第9話 【怪談】魅力的なお婆さん

私がよく通る路地裏があった。



その路地裏は小さなアパートや平屋などがあり、

細い街灯が点々と立ち並び、

昔ながらの風情が残る通りであった。

私はその路地を通るのが好きでよく通っていた。



二年前の夏の日の夕方、

私と家族がその路地を歩いていると、

いつもだったら目に付かない

ある単身者用の小さなアパートの二階のある一室が目についた。



何故かというと、

郵便受けに郵便物が乱雑にこれでもかという感じに

詰め込まれていたからだ。



しばらく郵便物が取られた様子がなかった。



「もう人が住んでいないのかな……」と眺めていると、

ちょうどその家の扉が突然ギィと開いた。



一人のお婆さんが出て来た。



年は80代くらいで、

雰囲気がとても愛らしくて小柄で、

茶色のカーディガンを着ているお婆さん。

例えるなら、縁側で日向ぼっこしながら、

のほほんとするのが似合いそうなお婆さんだった。



何でか分からないが、

その瞬間私は「こんなかわいいお婆さんっている!?」と一目見て、

お婆さんの虜になってしまった。



トン、トン……と階段を下りて来る。



家族から何回も「行こうよ」と声を掛けられるが無視してしまう。



何故だか分からないが凄く魅力的。



思わずそのお婆さんが路地の角を

曲がるまで見届けてしまった。



私はお婆さんに一目惚れをした。



それから私は一緒にいた家族に

「かわいいお婆さんだったね!」というと、

怪訝な顔をされた。



何で怪訝な顔をされたのか分からなかったが、

そんなことどうでも良かった。



路地裏を通る楽しみが一つできたからだ。



それ以降、私はその路地を通ると、

高確率でそのお婆さんを見かけた。



不思議だなと思いつつも、

お婆さんの家のアパートの前から始まり、

私がよく行く薬局の前、パン屋の前、雑貨屋の前、

スーパーの前など色々な所で目撃し、

それが段々と私の家の近所でも見掛けるようになっていた。

何故かいつもそのお婆さんは同じ服を着ていた。



どうしてこんなに頻繁に会うのだろうか、

一人で寂しいから人恋しくて外をこんなにも歩いているのだろうか。



そうだとしたら、

「そろそろ話し掛けなくては」と感じ始め、

一、二カ月経っていた。



そんな日が続く中、

ふと路地裏を通ると、

そのお婆さんのアパートの家に、

白いツナギを着た人が続々と入って行くのを見た。



アパートの前には、

白のワンボックスカーが止まっている。

特殊清掃会社が来ていたのだ。



近所の人が見世物のごとく見物していて、

ちょっとした人だかりができていた。



思いがけず見物人に話し掛けると、

そこのアパートの大家で饒舌に話をしてくれた。



死後ニ、三カ月ほどは経過していたようだった。

ずっとお婆さんは魅力的だった。




(おわり)

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