第12話 【着火】マンはファイヤーボールのコーチをする

 薬草納品の一回目を行い、レイラさんから銀貨を貰った。

 一日三回薬草の納品すれば、最低限の生活は出来そうだね。

 宿と食事はギルドとなるけど。


「よっしゃー、じゃあ、また薬草採りに行くぜー、ハカセとエリシアはファイヤーボールの特訓な」

「わかったわ」

「了解した」


 冒険者ギルドを出て、街門を目指す。


「ハカセは街の観光とかした~?」


 僧侶のラトカが話しかけてきた。


「まだだよ」

「そっかー、日曜日に大聖堂を案内してあげましょうか?」

「ゼラビス大聖堂かあ、いいねえ」


 街の西側には有名なゼラビス大聖堂がある。

 立派なステンドグラスで有名だね。

 あと彫刻の良い物があるらしい。


「ラトカは聖堂生まれなのかい?」

「うんっ、お父さんは司祭だよっ」

「それは凄い」


 テスラ神教の司祭さんというと割と偉いね。

 ゼラビス大聖堂には聖女さまも居て、それも名物だ。

 とても綺麗な方らしい。


 話をしながら街門を抜け、屋台で焼肉パンを買った。


「お金が儲かったから、ハカセの装備を買わないとな」

「そうね、今は普段着だもんね」

「魔法を使うには支障無いのだが」

「ばっかハカセ、冒険者は見栄っ張りの職業だからさ、ちゃんとそれらしい格好をしてないと馬鹿にされるんだって」

「魔法使いはローブを着て三角帽をかぶるものなのよ」


 ウジェニーさんのような格好かあ、あまり気が進まないな。


「薬師とか、錬金術師みたいに、皮鎧と鞄でも良いかもしれない~」

「馬鹿、エリシア、【着火】マンだからな、赤で凄い魔法使いっぽい格好をしないと舐められるぞ」

「そうね、赤ね。ハカセの魔法属性は」

「うちの家系は三属性だね、火、風、土だよ」

「私は火、風、闇よ」

「闇適正があるのは珍しいね」

「眠りの魔法が便利なのよ~」


 闇属性第一階層の【睡眠】(スリープ)か、地味だけど良い魔法だよね。

 自分への安眠用の零階層|【眠】(レスト)と違って他人に眠気を仕掛ける事ができる。

 魔物でも人間でも眠いと隙が出来るわけだね。


「明日、ハカセを連れて街を案内してやろうぜ」

「ありがとうチョリソー」

「いいんだぜ、みんな世話になってるしさあ」

「観光案内してやらないと、筋が通らねえ。それで服屋で真っ赤なローブを買おうぜっ」

「いいわね、似合いそうっ」


 真っ赤な服は勘弁して欲しいなあ。


 草原の岩に座ってみんなで焼肉パンを食べる。

 エリシアが水筒の水を分けてくれた。

 水筒も買わないといけないな。


「じゃあ、午後の部は三時まで、ハカセとエリシアはファイヤーボールの特訓な」

「わかった、頑張るっ」

「了解した」


 私とエリシアは草原のちょっと開けた空き地に行った。


「まずは、発動しなくても良いから一発ファイヤーボールを撃ってみて」

「わかったわ」


 エリシアは背丈ぐらいもある魔法の杖を岩に向けた。


『そは灼熱の諸元の組成、根源の地より来たれ、我が敵を打ち砕け』


 詩的な詠唱が終わり、ポスンと音を立てて煙が出た。


「しっぱーい、三発に一発ぐらいしか出ないのよ~」

「詠唱がすらすら出てきて凄いね、あと、魔力量も私と同じぐらいのようだね」

「えへへ、ありがとう、魔力量はね、大人並みにあるんだよ」


 エリシアは才能があっていいね。

 ファイヤーボールは四発ぐらい無理なく撃てるかな。


「魔力の流れが、肩あたりでよれているね、体の中の魔力の動きに注意してごらん」

「う、うん、やってみる」


 人体の魔力の発生地点は尾てい骨あたりだ、そこらへんに高次の次元に通ずる器官があるのではと仮説されているね。

 尾てい骨から発生させた魔力を背骨に沿って動かして、肩から腕、腕から杖に通して詠唱で形を誘導して魔法を生成する。

 アセット魔法とはだいたいこんな感じの物だ。


 初心者の頃は肩の辺りでイメージが途切れて流れが悪くなる事が多い。


 エリシアはすっと杖を上げて、ファイヤーボールの詠唱を始めた。

 魔力が杖に留まり形を変え始める。

 魔法陣が杖の先に現れて炎が渦巻き球を形作る。


 よし、ここまでは順調だ。


 目標となる岩を目視し、発射する。

 

 ボン!


 炎の球が岩に向かって飛んだ。

 この飛行フェイズでは意思の力で軌道を動かす事ができる。

 大学の友達だったシアンくんは曲打ちが得意で、発射した火炎弾をぐるんぐるんと体の周りで回して見せるのが宴会芸の十八番であったな。


 無事に火炎弾は岩に着弾、その瞬間ファイヤーボールは爆発して岩を少し削った。


「やったあっ!! 肩に注意するとやりやすいねっ」

「上手い上手い、すごいねエリシア」

「ありがとうハカセっ! お母さんも魔術師なんだけど、教えるのが下手で、がーっとやってがーっと当てんのよって言って良くわからなくて。そうか魔力の流れなのね」

「そうそう、流れが良くなれば発動ミスは減るよ。友達のシアン君は器用でね、足の先とか、頭の天辺とか、お尻とかからファイヤーボールを出す事ができたよ」

「わああ、それは器用ね、杖を使わないで撃てるのね」

「慣れると平気だとか言ってたよ」


 シアン君は元気かな。

 卒業してから全然会ってないけれども。

 たしか宮廷で小さい魔法を応用する部署に就職したんだっけかな。

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