第2話 最終話

部屋の中に入ると、壁に様々な解体用具が掛けられている。あの道具とか何に使うのだろうかと思っていると、奥の扉が開いた。

大柄な男が銀色の檻を雑に引っ張って入ってきた。日頃から解体しているのがよくわかる。作業台でよく見えないが、檻は少しばかり動いているので、まだ生きているのだろう。なにを解体するか知らないが、目を背けてはいけないと思い、覚悟を決めた。

だが、様子がおかしい。大柄の男は重たそうな鎖を取り出し、檻の中のものにつけたようだ。それをあと四回繰り返し、一度部屋の奥に向かった。鶏はまだしも牛や豚にそんな鎖をつけるものか?いくらなんでも過剰だ。

男は部屋のスイッチを押したようだ。どうやら鎖と連動しているようで、徐々に鎖が巻き上げられてゆく。

それから俺は言葉を失う。

最初に見えたのは手だ。前足じゃない。次に腕、頭と順に見えてきた。それは俺がよく知る動物で、同じ言葉を話せる。人間だ。そのショックに唖然としていると、全身が見えた。俺は顔をまだ見ていなかった。はじめてこんなに世界を憎んだ。その人は、俺がよく知る人。美しく、かわいらしく、仕草や声もかわいらしい。

俺が唯一心を許せる人、望月円香その人だ。

それを認識し、ようやく声が出せた。俺は隣の工場長に向かって問いかけた。焦りと怒りでまともに喋れたか怪しかったが、返答がかえってきた。

「貴方も先ほど食べてたじゃあないですか。人間ですよ?どうかされました?」

さっきも言ったが割と頭はイイホウなので、俺はすぐに理解はできた。自分がしたことと、世界の狂った思考回路を。すぐにやめさせようと工場長に能力でつくった武器を向ける。

そして今俺が吐いた吐瀉物を越え、工場長に向かった。だが工場長の能力はどうやら達人の域に達していた。なんなく防がれた。

そうしている内に、解体の準備が終わったようだ。円香の足首の脈をきられ、血が一筋になってバケツに入っていく。血液が途切れ途切れになると、工場長が少し誇らしげに語る。なぜこいつはここまで残酷なのか。

「あの男の能力は少々特殊でして、対象の脊髄と脳さえ残っていればどれだけ負傷しても絶命しないのです。これにより、肉の鮮度を高め、品質がとても上がるのですよ。」

円香はまだ生きている。それが希望にも、絶望にもなる。円香は、シルクのスカーフで首を絞められた。さっきの俺のように吐かないようにだ。円香は元々色白だが、血が抜けてさらに蒼白になっていく。まだ生きている。

苦悶の表情を浮かべ、助けを求めてはいるが無理だと察している目つきだ。その目はさらに曇っていく。

男は壁に掛けてある肉切り包丁を手に取り、

円香の左脚を切り取った。次に右脚、右腕、左腕と順に落としていく。円香はまだ生きている。俺はこの世界に毒されて狂ってしまったようだ。一種心の奥で思ってしまった。

「綺麗で、儚く、おいしそうだ。」

とっさに自分の頬を殴った。どうやら次の解体は内臓らしい。腹を切り開き、丁寧に内臓を取っていく。すると突然作業中に手を止め、男は立ち去った。工場長が口を開く。

あんたどんだけ道徳心がないんだ。

「見て下さい。切り落とした足が少し黒く変色しているでしょう。あの男、力や能力は優れているのですが、どうも不器用で特にあの作業の時脊髄に傷をつけてしまうのです。この段階で絶命させると品質が下がり、見た目も悪くなるので売り物にならない。こうなっては心苦しいですが廃棄ですね。」

そこから俺は記憶がない。気がついたら家で皿を洗っていた。そのまま布団で寝た。

次の日の朝、俺は虚ろな目を隠すよう深くフードをかぶり家をでた。この日も大学で授業があるが、単位足りてるのでサボった。近くの川の付近を散歩し、昼前になったので帰ることにした。歩いてすぐの所にラーメン屋があったが、今日はそんな気分ではないと思い通り過ぎーーーー


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る