第11話 【怪談】黒い影

お正月というと、

新しい年を迎えて、

一年の中でも一番めでたく

お祝いのムードがある時期ではないだろうか。



それは何故かと言えば、

年神様が家にやってくることで、

幸福がやって来るとされていることからである。



だがしかし、

私はある体験をしたことで、

お正月にやって来るのは”幸福だけではない”と

実感した体験がある。



いや、それがたまたまお正月に体験しただけで、

本当はいつも起きている出来事なのかもしれない。




三年前に私が体験した話である。




正月のある日、

私は親戚の家に向かおうとして、

自宅を出た。




自宅から外に出ると、

気持ちのいい空気で天気は快晴だった。




お正月といえば、

まさにこんな天気がぴったりだと思えるような

雲一つなく清々しい天気だった。




住宅街の景観を眺めながら、

駅の方へ歩いていく。




通り過ぎていく民家には立派な門松が飾られ、

土地柄なのか、しんと静まり返っていた。




いつもは人で賑わっている家も静かで、

駅の方へ向かっていてもずっと人が見当たらなかった。




「みんな、どうしているかな?」




そう物思いに耽っていると、

背後から、




「ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ」




低音のエンジン音のような音を立てながら、

何かが私の横を通る。




こんな静かなのに、

走行音が近くにならないと全然聞こえなかった。

なんて危ないバイク。



「近頃のバイクはハイテクになりすぎて、音が聞こえなくて危ないんじゃないの?」

なんて思いながら、




自分の気が散漫だったことを棚に上げて、

少し苛つきながら、それを見る。




大型バイクではなかった。




それは大型バイクほどの大きさの黒く大きい影だった。




胴体が楕円形で丸みおび、

隆々とした足が四本生え、

上へと突き出た角も二本生えているように見えた。




「牛……?」




その黒い影は、

門松が立派な庭付きの民家へ入っていき、

家の周りをぐるぐると回り始めた。




「ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ」

唸りながら黒い影は猛スピードで回っていく。




ある程度、庭を周り終えると、

影は分裂して走り去っていった。




その夜、その家で火事が起きた。

火事の原因は不明だ。

黒い影の牛と関係があるかはわからない。

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