紅の糸

とれんど

-1の糸- 不遇な存在

-----遠くで何かが唸っている。

誰しもが1度は聞いたことのあるような。

私も例外では無いような、、、

「ハッ」と我に返り当たりを見渡す。

どのくらいここにいたんだろう。

私の制服はびしょびしょに濡れ、髪の毛はシャワー上がりのようにぺたぺたになっている。

どうしてこんな所に居るんだっけ?

そこは少しボロい家の目の前だった。

この家には見覚えがある。

「あいつ」の家だ。

辺りを見渡していると、私は家の少し向こうに紅い何かがあることに気がついた。

その瞬間、私は現実へ引き戻された。

なぜ私がここに来たのか、なぜ放心状態になっていたのか、そして、この鳴り止まないサイレンの音の正体。

全ての点が線になった気がして、私は吐き気を催した。

あの紅い物体の正体、それは、、、

その時私の手から零れ落ちた携帯には、119の文字が刻んであった。




-----きっと私はこの世界の中で、不遇と言われている存在だろう。

あれは小学3年生の頃だろうか。

父が事故に遭い、亡くなった。

しかもそのショックが原因で、母は自暴自棄になり挙句の果てには首を吊ってしまった。

私は父も母も大好きだった。

そんな大好きで大切な2人を失って、私の心にはもう何も残っていなかった。

両親を失ってからすぐに、祖母が家に来てくれた。

学校にも行かないし、ほとんど何も口に入れない、更にはいつも上の空で生活している私を、祖母はとてもとても大切に育ててくれた。

そのお陰もあってか、中学生になってからは、ちょくちょく学校に行けるようになり、3年生になる頃には、普通に登校できるようになっていた。


「エ⋯さ⋯」


祖母の他にも私を支えてくれた人がいる。


「エリ⋯ん」


それは小学校に入学して最初に友達になった...


「エリカさん!」


ハッと私は自分の名前を呼ばれていたことに気づく。


「は、はい」

「大丈夫ですか?さっきからぼーっとしてたみたいですが」

「す、すいません。少し考え事をしていて...」


昔のことを思い出していて授業に集中出来ていなかった。

クラスのみんなが怪訝そうに私を見て、所々でひそひそと話している声も聞こえる。


「体調不良ならしっかり言ってくださいね。では-----」


どうしても昔のことを考えてしまう。

少しでも時間があると、考えたくもないのに勝手に昔のことが頭の中に流れ込んでくる。

その流れに飲み込まれるかのように私は上の空になって昔のことを考える。

その繰り返し。

もうこんな生活は嫌だ。

そんなことを思っても、何も変わらないことはとっくのとうに分かっていた。

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