再生ボタンを押す。
「え・・・?」
おかしい。
爽やかに明るい歌声がポケモンの歌を唄っているはずが、
低音のふざけたおっさんボイスになっていたのだ。
随分野太い声になっている。
その場にいた私の兄も驚きのあまりこちらを見ている。
まるで私のこれからの明るい学校生活を邪魔するかのように、
低音のふざけたおっさんボイスによるポケモンの歌は止まらない。
ポケモンの歌を友達と唄う未来が音を立てて崩れる気がした。
「それどうしたの?」
「わかんない。こんなの知らない!」
私はカセットテープが不良品だったのかもしれないなと思いながらも、
念のためにテープの巻き戻しをして再度聞き直した。
すると何事もなかったかのように、低音のおっさんボイスではなく、爽やかで明るい歌声がポケモンの歌を唄いきって終わった。
「何だ・・・何事もないじゃない」
近くにいた兄も安堵の表情を浮かべながら、
リビングのテーブルで宿題に取り組み始めた。
私もこれからの学校生活は守られたと安心して、
その日はカセットテープのダビングを終えた。
翌日。
朝、学校へ行くとすぐにまゆみちゃんの元へと駆け寄る。
「ダビングしてきたよ!」
私はすぐにまゆみちゃんにカセットテープを渡した。
「ありがとう!早く聞きたい!」
まゆみちゃんの胸の高まりを感じて、私も嬉しくなる。
「あとこれ、歌の歌詞もメモに書いてきたよ」
私は拙いながらもこれからの日々を楽しみに楽しみにしながら作ったお手製の歌詞カードを渡した。
その日は一日鼻が高かった。
布団の中でポケモンの歌を唄いながら夢におちた。
楽しみに待った次の日の朝。
「まゆみちゃん、カセット聞いた?」
私は意気揚々と机の傍まで行って席に座るまゆみちゃんに訊いた。
するとまゆみちゃんは不満タラタラ顔。
「ずっと気持ち悪いおじさんのポケモンの歌しか入ってなかったよ!」
まゆみちゃんがランドセルからカセットテープを取り出し、
鼻をかんだティッシュのようにテープを机に置いた。
私はダビング時の野太いおっさんボイスの歌声を思い出した。
まさかと思い、カセットを拾う。
「え!?そんなはずは……」
「お父さんに歌わせたでしょ?本当にCD持ってるの?」
「持ってるよ!うちのお父さんも歌ってないし」
「とにかく変なおじさんの歌だった。指切りげんまんしたのに……もう絶交かな……」
まゆみちゃんが不穏なことを口走る。
私はもしかしたら、あのおっさんボイスがやっぱりどこかに残っているのじゃないかと思った。
「ごめんね、じゃあもう一回録音してくるね」
まゆみちゃんが突き出した小指を差し出してくる。
「約束だよ!次、約束破ったら絶交だからね!」
私は指切りげんまん針一万本をした
つまり指切りげんまんを十回せがまれた。
低音のおっさんボイスよりも、まゆみちゃんの不穏がちょっと恐かった。
私は大急ぎで家に帰った。
まゆみちゃんから預かったカセットテープを聞き返すためだ。
カセットテープをラジカセにセットし、再生する。
ラジカセからは何事もなく爽やかなポケモンの歌が流れてくる。
「なんだ、おじさんの声入ってないじゃん」
私は録音テープを聞きながら安堵した。
しかし、念のため。
一応カセットテープを私の持っているものと交換して、
再度ダビングし直すことにした。
「よし、これで大丈夫はず」と私は独りごちる。
私とまゆみちゃんとの明るい未来を詰め込んで。
翌日、学校に登校し教室に着くと、
私は再びまゆみちゃんにテープを渡した。
「本当に大丈夫・・・?」
まゆみちゃんは疑い深く私を見た。
「今度こそ大丈夫なはずだよ、テープも私のと変えた!」
「確認してもいい?」
まゆみちゃんはそう言うとおもむろにテープを持って
席から立ち上がると、クラスメイトの波を掻き分けて、
教室のテレビ台の下にあるラジカセにテープをセットして再生ボタンを押した。
するとラジカセから、大音量で低音のおっさんボイスのポケモンが流れ出した。
気持ちの悪いふざけたおっさんボイスがクラス中に鳴り響く。
教室は朝から大混乱になった。
「ちょっとどうなってるの!おじさんじゃん!」
「そんなはずないのに!」
私は悟った。
このおっさんボイスは私で遊んでるんだ―――と。
私が友達と親しくしようとしているのを阻止しているのだと!
クラスの悪ガキや正義感ぶる子たちが前に詰め寄ってきて、
大人しい子は自分の席で茫然と固まっている。
「いーけないんだ、いけないんだーせーんせいに言ってやろー!」
クラスメイトたちが束になって押し寄せてくる。
パニックになった私とまゆみちゃんは、
カセットテープをそのままに教室からダッシュで逃げ出した。
その後、私とまゆみちゃんは学校にカセットテープを
持ってきていることが先生にバレ、
こってり叱られて気まずくなって、
結局疎遠になった。
おっさんボイスが何をしたかったのか分からないが、
まゆみちゃんはその後、クラスのいじめの首謀者となっていたので、
もしかしたら私を助けてくれていたのかもしれない。
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