第13話 【着火】マンは錬金の準備をする

 さて、エリシアへのコーチも終わり、彼女は岩に向かってバスンバスンとファイヤーボールを撃って、ヘタレた。


「どうしたの、あ、魔力切れか」

「うう、調子にのって打ち過ぎた~~」


 魔力切れは体内の魔力を使いすぎて起こる現象だ。

 もの凄く体がだるくなって動けなくなる。

 しばらく休むか、マジックポーションを飲むと治る。


「あらあら」


 エリシアが倒れたのをみて、ラトカが走り寄ってきた。


『我が体内に流れる元素の力よ、友の体に流れ込み、その身を支えよ』


 ラトカの手が青白く光ってエリシアの体の中に吸い込まれた。


「風属性、第二階層の【譲渡】マナシェアだね」

「うん、ちょっとしか譲れないけどね、魔力」


 エリシアが目をぱっちり開けて立ち上がった。


「ラトカありがとう、助かったわ」

「無理しちゃ駄目よ」

「うん、ごめんなさい、ハカセもごめんね」


 魔力切れは体に魔力が少なくなった状態だから、少しでも魔力が増えれば治るんだね。


「マジックポーションは持って無いのかい?」

「高いし」

「一本、金貨一枚するのよ、飲めないわ」


 ああ、そんなに高いのか。

 迷宮都市だから、需要が高いので値段もつり上がっているんだな。

 ふーむ。

 たしか、さっきケラリ草生えていたよな。

 私は記憶をたどってケラリ草の元に来た。

 ポツポツと生えているね。


「あ、ケラリ草、これ、高く売れるのよ」

「凄いわハカセ」

「薬草としても売れるけど、これからマジックポーションが出来るんだ」

「そうなの?」

「ギルドに帰ったら錬金釜を借りてマジックポーションを作ってあげよう」

「え、でも悪いわよ」

「とっさの時に魔力切れになって動けない方が危ないよ。保険で二三本は持っていたほうが良いよ」

「あ、ありがとうっ、ハカセ」

「ハカセは良い人ねえ~」


 ポカポカ草原に鐘の音が聞こえてきた。

 三時の鐘だね。


「よーし、みんな、また納品に帰るぞ。なんだその草は、ハカセ」

「ケラリ草、個人的にマジックポーションを作ろうと思ってね」

「おーー」

「エリシアが魔力枯れになったのー、だからハカセがマジックポーションを作ってくれるって」

「ハカセはなんでも出来て凄いなあっ、只の草から、マジックポーションが作れるのかっ」

「錬金術は大学で習ったからね」

「ポーションも作れる?」

「作れるよ、ついでに作ってみんなで一本ずつ持ってみるかい?」

「そ、そうだな、狼が出るかもだし、うん、その方が安全だ」

「わかった、薬草もちょっと売らないでポーションにしよう」

「わあい、ハカセありがとうっ」


 団のみんなが喜んでくれると嬉しいからね。


 みんなでまたギルドに戻った。

 レイラさんがまた無表情に迎えてくれた。


「これで全部ですか? マレンツ博士、それはケラリ草ですね、そちらも買い取りましょうか?」

「いえ、これはマジックポーションを自家生産しますので。錬金釜のレンタル料は幾らぐらいですか?」

「一時間三千ロクスです。ポーション、毒消し、マジックポーションの製作依頼はC級依頼ですが、特例でマレンツ博士なら受けても良いですよ」

「おー、儲かるぜハカセ!」

「その依頼をこなすと、銀のグリフォン団のパーティポイントになりますか?」

「ふむ」


 レイラさんは考え込んだ。


「全部とは行きませんが、半分はパーティポイントに加算しても良いですよ。今は薬品類が不足してますので」

「うわっ、偉いぞハカセ、筋が通ってんなあっ!!」

「C級の依頼なら、半分でも凄いわ」

「エリシアさんがファイヤーボールをちゃんと撃てるようになったら、すぐD級になれますよ」

「コツは掴んだのよ、レイラさんっ、ハカセのおかげ」

「では練習ね、自信が付いたら試験を申し込んでね」


 フロルが酢を飲んだような顔をした。


「D級試験かー」

「試験は何をするの?」

「筆記試験と模擬戦で戦えるか見ます。ある程度の腕が無いと死にに行くようなものですからね」


 ゼラビス大迷宮はちゃんとしているなあ。

 地方にある寂れたダンジョンなんかは、管理とか全くしてなくて、冒険計画書を迷宮前のポストに入れただけで入れる所も多いんだ。


「筆記試験は何を?」

「迷宮の基礎知識と、読み書き計算が出来る事ですね」

「ぐぬぬ、厳しいぜ、まだ先だと思っていて、ぜんぜん勉強してねえ」

「うん、来年ぐらいだろうなって思ってたからなあ」

「来週、講習会があるから参加しなさいよ」

「わ、わかった」


 冒険者相手の講習会も開いているんだな。

 エリシアとラトカは勉強ができそうだが、フロルとチョリソーがなあ。


「試験が近づいたら教えてあげるよ」

「ほんとかハカセっ!」

「たすかるよう、ハカセに教えて貰えば千人力だっ」


 冒険者教育というのはこの国では初等教育代わりになっていて、依頼書を読んだり書いたり、計算をしたりで、社会生活の基礎勉強が出来るようになっている。

 そこら辺の市民さんたちも、子供の頃は冒険者に憧れて、いろいろ勉強して、それから、足を洗って市民になる人も多いね。

 貴族みたいに学校へは行けないから代わりになっている所がある。


 私はレイラさんに錬金釜の予約をした。

 六時から一時間ほどだね。

 多目に作って、余剰分はギルドに売って、パーティポイントを稼ごうではないか。

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