第3話 瀟瀟
薬品と花の香りだ。目が覚めると病院のベッドの上だった。俺が起きるやいなや隣に横になっているオッサンが気を効かせてナースコールしてくれた。60前後位のお嬢さんがきた。どうせなら若い人がいいのに、と邪な事を考えながら、ナースに名前や年齢、学校を聞かれ、程なくしてロマンスグレーな院長らしき人がきた。軽くやりとりを交わしたあと、症状を話してくれた。
「貴方の事を少し検査させて頂きました。そしたらすごいものですよ。病名だけ先にいうと、《先天性食肉恐怖症》ですね。」
聞いたことがない。大体普通に肉食ってたし。
「簡単に説明すると、脳の食欲を司る神経が余分に生えていて、なにかをきっかけに症状が重くなることがありますね。君、小さい頃孤独だっただろう。これは幼い頃ちゃんと食べるもん食べてたら軽症化するんですよ。世界でもたった8例しか報告されていない。そしてなにがすごいってこの病気の人の脳は記憶力に優れている。君もさぞかし成績いいんだろう?てな訳で脳細胞少し寄付してくれんか?」
なんだこのおっさんいきなり失礼すぎだろ。
さっき院長先生って呼んだら“榊原と呼べ”って言ってきたしどこかチャラい。でも俺は世渡りがうまいので、丁重に断っといた。そしたら舌打ちされた。だけどきっかけを聞いてくることはなかった。聞かれたら俺は息が詰まってうまく説明できないし、非常識な奴だと思われる自身がある。
「体の方は大丈夫だからしばらく肉を見ないようにしてれば大丈夫なはず。とりあえずまた明日来なさい。」
といって帰らされた。匂いで倒れたことを解ってるので、タクシーを呼んでくれた。外は雨が降り始めてきたのでありがたい。精神的な疲労もあってタクシーに乗ってすぐ俺は眠ってしまった。タクシーの停車を感じ取り、起きようと思った矢先、ドライバーの人に慌てて起こされた。
「兄ちゃん…お宅の家の前に消防車停まってるぜ…?」
運転手も、酷く動揺しているが、俺もまさかと思い慌てて消防士に尋ねた。
「この家の方ですか?よかった。我々が駆けつけた頃もう半壊していまして、雨のおかげで鎮火はしたのですが…」
なにか伝えにくそうな様子だ。
「焼け跡に焼死体がありまして…。心当たりはありますか?」
妙だ。家には誰もいないはず。誰がそこにいたんだ?
今日はもう遅いのでまた今度聴取をすることになったが、帰る家がない。仕方なく病院に連絡した。院長の榊原がでて、イヤミと心配の言葉を混ぜて言われたが病院で泊まれることになった。
次の日、朝一番で検査され、その後なんとか院長を言いくるめてしばらく病院にいれることになった。交渉が終わり、安心していると、急に神妙かつ愉しそうな感じに院長が話し始める。
この話で俺は人生が良くも悪くも大きく変わることになるのだった。
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