第19話 【着火】マンは昇級試験対策をする

「さあ、キリキリ歩けっ」

「ちっくしょー」


 後ろ手に縛られた流星をゲシゲシ蹴りながらフロルは進む。

 門番さんが話を聞きに来たが、事情を話すと通してくれた。

 そのまま冒険者ギルドに連行だ。


 ギルドに入ると受付のレイラさんが眉を上げた。


「レイラねえちゃん、こいつポカポカ草原で薬草をカツアゲしようとしてた」

「あら」

「そ、そんな事はしてねえっ、信じてくれっ!」


 レイラさんは私の顔を見た。


「流星さんは銀のグリフォン団に薬草を献上しろと命令しました。その後喧嘩になって討ち取られました」

「そう」

「そ、そいつらは嘘をついてますっ、このガキどもが何もしてない俺に草原で襲いかかってきてっ」

「ディエゴさんは薬草取りの依頼を受けてましたね」

「そ、そうだよっ」

「おまえ、薬草袋持ってねえじゃん」


 チョリソーの指摘に流星は肩をビクリと震わせた。

 流星はディエゴという名前なのか。


「嘘だ、神に誓ってそんな事してねえっ!! 薬草採りの偵察だったんだ」

「神様持ち出して嘘をつくと罰があたるんですよっ」


 ラトカが尖った声を出した。

 彼女は僧侶だもんなあ。


「俺らは別に良いんだけどよう、他の子供パーティを狙われるとヤバイじゃん、だから捕まえてきた」

「ふむ、解りました、ディエゴさんは今後、薬草取り禁止です。元々子供がやる仕事なので大人がやるべき物では無いんですから」

「そ、そんなあ」


 流星はがっくりと肩を落とした。

 まあE級依頼の、ドブ掃除とか、荷物運びとかをして貰えば良いね。


 チョリソーが流星の後ろ手に縛っていたボーラを解いた。

 興味を失ったように子供達はカウンターにどさどさと薬草袋を置いた。


「良い品質ね、ちょっと高めに買い取るわ」

「ハカセが取り方のコツを教えてくれたんだ」

「なんでもできるんだよ、ハカセ」

「なんでもって、出来る事だけだよ」


 銀のグリフォン団がレイラさんと和やかに話していると、流星は険しい顔をして離れて行った。


「おぼえていろよっ、ガキどもっ!!」

「うるせえっ、クソ嘘つきめ、狼に噛まれて死ねっ」


 流星は荒々しくドアを蹴り開けて出ていった。


「あいつ、剣使えないぜ」

「そうでしょうね、二つ名も嘘だわね」

「除名とかしないの?」

「しないわ、嘘をついて息苦しくなるのはディエゴさんの自由だし」

「彼が犯罪とかを犯したらどうするんですか?」

「犯してから捕まえますよ。それまでは自由です」


 迷宮都市らしい自己責任の流儀なんだなあ。

 剣が使えなければD級の試験に受かる事は無いだろう。

 迷宮に入る人間は荷物運びポーターでもD級カードが要るのだ。


「ずっとD級になれなくて嫌になってやめちゃう冒険者は多いんじゃないですか?」

「その為の賃金の安い街の雑事なんですよ。雑事も出来ないぐらいの半端者は要りませんので」


 ああ、E級自体が選別試験な訳か。


「この街では裏町でもD級持って無いとちゃんと扱われないんだぜ。使い捨ての奴隷みたいにされるんだ。D級が要らねえのは夜の姉ちゃんぐらいだ」


 本当にゼラビスは冒険者の街なんだなあ。


「三回目は物納じゃなくて、マレンツさんがポーションにして納品ですね」

「はい、錬金室は空いてますか?」

「六時から予約を入れておきますね」


 レイラさんは帳簿に予約を書いた。


「売り上げは本当に折半でいいのか? ハカセが半分取ってもいいんだぜ」

「銀のグリフォン団の仕事だからね、頭割りだよ」

「ハカセって気前がいいよなあ」

「さすが元お貴族さまって感じよね~」


 いやあ、貴族でもがめつい人は多いんだよ、エリシア。


 私たちは、またポカポカ草原に出て薬草を摘んだ。

 ケラリ草も摘んだからマジックポーションも出来るね。

 森に入れば、毒消し草とか、スタミナ薬の元のキノコとか採れそうなんだが、あまり大量に錬金薬を作ると錬金ギルドが怒るのでほどほどにしておいた方が良いらしい。

 少量ならお目こぼしがあるそうだ。


 薬草袋をパンパンにして、またギルドへと戻る。

 ポーションは中釜一つ、マジックポーションは小釜一つという所だろうか。


「そうだ、レイラ姉ちゃん、エリシアがファイヤーボールを安定して出せるようになったぞ」

「あら、早いわね」

「今は大体失敗しないで出せるようになったわ」

「えらいえらい、じゃあ、試験の予定を入れる?」

「そうしてくれ、学科を勉強しなきゃならないから、来週かな」

「解ったわ、学科合格したら実技の試験の予約を決めましょう」

「レイラさん、試験の問題集とか、参考書はありませんか?」

「そんな物は無いわね、パンフレットに載っていることを覚えるだけで大丈夫ですよ」


 レイラさんはギルドのパンフレットを手渡してくれた。

 木版印刷かな、結構綺麗に作ってある。


「ギルドの資料室を使っても良いわよ」

「よし、ハカセ、明日から勉強しようぜ」

「そうだね、フロル」

「あー、もう、俺、字を見るだけで眠くなるよ」

「みんな読み書きは出来るの?」

「だいたいできる、たまに字がひっくり返ったりするけど」

「何とか読める、書くのは苦手だけど、まあ、何とか」

「私は完璧よ、お母さんに教わったし」

「魔法使いの家は良いよなあ」

「私も大聖堂で習ってるから」


 聞けば、大聖堂では読み書きアバカスそろばんを無料で教えてくれるそうだ。

 識字率は高そうな街なんだな。


「字が読めないと、どうしても悪い奴に騙されるからね、冒険者には必須の技能よ、計算もできると良いわね」


 ふむ、意外に世知辛い理由だったが、平民が教育を受けるのは良い事だと思うな。

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