-2の糸- 彼と私

-----下校時間になった。

まるで夏の終わりを告げるように夕日が教室を照らす。

帰りたくなかった。

帰ろうと思えなかった。

ぼーっと外の景色を眺めている。

そんな時間が永遠に続いた気がした。

気づくと時刻は17時を回り、教室には当然のように誰も残っていなかった。

1人を除いて。


「⋯考え事はお終いか?」

「⋯⋯」

「ならそろそろ帰ろうぜ。委員会も終わっちまってそろそろ怒られてもおかしくないしな。」

「⋯そうだね。」


彼が私を支えてくれた人。

今でもまるで兄みたいに私にさりげなく寄り添ってくれている。

私と彼---紅葉(くれは)はいつも一緒に下校している。

私は無口な方だから、というかあの事以来感情が迷子になってしまっているため、下校中もほぼ喋らない。

それでも紅葉は一緒に帰り続けてくれるし、帰ってる時、いつも一方的に話し続けてくれる。

そんな紅葉の話が、私はとても好きだった。

⋯?すき?

好きとはなんだろう。

とにかく、聞いていてとても心地が良いのだ。

どうしても自分から口を開くことは出来ないけれど。

こんな日々がずっと続いて欲しい。

それが私の願いだ。



彼との分かれ道。

紅葉は明るく「またな!」と言って、元気に手を振った。

私も小さく振り返す。

そんな姿を見て紅葉は笑っていた。

紅葉と別れて私の家までは徒歩10分と言ったところか。

重い足を引きずるようにして家へ向かう。

波の音が耳をくすぐる。

浜辺が見えてきた。

夕日が沈みかけている海は、誰がどう見ても綺麗だと言えるだろう。

私の足は、誰かに操られているかのようにして浜辺へと進んだ。

綺麗⋯なのかな?

何回みても綺麗と言う感覚が掴めない。

ただ、心が落ち着くというか⋯

これがきれいってモノなのかな?

なら紅葉の話もきれいってこと⋯?

話が綺麗なんて聞いたことがない。

〚内容が綺麗な話〛ならまだ分かるが、話自体を綺麗というのは⋯どうなんだろう?

そんなことを考えていると、時間なんてものは有って無いような物だ。

お月様がこんばんはと私に語り掛けていた。

帰ろう。

おばあちゃんが心配しているだろう。

重たい腰を上げ、少しの伸びをする。

残り少しのはずの道のりが、とてつもなく遠く感じる。

今日はいつも以上に考え事が多い1日だったなと、今日という1日を振り返りながら私は歩きはじめた。

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紅の糸 とれんど @torendo_0729

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