第八話
ある寺に一人の男が物見がてら参りに行ったときのこと。
境内までの階段を上がり、 靴紐を結ぼうとそばの地蔵の頭に手をついた。すると地蔵がぐらりとゆれた。中からカランと音がする。
不思議に思いゆすってみるとカランカラン、中に何か入っているようである。
住職にその地蔵について尋ねると、中に入っているのは幼子の骨だという。幼くして死んだ我が子に世間を見せてやりたかったと悲しむ母が持ってきた。当時の住職は中を空洞にした地蔵に骨を入れて背負わせた。
音が止んだら返すようにと告げ送り出したが、とうとうその母が帰ってくることはなかった。
しかれども地蔵はひとりでかえって来た。以来ずっとここにおいてある。 そしておかしなことを言う。今しがた出かけましたがね。
男が地蔵のあった方を振り向くと地蔵はない。 ただ遠ざかるカランカランという響きのみ。
大方あなたに触れられ、人の温もりが恋しくなったのでしょう。もう帰ってこないかもしれません。
男は最後に尋ねた。そういう地蔵は他にもあるのか。
住職は笑って答えなかった。
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