第30話 【着火】マンは迷宮一階で他パーティと会う

「ゴブリン、五」

「エリシア」

「任せて」


 遠くまだ気が付いていないゴブリン五匹に向けてエリシアは杖を振りかざした。


『そは灼熱の諸元の組成、根源の地より来たれ、我が敵を打ち砕け』


 バシュ!


 音を立ててギラギラ輝くファイヤーボールが五匹のゴブリン目指して飛ぶ。

 追いかけるようにフロルとチョリソーが走った。


 ドカン!


 ファイヤーボールは先頭のゴブリンに当たり、そして爆発した。

 爆発に巻き込まれた三匹が吹っ飛んだ。

 一匹だけ残った最後尾のゴブリンが驚愕の表情を浮かべる。

 掛けよってくるフロルを迎撃しようと剣を振り上げた。

 チョリソーがアンダースローでボーラを投擲、狙い違わずゴブリンの足に絡みついた。


「ぎゃぎゃっ?」


 ゴブリンは慌ててボーラをはずそうとするが、そこへフロルが短剣で一撃した。

 首が吹っ飛んで落ちた。


 そのままフロルは剣を切り返し、吹き飛んで立ち上がろうとしていたゴブリンの心臓を突き刺した。


 これで二匹。


 チョリソーが、魔法が直撃して片手が吹き飛んだゴブリンの首筋をナイフで突き刺した。


 三匹。


「二発目ー?」

「温存!!」


 エリシアの問いかけにフロルが簡潔にこたえ、踏み込み、四匹目のゴブリンの背中を短剣で突き刺した。


 あと一匹。


 急いで立ち上がった吹き飛びゴブリンは奇声を上げてチョリソーに斬りかかる。

 チョリソーは姿勢を低くし、素早い動きで斬撃を避けた。

 ボーラの片方を手に握ったまま、下から振り抜いてゴブリンの顎に当てた。

 のけぞったゴブリンの後ろから、フロルが短剣を突き刺し、五匹目も死んだ。


「ふうう」

「やっぱり五匹はつれえなあ」

「エリシア、ファイヤーボールありがとう、やっぱ威力すげえよな」

「もうちょっと後ろの敵に当てて、全員吹き飛ばしたかったわ」

「みんなおつかれ、怪我は?」


 ラトカがフロルに聞いた。


「なんともねえ。チョリソーは?」

「ゴブリンの攻撃なんざ、当たるかってんだよ」


 チョリソーは胸を張ってこたえた。


「みんなお疲れ、やあ、凄いなあ、ボーラは打撃武器にも使えるんだね」

「おうよ、ハカセ、ドワーフのおっちゃんが特別に細工してくれた、トゲ付いて結構重いんだ」


 チョリソーがボーラを見せてくれた。

 おお、この重さの物が足に絡まったら転ぶね。

 彼はこれを二丁持っている。


「ふわー、凄いわねえ、みんなちゃんと戦えるのねえ、お城の新兵みたい」

「新兵よりも強そうですぞ、さすがは冒険者の子供たちだけはありますな」


 ペネロペが前に出てきた。

 大剣を抜いて、びゅんびゅんと振った。


「お、おおおっ!! ペネ姉ちゃん、それ、技? 技?」

「ちょっとした技だ、やるよ」

「こうして、こうして、こうか?」

「いや、最後は手首を返して」


 ペネロペは、なにげに面倒見がいいな。


「ようし、次に敵が出てきたら、この技を使おう」

「がんばれよ」


 後ろを見たらリネット王女が剣を抜いて、先の技を練習をしていた。


「ああ、姫さん、レイピアじゃできねえわざですよ」

「できないのっ!」


 姫様、残念でした。


 その後に出たのはジャイアントラットで、技が使えなかったフロルは悔しがっていた。


 そして角を曲がると、下に降りる階段が見えた。


「降りないの?」

「んー、先に行っても良いんだけど、とりあえず奥側の部屋に行って宝箱を見てからだな」

「一階の宝箱は入ってる事が無いってお母さん言ってた」

「まあなあ」


 一階にも宝箱が出る部屋はあるのだけれど、大抵は他のパーティに開けられて中身が入って無いらしい。


 階段を無視して我々は奧に進んだ。


 遠くからゆらゆら揺れる光が近づいてきた。

 銀のグリフォン団のメンバーが壁に寄る、私とペネロペ、王女さまご一行も続く。


「冒険者、三人」


 ほっと、フロルたちが力を抜いた。

 別の冒険者パーティであった。


「よおっ、うお、また小せえ奴らだな」

「見ねえ顔だな、今日がデビューか、けけっ」


 ニキビ面の青年が三人であった。

 戦士二人と盗賊が一人。


「おおーっ、女子がいんじゃん、良いねえ」

「おいお前ら、先輩の挨拶に、これまで狩った魔石を出しなっ」

「わあ、ケイン、ひっでえっ」


 青年たちはゲラゲラと笑った。

 なんだか質が良くない連中だな。


「ふざけんな、てめえら余所の冒険者だなっ」

「おーよ、俺らはメルキル迷宮城塞のもんだ、噂のゼラピスを見に来たんだよお」

「はやく、魔石を……」


 ランタンの光が近づいて、やっと私とペネロペに気が付いたようだ。


「ちっ、保護者付きかよ……」

「おー、生意気に甲冑着たねえちゃん……」

「おい、フロル団長、こいつら、殺していいのか」


 ペネロペから底冷えするような殺気が発せられた。

 青年達は青くなった。


「殺しは、まあ不味い」

「どうしたのー?」


 後ろからリネット王女が出てきた。


「何人……、居る……?」


 その後ろからガチャンガチャンと強面の近衛騎士が四人出てきた。


「まずいっ、貴族だっ、どうするケインっ」

「どうするって……」


 ペネロペが前に出てケインという戦士の顎を蹴り上げた。

 あわれケインは壁まで吹っ飛んでいった。


「や、やろうっ!!」

「殺さなきゃいいんだろ、団長」

「まあ、そうだが……、おいお前ら、剣をひかねえととんでもない目に合うぞ」

「な、なんだってんだよっ!!」

「ここにおわすお方をどなたと心得るっ!! 恐れ多くもメルリガン王国の第二王女リネット様であるっ!! 頭が高いっ!!」

「は、ははぁ~~」


 フロルが読み本のような決めセリフを怒鳴ると、青年達は石の床に土下座した。


「私が、リネットである~!!」


 王女もなんかノリノリで胸を張って宣言した。


「ははぁ~~」


 フロルは青年達を見回した。


「ここはゼラピスだからな、余所の迷宮都市の奴が威張るなよ。うちのギルド長、そういうの凄くうるせえぜ」

「ご、ごめんなさいっ」

「お、王家の方々のパーティとは思いませんでしたあっ」


 青年どもは、気絶したケインを助け起こして、這々の体で逃げ出して行った。


「悪い奴らもいるなあ」

「他の迷宮都市の奴も来るからなあ、ゼラピスのパーティなら大体顔見知りだから良いんだけどさ」


 リネット王女がニマニマしていた。


「今のかっこ良かったね、またやりたいわ」

「勘弁してくれよ、姫様」


 なんだか、リネット王女に変な癖が付きそうで、心配である。

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