第20話 【着火】マンはみんなの勉強を見ながら錬金をする

 錬金室に降りると珍しく先客がいた。

 女性の冒険者だ。

 彼女が中釜を使っているから、大釜のポーションからやるかな。


「おお、ここが錬金室かあ、お、B級の ノヴェラじゃん」

「フロルくんこんにちは、珍しいね」

「ハカセの錬金の付き添いで昇級試験の勉強をするんだ」

「へえ、もう昇格なの、早いねえ」

「ハカセのお陰さっ」


 私はノヴェラさんに黙礼した。

 錬金術師? かと思ったが、剣を下げている、軽戦士かな。


 子供達はテーブルに付いてパンフレットと羊皮紙を広げた。

 まずは書き写して覚えるっぽいね。


「懐かしいなあ、私もパンフレットの書き写ししたよ」

「ハカセ、この人ノヴェラ、軽戦士だ」

「初めまして、マレンツです。よろしく」

「ノヴェラです、噂の【着火】マンさんですね、よろしく」


 ノヴェラさんはにこやかに笑った。


「失礼ですが、何をお作りに?」

「あ、毒薬です。剣に塗って戦うんですよ、私は一発の重さが無いので」


 ノヴェラさんの中釜では紫色の液体がぐつぐつ煮えていた。

 なるほど、速度で戦う軽戦士だから毒で威力を上げるのか。

 いろいろ考えているんだなあ。


「毒は良く効く魔物がいるんだ、中層のケレストルかな?」

「そうよ、ケレストル狩りよ。さすがはフロルね詳しいわ」


 そうか、毒という手もあるんだね。

 冒険者の戦闘方法は多岐にわたるね。


 私がまな板で薬草を刻んでいたら、ラトカが見に来た。


「ハカセ、ポーションを作る所見ていていい?」

「いいよ、というか、一緒に作ろうか」

「うんっ!」

「ラトカ、勉強は良いのかよう~」

「うるさいわね、チョリソーと違ってあんまり勉強する事が無いのよ」


 フロルが振り返った。


「ハカセ、ポーションってラトカでも作れる物か?」

「僕でも作れるからね、問題無いと思うよ」

「わっ、覚えたいっ」

「ポーション作れると便利よねえ」

「ノヴェラさんもどうですか?」


 ノヴェラさんも物欲しそうな顔をしていたので誘ってみた。


「ええ、良いんですかっ」

「かまいませんよ」


 ポーション自体は作るのはそんなに難しく無い。

 あまり製法が知られていないのは錬金術ギルドが製法を独占しているからなんだろう。


「お料理を作るよりも簡単かもしれません」

「私、よく鍋をこがすのよねえ」

「私はお料理得意っ!」


 ラトカが胸を張った。


 二人に教えながらポーションを製作した。

 切って、魔力を流しながら攪拌かくはんするだけだから、簡単だ。


 ボワンと大釜から緑色の煙が上がると薬草の姿は無く、とろりとしたポーションができあがる。


「意外に簡単なのね」

「よし、これでハカセが抜けてもポーションを自作できるな」

「薬草の方が安いもんね」

「ポーション代、馬鹿にならないのよねえ」


 ノヴェラさんは中層でも深い所に行くから準備が大変らしい。


「ああ、マジックバックが欲しいわね」

「この迷宮で出るのですか?」

「年に二つ三つ出るわよ」

「この前は大型バックが出て街がお祭り騒ぎになったぜ」


 マジックバックというのは、中が亜空間になっていて、物資が沢山入る袋だ。

 沢山の荷物を持ってもかさばらないし、重さも感じないので需要が高い。

 大型の物となると、億のお金が動くとも言われている。

 商人とかは是非欲しいだろうしね。


 ポーションを瓶に詰めて、一本、ノヴェラさんに渡した。


「え、良いんですか?」

「お近づきの印に」

「ありがとうございます、うれしいです」


 手伝ってくれたお礼にラトカにも渡した。


「ありがとうっハカセ」


 ラトカはできあがったポーションを仲間に見せびらかしていた。


 ノヴェラさんの毒は煮詰まったようだ。

 真っ黒なペースト状のそれを彼女は蓋付き容器に入れた。


「それでは、お先に失礼します」

「はい、お疲れ様です」


 ノヴェラさんが錬金室を出ていった。

 なかなか感じの良い人だったな。


「ノヴェラさんは、今、彼氏いないぜ」

「わりと狙ってる奴多いんだよ。ハカセも狙っちゃえば」

「ノヴェラさんはウロンって東洋麺が好きなんだぜ、こんど誘ってみたら」


 ウロンか、太い麺をスープに浸して食べる物だな。


「考えてみるよ」

「ちょっと男子~、勉強しなさいよ~」

「そうよそうよ」


 ナンパのお話は女性陣には不評のようだね。

 フロルとチョリソーはウヘエと言って席に戻った。


 ポーションは九本出来た。

 大釜を流しで洗ってから、小釜に刻んだケラリ草を入れ【水出】で水を注ぐ。


「ハカセー、割り算が解らん」

「どれどれ、見せてみて」


 鍋が煮立つまでチョリソーの算数を見てやった。

 割り算は難しいからね。


「あ、なるほど、筆算すると解りやすい」

「お、良いな、俺も真似しよう」


 マジックポーションが煮立ったので魔力を流して混ぜる。

 ぼわっと薄桃色の煙が上がり、マジックポーションもできあがりだ。


「わりと錬金術って簡単なのね」

「手順を知っていれば簡単だよ」

「今度、自分でもマジックポーションを作ってみるわ」

「がんばって」


 僧侶のラトカがポーションも自作できると便利だね。

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