第28話 【着火】マンは大迷宮に侵入する

 ドンドンドンドン!!


「ハカセー、起きろーっ!!」

「はいはい、起きてるよ」


 私が【着火】マン完全装備でドアを開けると、フロルとチョリソーもがっちりと冒険装備だった。


「えへへ、行こうぜ~」

「まずは、ご飯を食べてからだ、君らは?」

「食べた」

「食べてなーい、母ちゃん二日酔いだった」

「それでは食べないとね、酒場に行こう、エリシアとラトカは?」

「食堂でジュース飲んでる」


 私たちは階段を降りて酒場に入った。

 レイラさんは、もうカウンターで業務をしているな。

 よく働く人だ。


「オヤジさん、朝食を二つ」

「俺はジュース!」

「あいようっ、待ってな」


 エリシアとラトカの居るテーブルに付いた。


「おはよう、みんなっ、楽しみね」

「ああ、今日が迷宮記念日だわ」

「おはよう、エリシア、ラトカ」

「おはようハカセ、みんな」


 黒パンとソーセージエッグ、オニオンスープのいつもの朝ご飯を食べていると、ペネロペもやってきた。


「おはよう」

「おはようペネロペ」

「おっはよー、ペネちゃん」

「今日はよろしくね」

「ああ、任せとけ」

「ペネロペ、あんま前に出んなよな、お前は補欠団員だからなあ」

「解ったよ、フロル団長、マレンツと一緒に後ろでみているさ」

「一階と二階に出るのはどんなモンスターだい?」


 チョリソーが鞄から地図を出した。


「一階はスライム、ゴブリン、キラーラット、ってところかな。注意すればそんなに怖くないよ」

「一階はなるべく前衛が倒す感じで、魔法温存な」

「わかったわ」


 虎の子のファイヤーボールは四発しか使えないからな。

 マジックポーションを使えば追加で二発は撃てるけどね。

 フロルは慎重だから、大丈夫だと思うけどね。


「斥候は俺か」


 そう言ってチョリソーはブルリと武者震いをした。


 朝ご飯を食べおわった。

 が、リネット王女が来ないな。


「遅いな、お姫様」


 とフロルがつぶやいたらギルドのドアを開けてリネット王女が現れた。


「「おおおっ!」」

「まあっ」


 彼女は凄く格好いい銀色の軽甲冑に身を包み、レイピアを腰に下げていた。

 片手にはバックラー、完全装備だな。

 後ろからは護衛の近衛騎士団の人が四人付いている。


「またせたわねっ! 行くわよ銀のグリフォン団!」

「お、おうっ!! 気合い入ってますね、お姫様!」

「当然よ、あまたの冒険物語を読んで、一度は迷宮で冒険をしたいと思っていたの」

「リネット王女、戦闘はしないで下さいね。依頼内容は視察の護衛です。冒険の補助ではありません」

「わわわ、解ってるわよ、気分よ気分!」

「ペネロペさん、王女が剣を抜いたら止めて下さい。これが依頼書と前金です」


 レイラさんは金貨をペネロペさんの手に落とした。


「うけたまわった」

「ず、ずるいわよっ!」

「契約なので、ちゃんと保険を掛けないといけません。リネット王女に何かあると、私の首が飛びますので」

「ぐぬぬ」


 リネット王女は迷宮に入ったら好き放題冒険ができると思っていたらしいね。

 だが、レイラさんの方が一枚上手だったようだ。


「なんだか、俺たちのデビューが大事になっちまったな」

「まあ、王家に忠誠を尽くすのは国民の義務だ、依頼料も貰ってるしな」


 王家の護衛と言う事で、銀のグリフォン団には破格の依頼金が払われた。

 後でメンバーで山分けだそうだ。


 私たちにレイラさんが新しい冒険者カードを配った。

 D級のライセンスカードだ。

 ちょっと光沢があって鈍い茶色の金属のカードだった。

 色合いからブロンズカードとも言われる。


「では、行ってらっしゃい、一人も欠けずに帰ってらっしゃいね。貴方たちに迷宮の財宝が訪れますように」

「ありがと、レイラ姉ちゃん、いってくんぜっ!」

「いってくる」

「行ってきます」

「行ってきまーすっ」

「行ってきますね」


 レイラさんに手を振って、我々は冒険者ギルドから外に出た。

 今日は良く晴れた良い天気だけど、迷宮の中に入るから関係は無いね。


 迷宮の入り口は冒険者ギルドが面している広場の向かい側にある。

 冒険者の人が沢山並んでいる。

 最後尾に我々は並ぶ。


「お、フロルは今日が迷宮デビューか」

「そうだぞ、おっちゃん」

「おお、【着火】マンに鉄拳令嬢に……」


 おっちゃんは最後尾にいるリネット王女に気が付いて兜を脱いで頭を下げた。


「おい、フロル、なんで王女さまが列に並んでんだよ、まさか迷宮に入るのか」

「視察だってさ、俺らが護衛をまかされた」

「ええ、おまえらがか? S級パーティがやるもんじゃないのか?」

「視察だから浅い階にしかいかねえよ」

「そりゃまあ、そうか」


 おっちゃんはやれやれと首を振って兜をかぶり直した。


「なんだかドキドキするねっ」

「ずっと迷宮に入るのが夢だったの、ああ、今かなうのね」


 女の子二人はワクワクしているようだ。

 私もワクワクが止まらない。

 フロルとチョリソーも動きがそわそわしているね。


 列が動いて、私たちの番となった。

 D級になった冒険者カードを見せて入場料を払う。

 

「はい、確かに五千ロクス頂きました」


 冒険者カードの裏にスタンプを押して貰った。

 この魔法のインクスタンプは日付と時刻が刻印できて、迷宮から出る時に消す事が出来るらしい。

 それでD級からはカードが金属なんだな。


 銀のグリフォン団のメンバーは金属で出来たゲートをくぐる。


「冒険者カードを」

「失礼ね、王女だから発行できないのよ、王家の視察として入るのです、騎士団長、書類を」

「ははっ」


 近衛騎士団長が羊皮紙の書類を職員に見せた。

 しばらく職員は中身を確認していた。


「書類に問題は無いようです。失礼いたしましたリネット閣下」

「解ればよろしいわ」


 つんと澄ましてリネット王女もゲートをくぐった。


「おおお、ここから迷宮かあ」

「ちがうぞチョリソー、ここはエントランスだ、迷宮はあの階段を降りた先だ」

「お、おう、ぬか喜びだ」


 大きな穴があって、左右に石作りの階段がつけてあった。

 カツンカツンと足音を立てて階段を降りて行く。

 じわっと湿気とかび臭い匂いが漂ってきた。

 雰囲気がいきなり変わった。

 底まで降りると、解った。


 私は今、迷宮に侵入したんだ。

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