第29話 【着火】マンは地下一階を探索する

 階段を降りきった所に大きな扉があった。

 今は開いていて、両脇に槍を持ったギルド職員さんが立っていた。

 意外に天井は高い。


「広いね~~」

「なんかかび臭くて湿っぽい」


 私たちは扉をくぐった。

 ジジジとかがり火が辺りを照らし出していた。


 扉の向こうはちょっとした広間になっていて、冒険者が沢山いた。

 装備のチェックをしている者、地図を見る者、準備運動をする者、いろいろだな。


「転送の間だ」

「ああ、ここがそうか、へえええっ」


 広間の左右の壁には、不思議な形のレリーフが並んでいて、時折強く光って人が出てくる。


「みんな何をしているの?」


 後ろのリネット王女が聞いてきた。


「フロアボスの次の部屋の転移陣と、ここのレリーフが繋がってるんだ。一度フロアボスを通過していたら、こっちからも転移出来るのさ」


 ああ、なるほど、古代のアーティファクトだね。


「あの光が消えているレリーフは?」

「転移陣が故障した階だぜ、何カ所かあって、その時はもっと下に行かないと帰ってこれねえんだ。三十階と三十五階が続けて故障していて、中層の壁って言われているよ。中層の壁を突破できればA級になれるんだ」


 故障か、それは難儀だな。

 二十五階から四十階までは一気に降りないといけないんだね。


「何階まで転移陣はあるんだい?」

「八十階まで、その後は最奥まで無いってさ」


 最深部は百階とも、百五十階とも言われ、解って無いらしい。

 レリーフの間隔の感じからすると、百階説が有力らしいね。


 荷物を整えた十人ぐらいのパーティがレリーフに触って転移していった。

 これは便利だなあ。

 転移の魔法を解析出来れば旅行が一気に楽になるね。

 ただ、今現在、解析に成功した人間はいない。

 リネット王女も近衛騎士の四人も珍しそうにそれを見ていた。


「早く俺たちも転移の資格が欲しいなあ」

「あんまり焦ったら死んじゃうわよ、フロル」

「ん、そうだな」


 レリーフが並ぶ壁の反対側に、迷宮入り口の看板があった。

 チョリソーとラトカがしゃがんでランタンを点けた。


「さて、行くぞ、みんなっ、気を引き締めろっ、油断すると死ぬからなっ!」

「「はいっ」」

「おうよっ」

「解った」

「おう」


 皆が返事をして、隊列を組んだ。

 一番前がチョリソー、二番目がフロル、そして二列になってエリシアとラトカ。

 私とペネロペは、その後ろだ。

 さらに後ろにリネット王女、その後ろに近衛騎士たちが付く。


 我々は隊列を組んで通路に入った。

 チョリソーが背中を丸めて慎重に歩いていく。


「スライム」

「おうっ」


 チョリソーが見つけた青いスライムをフロルが蹴飛ばして通路の端によせた。


 通路の天井も高くて、幅も結構広いね。

 巨人でも通れそうだ。


「思ったより、広い」

「五階まではこんな感じだぜ」


 周りは石組みの通路で、ランタンの淡い灯りに照らされてゆらゆら影が動いていた。


 湿気と、かび臭さが凄いな。

 一階にいるのは銀のグリフォン団と、王女様ご一行だけだった。

 滑らかな石畳に我々の足音がコツコツと響く。


「なるべく足音を立てないように歩くんだ」


 そう言えば、銀のグリフォン団のメンバーは足音がほとんどしないね。


「足音がすると、こちらの存在に気がつく魔物が多いからな」


 おお、小さいのにプロって感じで良いね。

 それを聞いた、私とペネロペ、そして王女一行も足音をひそめた。


 しかし暗い中で四方を石に囲まれていると圧迫感があるね。

 不気味な雰囲気に飲まれそうだ。


「しっ、前方に敵」


 そう言ってチョリソーが通路の壁に張り付くようにして中腰になった。

 我々も習って壁に張り付く。


 張り付いてもランタンが点いているのだが、これは大丈夫なのだろうか。

 まあ、チョリソーが消してないから大丈夫なのだろう。

 真っ暗になったら戦えないしね。


 ギッギッギと騒ぎながら小柄な人影が現れた。


「ゴブリン、三」


 そう、小声で言って、チョリソーはフロルと入れ替わる。

 壁沿いで銀のグリフォン団は隊列を組んだ。

 チョリソーとラトカが床にランタンを置いた。


 ゴブリンたちはまだ気が付かない。

 ぶらぶらと歩いている。


「ぎゃ、ぎゃぎゃぎゃっ!」


 先頭のゴブリンがフロルを見つけた。

 奴らはボロボロの短剣と小盾を持っているな。

 チョリソーが懐からボーラを出して投げた。


「ぎゃぎゃぎゃっ!」


 ボーラは左のゴブリンの足に絡みつき転ばした。


「いやあああっ!!」


 フロルが盾を前にして駆けだした。

 二対一、これは一体焼いた方が良いか?

 肩をがっと掴まれた。


「マレンツ、焦るな」

「あ、ああ」


 ペネロペに止められてしまった。


 ザッシュ!!


 フロルは盾でゴブリンの斬撃を受け、そのままシールドバッシュで弾き飛ばす。

 小さいのに強いな、うちの団長は!


 そのまま右のゴブリンの斬撃をかいくぐり短剣で首を貫いた。

 血がバッと石床に広がった。


 フロルはさらに流れるように、立ち上がろうとしたゴブリンの頭に一撃を食らわせて倒した。

 焦った顔の弾き飛ばされたゴブリンが逃げようとした。

 そこへチョリソーのボーラが飛んで転倒させた。

 フロルが駆けよって上から心臓を突き刺して、初遭遇戦は終わった。


「かったぞー!」

「いぇ~~いっ!」


 私たちはフロルとチョリソーの元に駆けよった。


「す、凄いわね、フロルくん、格好いいわ」

「ありがとう、姫さん」

「はあ、ファイヤーボールを撃ちそうになったわよ」

「意外と何とかなった」


 チョリソーがゴブリンの心臓の上にある魔石をナイフで剥がした。


「フロル殿の短剣、良い物ですな」

「わかるかい、騎士団長さん。新しい脇街でドワーフに打って貰ったんだ」

「俺のボーラも作って貰った。ハカセのパーティメンバーならって割引して貰ったぜ」


 ああ、ガルフが気を利かせてくれたのか。

 良い仕事をしてくれた。


 戦利品はゴブリンの魔石が三つ。

 ボロボロの短剣、盾が三つであった。

 どれも冒険者ギルドで買い取って貰える。


 剣や盾はゴブリンに倒された冒険者の物だろう。

 これらは迷宮都市に戻って鉄に戻り、武具になって売られるんだ。


「はあ、興奮しちゃったわ。今度私も戦いたいわ」

「だめだよ、姫さん」

「駄目ですぞ、閣下」

「危ないからやめてね、リネット姫」

「んんもうっ!」


 リネット王女は膨れた。

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