第6話 【怪談】猿

私は色々な動物を見るのが好きで、

よく足を伸ばしては地方の動物園などに行ったりする。


五年前の冬のこと。


T県にある動物園の希少動物のワタボウシタマリンという猿が

動物園のエアコンからの出火が原因となる事故で亡くなった。


私はその一週間前、その動物園に行っており、

特にお気に入りだった動物がそのワタボウシタマリンだった。


その猿の展示の前で、三十分以上は見続けるくらい気に入っていたし、

その猿も私のことを見つめて、私のことを気に入ってくれたようだった。


そのため、その猿が事故で亡くなったというニュースを知った時は、

胸が張り裂けそうなほど、大変悲しい思いをした。

その日の就寝前は、「どうか安らかに天国に行けますように」と心から願った。


深夜、ポスッポス…という物音で目を覚ました。

私のお腹の上で何か小さな動物が飛び跳ねているようだった。

その時、自然と私は、

きっとワタボウシタマリンが来たのだと思った。


そして何度目かにお腹の上で跳ねた時、


「あれ?」


着地がない。

そう思った瞬間、次の着地のタイミングで、

勢いよく胸に衝撃が伝わってくる。


「!?」


驚いて目を開けると、

それはワタボウシタマリンではなく、

ゴツゴツした人の手が私の首を絞めていた。

ひんやりとした殺意を感じる。


人の手だとすれば本来あるはずの腕や体はなく、

手首から先の部分のみのはずなのだが、

まるでアダムスファミリーで見たような手の姿をしている。


その手はしばらく私の首を絞め続け、

気が付くとと朝になっていた。

気安く祈らない方がいいなと思った教訓であった。

手に襲われる体験はそれっきり。

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