第14話 【着火】マンは錬金作業をする

「お疲れ~~、明日は日曜日だから、ハカセに街を案内してやるぜ」

「ありがとう、嬉しいよ」

「服とか装備とか買おう」

「どこに行くか考えておかなきゃ」

「それではハカセ、また明日ね~」


 三回目の薬草採りが終わり、ギルドに納品した後でみんなと別れた。


「マレンツ博士は子供達に好かれてますね」

「良い子達ばかりですからね」

「銀のグリフォン団は注目の子供パーティですよ」


 他にも子供パーティが居るのかな。

 地元の子供が四人という事はないだろう。


「あそこはフロルがしっかりしてるし、僧侶のラトカがいるのでバランスが良いんですよ」

「あー、やっぱり僧侶のメンバーは少ないですか」

「僧侶さんたちは神殿の療養所で仕事が出来ますからね、あえてダンジョンに潜ろうという人は少ないのですよ」


 それはそうだろうね。

 安全に稼げるのに、あえて危険な道を選ぶ人は少ないだろう。


「ラトカはお父さんが元冒険者だったので特別なのです」

「なるほど」

「錬金場は地下にあります、これが鍵です」

「ありがとうございます」


 レイラさんから錬金場の鍵を受け取った。

 階段を降りると地下の施設があった。

 牢屋とかもあるね、誰も入って無いけど。


 錬金場と書いてあるドアで鍵を使い中に入った。

 魔導灯を付けると、以外に広くて綺麗な場所だった。

 大型の錬金釜、中型の錬金釜、小型の錬金釜が並んでいる。

 そんなに沢山は作らないから小型釜でいいね。


 私はまな板でケラリ草を刻んで小型釜に水と一緒に入れた。

 薪も部屋の隅に積んであったので、釜の下に積み上げて、普通の【着火】ティンダーで着火した。

 規格外の【着火】ティンダーを使うと天井をぶち抜いて二階にまで到達してしまうからさ。


 ぐらぐらと煮立ったら混ぜ棒で魔力を流し込みながら攪拌する。

 錬金術はアセット魔法ではない。

 物質を使った呪文みたいな物で、私が小さな魔法群の発想を得た元の一つでもある。


 ボンッと煙が立って薄桃色の煙が立った。

 おっと、小分けするガラス容器が無いな。

 一階に売っているだろうか。


 と、思ったら木箱を持ったレイラさんが入って来た。


「小分け瓶必要ですよね」

「ありがとう、気が利きますね」

「一本百ロクスよ」

「……十本下さい」


 私はレイラさんにお金を払った。


「良い色ね、品質を確かめても良いかしら」

「どうぞ」


 レイラさんはお玉を鍋につっこみマジックポーションを小皿に取って口に含んだ。


「良いわね、品質が高いわ。あと、ほんのり甘い」

「火加減で結構味が変わるんですよ」


 小鍋からは五本のマジックポーションが取れた。

 エリシアとラトカに一本ずつだから、三本は売れるね。


「三本売りますよ」

「マレンツ博士の分はいいの?」

「私の【着火】ティンダーは省エネなので」


 私の【着火】ティンダーなら三十発撃っても魔力切れは起きないだろう。


「便利ですね。この品質のマジックポーションなら一本五大銀貨で引き取りますよ」

「五千ロクスですか、意外に貰えますね」

「今、錬金薬が品不足ですから」

「三日分の宿代にしておいてください」

「解ったわ。ポーションは余りそう?」

「この小鍋だと、五本分なので、ちょうどぴったりですね」

「中釜で十本作って五本売ってくださいな」

「買値は幾らですか?」

「大銀貨一枚、上の売店で大銀貨三枚で売るわ」

「ポーションも高いですね」

「迷宮都市価格なんですよ」


 そう言ってレイラさんはふふんと笑った。


「わかりました」

「上で待ってるから出来たら持って来てくださいね」

「了解です」


 私は小釜を【出水】で洗って、中釜に薬草を入れた。

 あ、薬草が足りないかもと思ったら、レイラさんが持って来た木箱に薬草が入っていた。

 有能で気の利く人だな。

 なんだかちょっと嬉しくなった。


 問題無くポーションも出来た。

 よし、フロルたち喜ぶぞ。

 ポーション類が鞄に入っていると安心感が違うだろう。


 木箱にポーションを入れて一階に持って行く。


「できましたよ」

「わあ、良い色ね、専業で錬金術師もできるのではない?」

「できますけど、あまりワクワクはしませんね」

「それもそうですね」


 レイラさんが大銀貨を五枚よこしてきたので、一枚戻した。


「中銀貨をください」

「あ、追加の瓶代ね」


 レイラさんは中銀貨をくれた。


「まいどあり」

「また、作って売ってください」

「フロルたちに薬草を採ってもらって、それを錬金して納品でも良いでしょうか」

「薬草採りの依頼主は冒険者ギルドだから、良いですよ。どうせ錬金ギルドに卸すのだし」


 流通をショートカットすると、お互い儲かるようだ。

 こんどフロルに提案してみよう。


 レイラさんはポーションとマジックポーションを売店の棚に並べた。


 私は酒場の隅のテーブルに付いて定食を注文した。


「あいよ、ハカセは酒は飲まないのかい?」

「あまり飲みませんね」

「そうかい、そうかい」


 酒場のオヤジさんはそう言って厨房に戻り、料理を持って来てくれた。

 今日はソーセージとスープと黒パンだな。

 いつもながら美味しい。


 売店に冒険者が来て、ポーションとマジックポーションを買っていった。

 うん、夕食を取りながら、自分の作った物が売れるのを見るのは得がたい体験だな。

 胸の奥がふんわりと嬉しい。

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