第32話 【着火】マンはランチをいただく

 階段を上がってゲートをくぐり、地上へと戻った。

 やあ、日が差していて空気が乾燥して気分が良いね。


「お昼は私が奢るわ、いいでしょ、マレンツ先生」

「え、どこに行くつもりだい?」

「ゼラピス第一ホテルよ」

「「「「げーっ」」」」


 銀のグリフォン団のメンバーはお気に召さないようだ。


「いや、奢るわよ、当然、王家のたしなみとして」

「そんな高級ホテルのレストランとか入りたくねえ」

「私、ロビーに入った事も無いわ」


 第一ホテルは上流階級御用達なので、冒険者だとS級ぐらいじゃないと入れないだろう。


「ウジェ姉ちゃん、このまえボーイに追い出されてた」

「姉ちゃん誤解されやすいからなあ」


 S級でも例外はあると言う事か。


「屋台か、ギルドかね」

「え~~」


 今度は王女さまが不服のようだ。


「まあ、良いわ、屋台も食べてみたかったし」

「美味しい屋台に行こうぜ、姫さん」

「わかったわ、フロルくんっ」


 串焼きの屋台に行ったのだが、リネット王女を見て屋台の親父は可哀想なぐらい動揺していた。

 そりゃそうなるね。


「あらっ、美味しいお肉っ、おじさん、これ何の肉」

「オ、オーロックでありますっ、閣下!!」

「あら、魔物なのに美味しいわね、気に入ったわ」

「ありがたき幸せにございますっ」


 あわれ屋台の親父は直立不動であった。


 串焼きとスープ、そしてパンを広場のベンチに座って食べた。


「しかし、驚きましたな、迷宮の冒険者なぞ大した事は無いと思っておりましたが、どうしてどうして」


 騎士団長がフロル達を見てにっこり笑ってそう言った。


「王府の方だとそうでしょうね」

「近衛騎士団も迷宮での訓練を考えても良いですな、とっさの判断を養うのによさそうです」

「騎士団長は迷宮に行った事は無いんですか?」

「ありませんでしたな、冒険者カードも作っておりませぬ」


 やっぱり貴族にとっては迷宮は下々の狩り場という意識が強いんだろうね。

 王都からゼラビスまでは結構距離があるし。


「やっぱり迷宮都市に来て良かったわっ」

「お兄さんは反対しなかったんですか」

「し、してないわっ」


 王子の反対を押し切って出てきたね、これは。


「さて、休んだから行こうか、姫さんトイレはすましたか」

「うん、ありがとうねフロルくん」

「姫さんは国の宝だからな」


 なんだかリネット王女と子供達も仲良くなっているな。

 良い事だね。


 再びゲートをくぐって迷宮へ。

 冒険者カードの裏のスタンプを見せれば、出入りは自由なんだ。

 丸一日、迷宮に入る権利を買う感じだね。


「とりあえず、二階に行ってみるか」

「おっけー、一階下がった時の強さの差を見たい」

「ファイヤーボールは三発、あと一発撃ったら撤退を考えてね」

「解った、じゃ、行こう」


 魔物は帰り道だろうとかまわず襲ってくる。

 魔法の残弾を半分残しての撤退が理にかなっているのか。


「迷宮も色々大変ね」

「アセット魔法も良い感じに運用されているね」

「マレンツ博士も覚えたら?」

「私は魔力量が少ないからね」


 私の魔力量はファイヤーボールで四発。

 奇しくも現在のエリシアと同じぐらいなんだ。

 エリシアはこれから魔力量が伸びるけど、私はもうこれ以上伸びる事はないだろう。

 アセット魔法は人を選ぶのだ。


 一度通った場所なので、銀のグリフォン団の移動速度は早い。

 下り階段まで、冒険者パーティと二組すれ違ったが、魔物とは遭遇しなかった。


 そして、フロルの前に下り階段はぽっかりと口を開けていた。


「さて、行こうぜ」

「「「おうっ」」」


 新しい場所という事で、フロルたちに緊張感が戻った。

 ゆっくりと進んで行く。


 二階になってもあいかわらず天井は高く、通路は広かった。

 フロア自体も広いようだ。


 暗い通路の中をランタンの灯りだけを頼りにゆっくりと進む。


「ジャイアントトード、五」


 通路を塞ぐように大きい蛙が五匹居た。

 まだこちらに気が付いていないようだ。


「トードかあ」

「トードだなあ、射手(アーチャー)が欲しいな」

「ファイヤーボールでぶっ飛ばす?」

「それよりも【睡眠】(スリープ)だな」

「解った」


 エリシアが前に出て、杖を構えた。


『それは安らぎの闇、我が問いかけに答え、かの敵を安息の帳に包みたまえ』


 エリシアの杖からぼわりと紫色の煙が現れてカエルどもの元へ飛んでいった。


 トタントトタン。


 カエルが三匹地面に崩れ落ちた。


「よし、行くぞっ!!」

「がってんだっ!」


 フロルとチョリソーが起きている二匹のカエルに突撃していく。

 ラトカも遅れてメイスを構えて走って行く。


 舌を飛ばしてくるカエルの攻撃を盾でいなしてフロルは切りつけた。

 わあ、近くで見ると大きいなあ。

 エリシアぐらいの身長があるぞ。


 危なげなくフロルは一匹の蛙を倒し、チョリソーのサポートに入った。

 ラトカは寝ているカエルの頭をメイスで叩き、絶命させていく。


 【睡眠スリープ】は使い勝手が良いね。

 カエルは頭が悪いので寝てしまった仲間を起こす事も無いし。


 程なくしてカエル戦の決着は付いた。


「魔力が……」

「どうするフロル」

「んー、ちょっと早いけど帰るか、無理は禁物だ」

「もう終わりなの、つまんないの、マレンツ先生に頼ったら良いじゃ無い」

「ハカセとペネ姉ちゃんに頼ると後で大変だからな、姫さん」

「そうです、冷静な判断が出来るフロル団長が偉いですぞ」


 騎士団長に褒められてフロルはニッカリと笑った。


 ズーンズズーン。


 振動が迷宮を走った。


「じ、地震?」

「ひっ!」


 チョリソーが前方を見て短く息をのんだ。

 巨大な何かが曲がり角から首を突き出していた。


「ドラゴン、一!!!」


 チョリソーの悲鳴混じりの声が通路に響いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る