第11話 【着火】マンは薬草を納品する
「まったくよう、薬草の納品が遅れるじゃねえかっ」
「アルモンド侯爵って迷惑よね~」
「ほんとほんと」
銀のグリフォン団のメンバーはブツブツ言いながらも手を動かして薬草を摘んでいる。
しかし、アルモンド侯爵は放漫な人だなあ。
地方貴族があんなに野蛮だとは思わなかった。
実際に世間に出て見ないと解らない事は多いよね。
街門の前にでていた迷宮都市の人達は、もう中に引っ込んでいて、ぽかぽか草原は元通りの穏やかさに戻っていた。
まあ、依然として遠くで幌馬車がぼうぼう燃えてはいますけどね。
ちょっと私の分が早く集まったので、遅れているチョリソーの分を手伝う。
銀のグリフォン団の薬草のノルマは一人、中袋一杯なのだ。
「わあ、やっぱりハカセの採取は丁寧だなあ」
「チョリソーも盗賊なんだから、もう少し丁寧にやろうよ」
「ちがいねえ」
チョリソーは照れくさそうに笑った。
「よーし、みんな袋一杯になったな、冒険者ギルドへ納品に行くぞー」
「「「「おーうっ」」」」
子供達と一緒に薬草採りをしていると、子供の頃、野原で街の友達と遊んでいた事を思い出すね。
あの頃の仲間達は、みんな成人して、デズモンド領で小間物屋をやったり、馬丁になったりしている。
昔の一日はとても長くて、毎日ワクワクしたなあ。
銀のグリフォン団と活動していると、あの頃の気分が戻ってくる感じだね。
フロルが先頭になって、銀のグリフォン団は街門をくぐった。
門番のおじさんに冒険者カードを提示する。
このカードが無いと街門の出入りのたびに入管作業が発生して、入門税で五百ロクスを取られてしまう。
街に入り、冒険者ギルドを目指す。
昼前なので人の波は少々落ち着いた感じだ。
日帰りの冒険者は、この時間からダンジョンに潜る人も多いらしく、迷宮入り口は混雑していた。
冒険者ギルドのスイングドアを通ると酒場は混み合っていて、厳つい兄さんたちがこちらをジロリと見た。
「なんだあ、良い大人がガキに混じりやがって、金玉ついてんのかよっ」
「ひょろっちいな、貴族のぼんぼんか」
そんな心ない言葉が交わされる。
フロルは舌打ちをして酒場の方を見たが、なにも言わず、私の後ろに行って腰を押してきた。
「あいつら、
「そりゃ乱暴だよ、フロル」
「冒険者は舐められたら終わりだぜっ」
あまり喧嘩は好きじゃなんだよな。
あと、室内で私の
銀のグリフォン団は受付の列に並んだ。
昼前なのに混んでるな。
「この時間だと、冒険者登録とかだな、依頼とかはもっと早いぜ」
チョリソーが訳知り顔にそう言った。
「おいっ、なんで俺がEランク始まりなんだよっ!! ふざけんなよっ!!」
「ご不満でしたらお帰りになってください」
「なんだとーっ、『トレカーテの流星』の二つ名を持つ俺が、どうしてそこらの一般人と同じ扱いなんだよっ!! 説明しろっ!!」
若くて腕に自信がある男がレイラさんに食って掛かっている。
トレカーテは王国の端の地方都市だから、二つ名も知らないって。
「冒険者ギルドの決定に従えない方は契約をして頂かなくても結構です」
レイラさんは冷たく言い放った。
「やろうっ!!」
トレカーテの流星は剣を抜いた。
「馬鹿にしやがってっ!!」
「ギルドではお静かに願えますか?」
レイラさん危ないと思って動こうとした私の手を、無音で近寄ってきた細長い男が押さえた。
「お気遣いはいりませぬ、マレンツ博士」
細長い男は不思議な笑みを浮かべてトレカーテの流星の背後を静かに取った。
「ぐっ!」
肩を軽く押さえただけなのにトレカーテの流星の動きはピタリと止まった。
「ここは冒険者ギルドです、剣を振り回して何かを要求する鉄火場ではございません」
「あ、あがががががっ!!」
力を入れているようには見えないのだが、細長い男は若い男の腕をひねり上げていた。
「どういたしますか、ギルドマスター」
「外に捨ててきて、アルバーノ」
「かしこまりました」
アルバーノと呼ばれた細長い男はトレカーテの流星をひねり上げてギルドの外に出て行った。
「誰?」
「ギルド職員のアルバーノさん、凄腕だよ」
正面戦闘ではなくて、暗闘とか、諜報戦とかの要員っぽいな。
さすが冒険者ギルド、ああいう要員も必要なんだな。
次の冒険者は、依頼を受けるパーティだったので、すぐ済んだ。
銀のグリフォン団はカウンターにどさどさと薬草を置いた。
レイラさんが厳しい目で検品していく。
「マレンツ博士の品物は良いですね、みんなも真似をしてね。十束ごとにくくってあって使いやすいわ」
「おお、ハカセのすげえ、整然としている、さすが【着火】マンだぜ」
「私も真似する~~」
「十束単位の方が使いやすいの?」
「ポーションのレシピの基礎単位が十束ぐらいなんだ、分量が大事だから、計量の手間が少し省けるんだね」
「やっぱりマレンツさんは詳しいですね」
「昔取った杵柄でして」
ふと後ろを見ると、部屋の隅に静かにアルバーノさんが佇んでいて、目が合うとちょっと頭を下げてくれた。
渋いおじさんだな。
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