第31話 【着火】マンは一階を走破する

 部屋のドアの前でチョリソーが聞き耳を立てている。


 迷宮には通路だけで無く、部屋も何カ所かある。

 部屋には魔物が居たり、時々宝箱が置いてあるんだ。


 チョリソーがドアから離れてこっちに来た。


「居るな、鳴き声がするが、種別は解らねえ」

「室内戦か、試してみてえけどな」

「俺が開けて、フロルが盾を構えて突っ込む」

「敵が多かったら、私がファイヤーボールを撃つわ」

「詠唱しといて、あとちょっとの所でドアを開ける。五体以上ならファイヤーボール、以下だったら詠唱破棄、でどうだ?」

「そうね、そうしようか」


 銀のグリフォン団のメンバーは隊列を組んでドアの前で準備を始める。


『そは灼熱の諸元の組成、根源の地より来たれ……』


 詠唱があと一節、という所でチョリソーがドアを開け、ランタンをかざした。

 部屋の中にはゴブリンが四体居た。

 我々を見つけて慌てて立ち上がる。

 エリシアが詠唱破棄、チョリソーがボーラを投げる。

 フロルが吠え声を上げてシールドバッシュで一匹吹き飛ばした。


 ゴブリンは緑の肌をした小鬼で、体格はフロルと同じぐらいだ。

 だが、力は結構強いらしい。


 斬りかかってきたゴブリンの斬撃をフロルが盾で受ける。


 ガッチャーン!


 チラチラするランタンの灯りの下で銀のグリフォン団のメンバーは戦っている。


 体勢の崩れたゴブリンの片手をフロルが切り上げて、そのまま剣の裏側を使うように横振りに変化させて首筋をいだ。

 これは、さっきペネロペが教えた技だな。


 血が噴き出して、ゴブリンは倒れた。

 

 ラトカが部屋に飛びこんで、立ち上がりかけのゴブリンの頭をメイスでどついた。

 崩れ落ちたゴブリンをラトカがメイスで殴る殴る、さらに殴った。

 ゴブリンは動かなくなった。


 フロルが吹っ飛んだゴブリンの胸を突き刺す。

 チョリソーが転んだゴブリンの首を刈って、戦闘は終了した。

 みんな強いなあ。

 ラトカもメイスで戦闘するんだね。


「手が痛いー」

「力を入れすぎだぜ」


 部屋はゴミなどで散らかっていた。

 部屋の隅に宝箱があった。

 さっそくチョリソーが取り付いたが、すぐ首を振って蓋を開けた。


「中は空だなあ」

「まあ、しょうが無い」


 残念ながら宝箱は空だったようだ。


「ペネ姉ちゃん、あの技使いやすいな」

「良いだろ、また別の技も後で教えてやるよ」

「おおっ、ありがとうっ」


 フロルは嬉しそうだな。


 もう一つの部屋にも行ったが、そこは魔物も宝箱も無かった。


「宝箱はどれくらいで補充されるんだろう」

「三日ぐらいだな、なかなか当たるもんじゃないぜ」


 三日に一度か。


「勝手に中に入ってるの?」

「そうだぜ姫さん」

「誰が中身を入れるの?」

「さあ?」

「ダンジョンの宝箱の中身を誰が入れるかは、色々な説があるね。ダンジョン自体の機能というのが一般的だよ」

「不思議ねえ」

「魔物も自動的にポップするからね、同じ仕組みで宝物も顕現しているのだろうって説が一般的だよ」


 ダンジョンの魔物は倒されて二時間ぐらいで再出現する。

 大体、いつも同じぐらいの数の魔物が迷宮を徘徊していると言われる。

 迷宮の魔物は自然な生き物では無いらしい。

 研究ではまったく同じ個体が時間をおいて発生したりするので、魔力で作られた複製ではないだろうかという説もある。


「ところで、フロル君」

「なんすか姫さん」

「迷宮って、おトイレはどうするの」

「無いです」

「無いのっ!!」


 エリシアとラトカがずいずいと前に出てきた。


「おトイレ、無いの、だからお部屋の隅でちゃっとやるのよ」

「ええっ!」

「大丈夫、出したものとか、迷宮に吸収されるから、一時間ぐらいで無くなるのよ」

「迷宮に食われるだね」

「さすがハカセは詳しいな」

「迷宮は有機物を分解して取り込むんだよね」

「そうそう、剣とか盾とかは残るけど、死体とか、着てる物は迷宮の床に取り込まれちゃんうんだよ」

「そうなのねえ、そうしないと死体とか汚物でいっぱいになるわね」


 この機能があるから、誰も清掃していないのに、迷宮は割と綺麗なんだよね。

 まあ、スライムとかも死骸を食うけどね。


「よし、一階の探索は終了だ。一度地上に戻って、昼食にしよう」

「意外と狭いんだね」

「一階は転移ホールがあるからね」


 そうか、転移ホールの分があるから、ちょっと狭いのか。


「助かるわ」


 リネット王女はお腹を押さえてそういった。

 迷宮はジメジメしていて、ちょっと寒いからね。

 バリッとした見事な軽甲冑だから脱ぐのは大変だろうな。


「一度出て、また入るんだね」

「まあ、一階だからな、三階以上だと帰るの大変だから弁当を持って行くけど」

「昼からは二階か?」

「そうだな、一階は安定してるから、二階を見て、強そうだったら戻ろう」

「賛成よ」


 パーティの適切な階層という物があるみたいだね。

 銀のグリフォン団のレベルだと、まだ一階、二階が安全かもしれない。


「もう一枚、前衛が欲しいなあ」

「入ってやろうか」

「ペネ姉ちゃんは強すぎだ、バランス取れないぜ」

「残念だ」


 ペネロペが前衛をやると、他の銀のグリフォン団のメンバーは、やることが無くなるからね。

 居るうちは良いけど、離れた時に困りそうだ。


 我々はのんびりと地上へ戻った。

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