第27話 【着火】マンは初迷宮探索計画に胸を躍らせる
銀のグリフォン団はウキウキしながらギルドの酒場に戻った。
みんなでジュースを頼んで乾杯だ。
ペネロペはエールを頼んでいたが。
「「「「「「かんぱ~いっ!!」」」」」」
私たちは笑顔で木のカップをコツコツと打ち合わせた。
ああ、林檎ジュースが美味しいね。
「なあ、今から迷宮行こうぜっ!」
「ばっかチョリソー、記念的な初迷宮だぞ、明日、朝から夕方まで潜るんだ」
「そ、そうかっ」
チョリソーは頭を搔いた。
まあ、今から迷宮に入っても、すぐ出てくる事になるしね。
「私も付いて行っていいか?」
「ペネロペもかあ、まあ、記念だから良いか」
「ありがとうよ、団長」
「わあ、ペネちゃんがいれば心強いよ」
「ゴブリンが百匹でても大丈夫そうっ」
「まかせろっ」
ペネロペも、すっかり馴染んだな。
「でも、ペネロペはずっと一緒に居てくれはしないんだろ」
「そうだな、出来るだけ深い所に潜りたい、というか、マレンツと一緒に潜れれば良い」
「「きゃ~~♡」」
女の子が黄色い悲鳴を上げた。
ペネロペはドヤ顔をしている。
ぐいぐいくるね、この令嬢さんは。
「ハカセもじきに居なくなるし、銀のグリフォン団は地道に力を付けねえとな」
「迷宮の浅層って、どこまでなんだい?」
「まてまて」
チョリソーが鞄からパンフレットを出した。
開いた所にあったのは、迷宮を横から見た感じの断面図だ。
地下七十階ぐらいまで書いてあるな。
「一階から五階までが浅層の上だ。五階のフロアボスを倒して、五階から十階が浅層の下だよ。十階のフロアボスを倒して、十から二十が中層上」
「なるほど五階ごとにフロアボスが居るのか」
「そう、そこを通らないと下の階段には行けないんだ。で、フロアボスの次の間には転移陣があって、地上と行き来出来るんだ」
「意外と便利だね」
フロルが指先でトントンと五層目、ミノタウロスの絵をつついた。
「このミノタウロスを倒すのが最初の関門なんだぜ。今の銀のグリフォン団じゃあ、まず無理。ハカセとペネロペが居れば楽勝、だけど、それじゃあ、下の階に行った時、他のメンバーは死ぬ」
「大体五層目を突破するのは、どれくらいになるんだい?」
「迷宮都市の少年冒険パーティだと、最速で十三歳パーティだったかな」
「ああ、あいつらは早かった。だけど次の年、浅層下で全滅したぜ」
隣のテーブルで呑んでいたハゲデブさんが話に割り込んできた。
「フロルたちも、あんま無理すんなよ、まだ体が出来てねえからな。十歳でD級は早すぎるぐらいだし、三、四年は浅層上だな」
「そうだなあ、D級に上がるのは来年か、再来年ぐらいだと思ってたからなあ」
「なあに、浅層上でも、そこそこ稼げるぜ。のんびり装備を調えたり、迷宮勘を養ったりしな」
「おう、ありがとうな、おっちゃん」
ベテランの話は重みがあるなあ。
「だから、ハカセとペネロペは、明日、俺たちと一緒に潜ったら、銀のグリフォン団から出て、他のパーティに世話になってくれ」
「そうか、明日までか」
「ハカセ、ありがとうねー、あなたのお陰でD級になれたよー」
エリシアが半泣きで言った。
私の胸も熱くなった。
「そんな事は無いよ、みんなに会えて良かった。色々迷宮の事が解ったしね」
「ハカセはいつまでも銀のグリフォン団のメンバーだ、うん、どこまでも深く潜っていくんだ」
「がんばるよ、フロル」
「私も銀のグリフォン団のメンバーなのか」
「まあ、ペネロペは番外団員だ」
「そうかそうか、なかなか嬉しい物だな」
ペネロペはエールを呑みながらニマニマしていた。
彼女は意外に子供好きな所があるな。
明日はやっと迷宮に入れる。
意外と時間が掛かったけど、いろいろと迷宮で生活している人達と知り合えて面白かったな。
冒険者なんて、みんなゴロツキだろうと、ここに来るまでは思っていたのだけれど、やっぱり人間だね、悪い奴も良い奴もいるし、色々考えられている。
とくに、迷宮都市からのバックアップが意外とあるのが発見だった。
やっぱり実際に来て、現場に出て解る事は多いね。
「意外に冒険者も良いもんだな」
「私も今、そう思っていたよ」
ペネロペが微笑みを浮かべた。
「私は普段、領軍で鍛えているんだが、軍とはまた違う肌触りの団体だ。ばらけてるかと思えば、意外に繋がりは暖かい、悪く無いな」
「ゼラピスが特別なのかもね」
「そうかもしれねえ、これはオヤジが占領しても行政組織が動かねえな」
「私もそう思う、この街は冒険者ギルド以外はコントロール出来ないだろう」
「というか、レイラ以外はだな」
「そうだね」
レイラさんは少し異常なぐらい有能だ。
どうして王府はスカウトに来ないのだろうか。
まあ、ゼラビス大迷宮からの利益が凄いからかもしれないな。
各種魔物の素材、魔石は飛ぶように売れる。
金の動く場所には優秀な人材が、火に呼ばれる蛾のように集まるものだ。
ドアを開けてリネット王女が護衛を連れて入って来た。
そしてカウンターに行って、レイラさんに羊皮紙を見せた。
なにか揉めているが、レイラさんは首を振った。
諦めたようだ。
リネット王女はそのまま酒場の方に来た。
というか、私のテーブルの前に来た。
「王命ですっ! 明日、この私、リネットが迷宮の視察をしますので、銀のグリフォン団に護衛を命じます」
!
「お、大きく出ましたね」
「姫さん、冒険者登録を断られていたろうが」
「お黙りなさいっペネロペっ! 冒険者じゃなくて、王族が迷宮内を視察するのよ、これならば冒険者ギルドも断れないわっ、なにしろ、迷宮都市は王領なのですからねっ!!」
そういうと、王女はえっへんと胸を張った。
「明日は深い所までは行きませんけど? 良いんですかお姫様」
「どこまで潜るのフロルくん」
「明日は二階ぐらいかな。俺たちも初迷宮だから、道とか、動き方とか覚えないといけないんで」
「五階のミノタウロスは倒さないの?」
「無理」
「無理」
「無理よ」
「王族得意の無茶ぶり」
「ま、まあ、良いわ、マレンツ先生と迷宮探検って目的は果たせるし」
「くそう、割り込んできたな。行き遅れが深部に潜っている今がチャンスだと思ったのに」
「ふっふっふ、甘いわよペネロペ」
「「きゃ~~♡」」
女の子はこういうの好きだよねえ。
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